第12話 エピローグ
「シン、おかえりなさい!」
礼子は、シンに駆け寄ると押し倒さんばかりに抱きついた。
長い黒髪はそのままに少し大人びた顔つき、ほんのり赤く頬を染める様子は健康そのものといえるだろう。
「ただいま」
宇宙局のオレンジ色の制服を着たシンは、苦笑する。
礼子の出迎えの勢いもさることながら、篠原研究所に3カ月ぶりに来たというのに自分が自然と『ただいま』と言ったことに気付き照れくさくなったからだ。
(俺も変わったものだ。礼子は体が丈夫になったくらいで、性格はあまり変わらない気がするが……)
二人は、久しぶりに礼子の月都市の自宅である篠原技術研究所で再会していた。
二人の出会いから、3年の歳月がたっている。
★
礼子失踪事件は、あの後シンに抱きかかえられた礼子が無事に帰宅したことで、事なきを得たが、しばらく安静が必要だった。
心配する篠原博士に、礼子は手術を受ける決意を告げ、ほどなくルーカス医師に執刀してもらい健康な体となった。
軍士官学校を休学していたシンは、それまでのように変わらず礼子に付き添い、ゆっくりと自分のことを語り親交を深めた。
そして、自分が礼子の告白めいた重大な言葉を聞き流していたことに気が付いた。
――― 手もつないで、恋人同士みたいに
礼子がそう言ったとき、具合が悪く熱で浮かされていたような様子であったため、正直、シンは心配で頭がよく回ってなかった。
二人でまた
礼子がだんだんと回復する中、告白の答えを確認され、初めて礼子が自分を好きだと知った。
同級生との交流もうまくいかなかったシンにとって、恋愛の機微などわかるわけもなく……。
「異性として好きかどうかと聞かれるとど、どう答えていいか分からないんだか……。ドキドキするかと問われると、そうではないな」
「はあ、なんかシンらしいと言うかなんと言うか……。手術も成功して、ゆっくりいろいろなこと考えられるようになったから、シンもゆっくり考えていいよ。私もシンの事もっとよく知ろうと思うし」
「すまない。礼子は俺を救ってくれた大切な存在だと思っている。そばにいて守ってやりたいとも思う。それが恋かと言われると俺はよくわからない」
「真顔でそういうこと言えるところが、もう……その言葉だけで十分です」
礼子は、顔を赤らめて困ったように笑う。
(ああ、青白い顔で眠っていた眠り姫より、ずっといい)
シンは、そんな礼子を見て安心し自然と微笑んだ。
★
シンと礼子は少しずつ距離が縮まり、お互い夢を語れる仲になっていた。
シンは、
今はだれも、両手が
軍士官学校は辞め、
戦闘の技術はこれ以上磨きたいとは思えなかった、ただ宇宙を翔けることは続けたい。
「なら、惑星探査のクルーとかいいんじゃない?」
礼子はそう提案した後に、小声で「私も新種の動植物を発見したいのよね」とつぶやいた。
そして、今、シンは宇宙局の惑星探査チームのクルーの研修をしている。3カ月の不在はそのためだった。
いつか、パイロットとして腕を振るうために……。
礼子は
毎日、
小声で言った秘密の夢の為に、力をつけて宇宙へ行きたいからだ。
★
シンを壊れた
心臓の病から、自分の殻の閉じ篭りすべてを諦めようとしていた眠り姫。そのなけなしの勇気と優しさに心をこじ開けられたシン。
礼子もシンも、それぞれの道を『人間』として踏み出した。
それは、二人であの日、勇気を出した一歩。
きらきらと輝くその思いは、永遠の絆。
「シン、今アカデミアのテラリウムでリンゴが実っているの。一緒に行こう!」
礼子のその言葉に、シンは自然と手を差し伸べた。
礼子は、その手をしっかりと取りリンゴのように頬を染め笑った。
二人は、扉を開けて未来へと歩き出す。
☆ お わ り ☆
壊れたアンドロイドに気が付いたら恋をしていた件 天城らん @amagi_ran
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます