両手に花?
『よーし、今日は再会を祝して宴をしよー!!!』
『あ、それならちょうどいいお酒がありますっ! ここを建てる時に村の人から美味しいやつをいただきました!』
『ふふっ、じゃあ今日はとことん飲み明かしましょうか』
───というやり取りをした翌日。
(さて、この状況はどうしよう……)
僕は一人、ベッドに寝転がりながら天井を眺めていた。
ふかふかのベッド、カーテンから射し込む日差し、小鳥の囀りといった全てが気持ちのいい朝ということを教えてくれる。
たくさんお酒を飲みすぎたからか、昨日の記憶が酷く曖昧だ。幸いにして二日酔いにはならなかったようだし、そこはまだいい。
問題は───
「……アレン」
「……すぅ」
───両横から聞こえる、可愛らしい寝息だろう。
僕は顔だけ動かしてまずはそっと左に顔を向ける。
燃えるような炎髪がベッドに広がり、大人びた顔立ちからは想像できないほどの可愛らしい寝顔が見える。
小さく刻まれる寝息のリズムは、上下する控えめな胸と合わせてゆっくり主張を始めていた。
そして、そんな少女の体は……何故か僕の腕に抱き着いている。
(これは……僕の理性を試しているっていうことで試練を与えたのかな?)
控えめといっても、柔らかい感触は確かに伝わるわけで。
少し顔をズラせば、眼前に整った美しいアリアの顔が広がるわけでして。
なんというか、その……思春期真っ只中の男の子にはかなり辛いものがある。あまりの無謀さに、理性さんが頑張ってくれるかどうか怪しいものだ。
いくら「隣で寝てほしい」とお願いした身とはいえ、抱き着くのは想定外である。
(いや、まぁこっちは問題のレベルが九十ぐらいのものだ……)
今度は右の方向に顔を向ける。
「むにゃ……アレン」
そこには無邪気で、あどけなく、可愛らしさを掛けて足した天使のような少女の顔があった。
朝日に照らされ輝く金髪はアリアと同じくベッドに広がっており、神々しい何か感じさせる。
潤んだ桜色の唇に思わず視線が吸い寄せられ、顔を寄せて重ねたい衝動に駆られてしなう。
更に、薄い生地で作られた寝間着はふくよかな彼女の胸部を強調させていた。意外と大きな果実は僕にとって新しい発見である。
これは目に毒というか、目に猛獣だろう。理性に大ダメージだ。
こちらも僕の方に顔を向けて寝ている。仲がよろしくて結構なんだけど、僕を追い込む趣味でもあるのだろうか? と錯覚してしまう。
(ミーシャの顔が近くに……ッ!)
百歩譲って、アリアはまだいい。
でも、想い人の顔が近くにあるというのは、理性にとっては中々深刻な問題であった。
(っていうか、なんで僕が間で挟まれてるんだよぉ)
これでは新手の拷問だ。
両手に花なんだけども、我慢しなくてはいけない現状が重なれば三角馬や石抱きよりもキツい。
二人から香る甘い匂いが、徐々に理性を痛めつけている。
「アレン……」
そんな時、ふと気持ちよさそうな寝顔を晒しているミーシャの口から僕の名前が溢れる。
寝言だというのは分かっているけど、思わず心臓が跳ね上がった。
僕は彼女の夢の中に出てきているのだろうか? それが気になると同時に、かなり嬉しく思ってしまう。
一体、僕は夢の中でミーシャと何を───
「ダメです、それは猫ちゃんが食べるお菓子です……」
……僕は夢の中でどうなっているのだろう?
猫のお菓子を横取りするほど腹が減っているのかな。
「泣いて頭を下げてもダメなんですから……」
本当に腹が減っているみたいだ。
きっと、ミーシャの夢の中で僕はとても惨めな姿をしているだろう。
もしも懇願するほど腹が減っているのなら、止めないで食事を提供してほしいところだ。
「……アレン」
そして、今度はアリアからも僕の名前を呼ばれる。
アリアはそれなりに仲がいい友人だ。夢に出てくるのも理由も分かし、やっぱり嬉しい。
男として、こんなに可愛い女の子二人の夢に出てくるとは幸せものだ。
人間としての尊厳を失ってしまったミーシャの夢とは違い、彼女の中で僕は───
「両目をきちんと揃えて差し出さないとダメじゃない……」
悲惨な目に遭っていた。
「痛いのは分かるけど、肋もちゃんと差し出して……」
それも、かなり容赦がなかった。
両目を差し出しても許してもらえないとは、夢の中で僕はアリアに何をしたのだろうか? 何もしていないはずなのに、現実の僕は怖くて思わず腕に伝わる彼女の温もりから逃げ出したくなる。
「アレン、ダメです……それはわんちゃんのご飯です」
「こら、手伝ってあげるから逃げないの……」
二人の寝言が横で聞こえてくる。
惨めで、それでいてかなり悲惨な目に遭っているのだという情景が目に浮かぶような言葉。
さっきまで両手に花のドキドキなピンク色が広がっていたはずなのに、何故か急激に冷めてしまった気がした。
(……朝ご飯でも作ろ)
僕はアリアの体から起こさないようゆっくり腕を抜き、そっとベッドから降りた。
振り向けば、可愛らしい天使と見た目麗しい美姫が無防備な姿で寝ている。恐らく百人が百人、アンケートを取れば「ずっと見ていたい」と答えるだろう。
僕も男として、少しでも二人に挟まれたいという気持ちはある。
でも、夢の中での僕がどうなっているのかをこれ以上聞きたくない───そう思ってしまうのは、酷く当然だと思う。
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