第7話

 ここは……?

「ここ、名前は特にないんだよなー。強いて言えば『地球部屋』かな。地球しかないし」

 確かに、ホントに地球しかないな……。結構デカイなー。僕の倍くらいはある? ってか、作り細かいね、この地球。雲の感じとかすごいな……。これ、ホログラム? あれ? お前、どこにいるの? ……っていうか、は!? 壁と床がない!?

「壁も床もないよ、ホントに地球だけ。だからまあ、部屋でもないか。『地球空間』とかの方がいいかなー?」

 そこじゃない! 僕、浮いてる!?

「そうだねー」

 そうだねー、じゃない! なに!? どうなってんの!?

「落ち着いて落ち着いて。落ちないから、安全だから」

 安全なわけないだろ! ……別に安全か? とりあえず、今のところは落ちないな。

「ね、大丈夫でしょ? じゃあ、何から説明しようか?」

 ……ここって何なの?

「『地球空間』」

 話通じないのかよ……。そういうことじゃなくてさ!

「えー、でも、私もあんまり分かってないんだよなー。地球を観察できる場所ってくらいしか」

 地球の何を観察するの?

「多分、全部?」

 全部?

「そう、海も陸も空も、動物も植物も、細かいところまで結構見れるよ。たとえばさ、ちょっと、日本のさっきまでいたあたりに注目してみて」

 いやいや、この大きさでさっきまでいたあたりって……。……うわ、何だこれ。日本が……駅前を歩いている人の顔まで見える。地球、これ、サイズ的に顕微鏡使っても人なんて見えないだろ。どうなってんだ……?

「そういうもんなんだよ、この地球は。あとさ、その人ひとりひとりに注目すると、色々データが見れるから。生年月日とか身長・体重とか。他にも、細胞数とか体を作ってる物質の種類とか、電気信号の流れとか、細かい情報がかなり見れるよ」

 すごいなこれ……。

「すごいでしょ。これでいっちゃん見てたのよ」

 っていうか、なんで僕見てたの? なんで、こんな場所に連れてこられてるのかよく分かってないんだけど。

「いやー、ちょっと手伝ってほしいことがあってね」

 手伝うって?

「一回、地球全体に注目してみて」

 地球全体ね……。地球のデータかこれ。

「そこにさ、『余剰エネルギー』って項目あるでしょ?」

 余剰……あぁ、これか。

「数字どうなってる?」

 どうって……桁数がすごくて……。あ、なんか数字変わったな。最後の桁が4から3、あ、2になった。

「ホント!? よかったぁ……!」

 なにがよかったなのか分かんないんだけど……。

「いや、これを手伝ってもらいたかったのよ。この余剰エネルギーが増え続けると人類終っちゃうんだけどさ、それを阻止するために余剰エネルギーを使って欲しかったのよー。いやー、良かったー。私以外でもエネルギー消費できて」

 ……え、人類終わるの?

「そう。昔さ、恐竜滅んだじゃん。アレみたいに人類が滅ぶの。あ、でもすぐじゃないよ。なにも手を打たなくても数百年は大丈夫」

 余剰エネルギーってやつが増え続けたら爆発でもするの?

「うーん。爆発……ではないかもだけど、余剰エネルギーが許容範囲を超えたら、暴走はするね。で、暴走した余剰エネルギーがスッカラカンになるときには、人類は滅んじゃう。だから、まあ、余剰エネルギーのガス抜きが必要なのよ」

 でも、それって結局何すればいいの? 人類滅ぶほどのエネルギーなんて、どうやって使うの?

「それはね、結構簡単でさ。地球を観察するだけでいいのよ」

 そんなのでエネルギーなんて使うの?

「使うよ、めっちゃ使う。大量の情報を取得するためにかなりのエネルギーを使うから」

 まあ、確かにそうか。どういう原理かは分からないけど、人間の細胞数のカウントとかすごいエネルギーかかりそうだし。

「そうそう」

 ……え、僕、それをするために呼ばれたの?

「そうだよ」

 そんな人手が必要な作業には思えないんだけど。データ取得を僕がするならともかく、ただ見ただけでデータ見れてたし。

「いやー、エネルギーを使うには観測している状態じゃないとダメでさ。私が寝てると余剰エネルギーが貯まる一方だから、他にも観測者が欲しくてさ」

 うーん。……でも、何で僕なの?

「今、私テレパシーで話してるけどさ、いっちゃん聞こえてるでしょ? このテレパシー受け取れる人が少なくてさ」

 そういえば、君、どこにいるの? 姿見えないけど。

「ここだと、肉体はないよ。さっき地球にいたのはいっちゃんに会うために作った体だから」

 へぇ。

「それでさ、テレパシーが伝わらないと手伝ってもらえないから、テレパシーが伝わるいっちゃんにお願いしてるの」

 テレパシーが伝わる人少ないって言っても僕以外にもいるんでしょ? その中から僕が選ばれた理由を知りたいんだけど。

「うーん、説明面倒くさいなー」

 説明する気ないなら、帰るぞ。

「え、どうやって?」

 ……誘拐じゃねえか!

「……実はテレパシーが伝わるかは実際に、話しかけてみないと分からなくてさー」

 おい、誘拐だぞ! 言い方が悪いとかじゃない。

「片っ端から話しかけて初めてテレパシー通じたのがいっちゃんだっただけで、他に選択肢があったって感じでもないんだよねー」

 誘拐! 誘拐!

「まあ、話しかける時点である程度は選んだけどね。私が女だから、男の方が付いて来てくれるかなーとか。特に見返りとかないから、こういうこと無償で手伝ってくれそうなSF好きがいいかなーとか」

 拉致監禁! 拉致監禁!

「それこそ、『ソラハトオク』の監督とかもテレパシー送ったんだけど、全然ダメだったわ」

 誘拐! 誘拐!

「面白い映画撮ってるなーって思ってたから、今日見れて良かったよ」

 はぁはぁ。すごい無視するじゃん……。

「落ち着いた?」

 ……実体なくて良かったな。あったらぶん殴ってる。

「暴力はやめようよ、そういう時代じゃないよ」

 ………………。

「いや、こっちが悪いのは分かってんのよ? でも人類の危機だからしょうがないじゃん!」

 ………………。

「ごめんってー。でも、地球を一人で管理するのってめちゃキツイんだって。お願い。手伝って」

 ……お前、神様なの?

「え、違うよ」

 え!? 違うの!?

「違う違う違う。……え、何でそう思った?」

 地球を一人で管理してるんだろ? あと、テレパシーって言ってるけど、ホントは天からの声なんじゃないのか?

「あー、確かに昔テレパシーで天災への対処法とか伝えると神託とか言われてたなー。でもホント神様じゃない。なんていうか、雇われのワンオペ店長みたいな感じよ」

 誰に雇われてるの?

「んー、まあ、誰にも雇われてはいないんだけどさ」

 神様じゃん!

「えー。じゃあ、神様でいいよ。手伝って。お願いお願い」

 うーん……。まあ、いいか。実際、SFとか好きだしね。見返りとかなくても手伝うよ。

「意外とちゃんと聞いてたんだね」

 どんなデータも見ていいの? 個人情報とかめっちゃ筒抜けになるけど。

「まあ、大丈夫でしょ。神様だし」

 自分で神様って言ってんじゃん……。僕が見るのでも大丈夫なの?

「大丈夫大丈夫。あ、あとさ、テレパシーで呼びかけもしてほしいんだよね。私といっちゃんだけだと、このまま地球の人口が増えていくと余剰エネルギーが使いきれなくなりそうだから」

 いいけどさ、どのくらいの数なのテレパシー通じる人って。

「うーん、数は分からないけど、十年くらい呼びかけ続けて初めて通じたのがいっちゃんだね」

 えぇ……。そんなに時間あれば、もう、全人類にテレパシー送り終ってない?

「いや、二、三日に一人くらいのペースだから」

 サボり過ぎだろ。

「サボりではないのよ。テレパシーはすぐには通じなくてさ、何日も送り続けないと、通じる人にも通じないから」

 そうなのか。えぇ……。結構大変そうだな。年間150人くらいとして、十年だと1500人だろ……。1500分の1か……。

「いやー、昔は、もうちょっとテレパシー通じる人分かりやすかったんだけどね。奉られてる人にテレパシー送れば十人に一人は通じたのにー」

 ……もしかして、卑弥呼とかにテレパシー送ってた感じ。

「あー、そうそう」

 すごい時間生きてるんだな。いや、生きてるって言っていいのかは分からないけれどね。

「まあ、ほとんど寝てるからね、実際はそんなに長くないよ。二、三百年くらい寝てて起きたのが、十年前だから」

 十年? 起きてすぐに余剰エネルギーを使う手伝い探してない?

「そう。びっくりしちゃった。起きたら余剰エネルギー、パンパンなんだもん」

 大丈夫なのかよ、地球。こんなやつが管理してて。

「いや、それまではむしろ余剰エネルギーが少ないから、できるだけ節約して、人類を繁栄させるために動いてたんだよ。さっきも言ったけど天災を乗り越えさせたりさ。それが、いきなり人口爆発して、使いきれないくらいのエネルギー余らせてるんだもん」

 今更なんだけど、余剰エネルギーって、人類が余らせてるエネルギーなの?

「人類だけじゃないけど、人類がほとんどかな。余剰エネルギーって、電力とかそういうエネルギーじゃなくてさ。生命の活力みたいなものの使いきれずに放出された余りみたいな」

 それだと、動物全般からエネルギー出そうなもんだけど。

「人間以外の動物は効率よく使い切ってるよ。人間だけだよ、一瞬だけやる気出して、そのエネルギーを何にも使わないの」

 あー。まあ、そう言われるとそうか。

「しかも、昔より、エネルギーを何にも使わない人多くない? 人口めちゃめちゃ増えた上に、一人当たりの余らせるエネルギーの量も増えてたら、そら余剰エネルギーパンパンになるよ」

 いや、お前の言う昔は昔すぎて分かんないけど。まあ、でも、ヤバい状態なのはなんとなく分かるよ。

「そう。だからさ、ね? お願い」

 分かってるよ、手伝うよ。テレパシー送るってさ、相手を思って念じるだけでいいんだよね。

「そうそう! いやー、ありがとね。テレパシー慣れるまでは難しいと思うけど頑張って!」


 地球とヒロインを助ける主人公って憧れてたんだよなー。『ソラハトオク』みたいに。まさに、この状態がそうだよなー。やってやるぞー。


「まあ、こっちは派手なアクションからの救出劇とかはないけどね。そう思ってくれるなら、なによりだよ」


 あれ? 脳内の声、聞こえてる?


「聞こえてるよー。漠然とテレパシー使うってことだけ考えたから、前にテレパシーで会話した私につながったのかな?」

 聞こえてんのかよ……。恥ずかしいって……。

「まあ、テレパシー慣れるまではね。うーん。じゃあ、私は少し寝とくよ。私が聞いてなかったらテレパシー練習しやすいでしょ?」

 そうだね。……あれ? ちょっと待って? おーい。

「………………」

 あれ、もう寝た? え、どのくらい寝るの? 百年とか言わないよね?

「………………」

 おーーーーい。おーーーーい。おーーーーい!

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幻聴少女 睡田止企 @suida

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