【短編】二人は間違え、離れかけ、付き合う
@daikin1192
短編 二人は間違え、離れかけ、付き合う
中学時代の俺は愚か者だった。
小学四年の時に湊と出会い。
それからずっと一緒にいた。
中学一年の時、湊は荒れた。
その頃に長かった髪を振り乱し、どうすれば俺に愛してもらえるのかわからないと、俺の服を掴みながら泣いていた。
もうこの頃には、湊は努力してどの方面にも才能を伸ばしていた。
のちに知った、ただただ俺に釣り合うための努力をしていたことを。
今まで俺が焦ることはなかった。なにがあっても湊は俺の傍にいると、この頃は訳も分からない自信があったのだ。
それが泣いて訴えてきた湊を見て間違いだと気が付かされた。
好きや愛がその頃の俺にはわからなかった。ただ湊に俺の傍にいてほしい。
だけど、湊から離れていったら?
才能がある湊だ。いくらでも優秀な釣り合う男は現れるだろう。
それは嫌だった。
それならばどうすればいい?
努力して湊に釣り合うしかなかった。
いきなり殆どの時間を勉強や運動に向けても、湊が心配する。そんなんことはしなくていい今の周平でいいと言ってくるはずだ。その優しい毒に俺は甘えてしまう。
なら湊といる時間を減らさなければいい。
その頃の一日の睡眠時間は一、二時間になった。
勉強は一人でした。塾に通えば湊が一緒に行くと言うだろう。それではさらに差が付いてしまう。
運動は友人の家が道場を開いていたので、友人の姉に頼んで鍛えてもらうことになった。
朝方まで勉強し、仮眠。湊と登校して学校では友人達と普段通りに遊び、帰りは湊と一緒に帰る。湊が家に帰った後は、道場に行き鍛えてもらう、家に帰れば朝まで勉強をした。
それだけしても凡人の俺は学年で成績上位にギリギリ入るくらい。運動の方はさらに厳しい、才能のあるやつにはどうしても勝つことは出来ないこと思い知らされただけだった。
それでも続けなければ湊との差は更に開いていく。
両親に友人にも友人の姉にも止められた。
道場は出禁になった。壊れるために鍛えているのではないと友人の姉に言われた。
だから一人で隠れて鍛えた。
中学二年の冬、唐突に俺の身体は動かなくなった。
深夜にこっそり家を出て鍛えていたら、力が入らなくなっていた。最近は痛みやきしんだりするのが無くなって鍛錬の量を増やしたばかりだった。
寒いのかも分からなくなった俺が気絶する前に考えたのは湊に嫌われるかもだった。
意識を取り戻したのは半月後、朝方に人に発見された俺は死ぬ一歩手前だったらしい。
そして、俺の身体は壊れた。
一つ一つ医者が説明してくれたが、全身がくまなくボロボロだったようだ。リハビリで普段の生活は出来るようになるが、もう激しい運動は難しいと言われた。
それから友人と友人の姉が来てくれた。友人はいつも通りで、友人の姉は俺の頬を叩いた後、ごめんと抱きしめてくれた。
その後も友人が友達を連れてきてくれた。ただ、湊は来なかった。
母に聞いたら、死にかけていた俺を見て、精神的に大きく不安定になってしまったらしい。湊は湊で他の病院かかっているそうだ。
頻繁に会いに来る友人が、来るたびにケガが増えていた。怪我した原因はヘラヘラ笑って教えてくれなかった。
体は痛むが勉強は出来る。勉強道具を持って来てくれたが教科書などの最低限度のものだった。無理はいけないとと言われたので我慢する。
ようやくリハビリの許可が出た。
それなりに鍛えていた体は針金の様に細くなっていた。また一から鍛えていく、今度はマイナスからだ。
半月ぐらいリハビリを続けたある日、母が休憩に外に出てみたらどうだと勧められた。
外のベンチに座らせてもらって一人で休む。いつの間にか春になっていた。
「周平・・・」
忘れることがない懐かしい声が聞こえてきた。
「よう、酷い格好だな」
「うん・・・」
近くに来ていたのは湊だった、
その姿は酷いものだ。まずよれよれのパジャマ姿、髪は長かったのに肩口でざんばらに切られていてボサボサだ。顔もやつれていて涙が流れた後もある。
湊が俺の前に立つ。
「ごめんなさい・・・」
湊が謝る。
何を謝っているのかわからない。
「私のせいで周平の身体が壊れちゃった・・・」
自分のせいだ湊に追いつけなかった俺の、湊のせいではない。
「周平の傍に私はいちゃいけなかったんだよ」
言うな、それ以上は言わないでくれ。
「もう二度と周平に関わらないようにするね。本当にごめんなさい」
~湊視点~
私は周平の事がわかっていなかった。
「もう二度と周平に関わらないようにするね。本当にごめんなさい」
そう言って深く頭を下げる。枯れていたと思っていた涙がまた出てきた。
そして周平の顔を見ずに、ベンチとは反対方向に走り出した。
周平ママには感謝している。
息子をここまで追い込んだ女にもう一度会わせてくれた。
二人で話し合いなさいと言われたが、私がいる限り周平は無茶を続ける。その先は周平の死だ。
わかる、わかってしまう。
周平の地獄のような日々を聞いた後では。
周平は私には一切を隠していたが他の人には一部分ずつに分けて教えていた。そして私には教えないでほしいと。
知っている人の情報を集めたら、中学生の送る日々ではなかった。
周平が何のためにしていたか、私の為だ。
私は常に周平の愛に餓えている。
いつからかはわからない。気づいたときにはそうなっていたのだ。
周平がいなければ私は壊れていく。
その恐怖を紛らわせるために、そして周平という存在に釣り合うために努力し始めた。才能があったのだろう。頭が良くなる、運動が良くなる、いろいろな技術が増えていくごとに周平に釣り合っていく気がした。
それが周平を追い詰めるとは思わずに。
「待て、待ってくれ!」
足を止めることは出来ない。でも・・・
「待てって言っているだろうが湊おぉ!」
何かが倒れる音がした。
慌てて周平の方に振り向いた。
「何がごめんなさいだ」
地面に四つん這いで
「何がいちゃいけないんだ」
治っていない体は痛みを与えているはずなのに
「二度と俺に関わらないだと」
周平は這いずって
「俺の為なんてどうでもいいんだよ。俺が湊の傍にいたいんだ。それを止めるのだけは止めてくれ!」
私に向かっていた。
ゆっくりゆっくりと亀の歩みよりも遅く。
痛みのせいか涙はボロボロに出て、鼻水も出ている。
「悪い、これ以上は無理。そっちから来てくれ」
「うん、うんっ!」
私は駆け寄る。
周平が這ったの距離はちょうど半分、私も半分だ。
腰を落として上半身をまっすぐにした周平に抱きつく。
「ごめん、ごめんなさい!」
「泣くぐらいなら、関わらないとか言うなよ」
「だって、そうでもしないと周平が無理して死んじゃう」
「でもな、まだまだ足りないんだよ。お前と釣り合う男になるには」
「無理する周平なんか死んじゃえ!私は平凡な周平がいいのっ!」
「無茶苦茶なこと言ってるぞ。そうか平凡な俺がいいのか」
「私に釣り合うなんてどうでもいい。私を受け入れてくれる周平がいい」
「そうか」
周平は優しく背中をポンポンと叩いてくれた。
しばらくして周平ママとなぜか友人君がやって来て、ニヤニヤ笑いながら周平を病室運んでいった。
その後は周平が退院までにいろいろと話した。
周平は私に釣り合う男になりたかったこと、私は周平という存在に釣り合う女性になりたかったこと。
話し合えば簡単に解決できたのに大回りしてしまった。
周平は無茶な努力は止めてくれた。私の方は習慣なものだから止めれないことを周平に伝えると、無理して止めなくてもいいと言われた。
他にもいろんなことを話した。
ずっと一緒だったのに話していないことは多かった。
一度、壊れかけて噛み合わなくなった私達の歯車は歪でガタガタだけど、もう一度周り始めた。
今日は周平が退院する日だ。
外はすでに夏になっている。
いろいろあってざんばらなっていた髪はショートにした。
周平に似合っていると言われたのでしばらくはこのままにしておく。
「準備できた?」
「母さんが殆ど持って帰ってくれたから、あとは手荷物分」
病室に入ると周平は荷物をほとんどまとめ終わっていた。
「うし、これで終わり」
私は窓際で待っていた。
「それじゃ行こうか」
「あーちょっと待ってくれ湊」
廊下に出ようとすると、周平に呼び止められる。
「なに?」
周平はあー、うー、と変な声を出したあと、真面目な顔になった。
「湊が好きだ。付き合ってくれ」
まだまだ私は彼の事がわかっていなかったようだ。
返事?もちろん一つしかない。
「私も周平が好きです。付き合ってください」
【短編】二人は間違え、離れかけ、付き合う @daikin1192
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます