久しぶりの三人
「ごほんっ! と、とにかく改めて……お久しぶりです二人共っ!」
僕の鼓膜を労い、とりあえず中へ入ると開口一番にミーシャがとびっきりの笑顔を見せた。
これだけで先程のことが綺麗さっぱり流せてしまえるのが不思議だ。ライダやアリアだったら一週間ぐらいは根に持つのに。
「久しぶりね、ミーシャ。元気にしてた?」
長椅子に座って足を組むアリア。
修道服から覗くきめ細やかな白い肌と太股が露になって少し目のやり場に困る。
きっと、男がこの場にいれば彼女はチラ見のモデルにでもなっていたはずだ。これもアリアが飛び抜いて容姿が整っているからだろう。
……よくずっと横にいて耐えてこれたなぁ、僕。
「はい、元気にしてました! なんと、身長が0.01mも伸びたんです!」
それはもはや誤差だろう。
「それにしても、まさかお二人とまた一緒にいられるなんて夢みたいです……これも女神様が繋いでくれた御恩ですね。頑張って教会を建てたかいがありました!」
ミーシャは手を組んで嬉しそうに瞳を輝かせた。
今いる多くの人間が入れそうな広さの礼拝堂には、今座っている長椅子が並べられており、奥には立派な祭壇。天井は煌びやかなステンドグラスが敷き詰められていて、どこからどう見ても立派な教会だ。
もちろん、建てたのは建築屋さんとかなんだろうけど、こうして自分の夢を叶えた結果を見ると心が温かくなる。
有り金全てを渡してよかったと素直に思う。
「綺麗だもんね、この教会。信者の人もいっぱい来るんじゃない?」
「ふふっ、いっぱいは来ませんよ。やはり、王都に比べてこの村は人が少ないですから」
「そっか」
わざわざこんな辺境まで足を運ぶ人は少ないだろうし、確かに訪れる信者は少ないだろう。
まぁ、これはミーシャの夢であってお布施を狙った商売ではない。
ここに建てて働けたことで全ては完結しているから、さして問題はないのだろう。
「でも、お二人がファリス教に興味があったとは思いませんでした。どうして旅をしている時に言ってくれなかったんですか? でしたら、いっぱいお話ができたのに!」
「あははっ、言い出す機会がなかっただけさー!」
言えない、ぶっちゃけそこまで興味がなかっただなんて。
ミーシャに会いたい一心で牧師になっただけだから、興味どころか信仰も怪しい。これは墓場まで持っていこう。
「ねぇ、ミーシャ。とりあえず積もる話もあるでしょうし、部屋の場所を教えてくれないかしら? 荷物を置いてきたいわ」
「あ、そうですね……気づかなくてすみません」
「いえ、全然気にしなくていいわよ」
ミーシャは一度頭を下げると、そのまま礼拝堂の奥へと歩き始めた。
「せっかくなので、お部屋に案内するついでに教会の中も案内しますね!」
中を案内してもらえるのは嬉しい。
住みながら覚えるというのもいいけど、いちいちミーシャに聞いていくのも迷惑になるだろうからね。
僕達は立ち上がると、先を歩くミーシャの後ろをついていった。
「まずお分かりでしょうけど、ここが礼拝堂です! 基本、ここで信者さんとお祈りをします!」
「うん、立派な礼拝堂だね」
「そして、あちらにあるのが懺悔室です!」
……どうして、真っ先に懺悔室を紹介したのかな?
まぁ、礼拝堂の中にあるからっていう理由だとは思うけど―――
「ユランはきっといっぱい使いますからね、先に紹介しておきます!」
「とても心外だ」
そんなにも僕はしょっちゅう懺悔をしなければならないような人間に見えるのだろうか。
「ふぇっ? 懺悔は牧師さんが聞いてあげるものですよね?」
「あ、なるほど」
そういえばそうだった。
基本、信者の悩みを聞くのは牧師の役目だ。いっぱい使うというのは僕がやましいことばかりして懺悔をするからっていう意味ではなく、懺悔を聞いてあげるからっていう意味だったのだろう。
危ない、変な勘違いをするところだったよ。
ちょっと不安になっちゃったけど、冷静に考えれば僕はどこからどう見てもやましいことなどしそうにもない紳士だもんね。
「あなたが懺悔する時は私が聞いてあげなければいけなさそうね」
だからしねぇって言ってるだろうに。
「ふふんっ! 教会を建てる時、しっかりと細部にまでこだわりました! この懺悔室も、実はこだわっているんですよ?」
そう言って、ミーシャは僕達を連れて礼拝堂の隅にある小さな部屋へと案内した。
中へ入ると、小さな椅子が二つと相手の顔が見えないようにする大きな板が一つ。そしていかにも頑丈そうな足枷が───
「この足枷は建築屋さんがオプションでつけてくれました!」
そんなオプション捨ててしまえ。
「どんな意図で足枷が必要だと思ったの、建築屋さん……懺悔する者を逃がさないって意図がありありと伝わってくるよ」
「信者がすぐにでも回れ右しそうね」
足枷一つでどこにでもありそうな懺悔室に物騒さが際立つのだから不思議なものだ。
きっと、ここに入る信者さんは今から何が起こるのかと戦々恐々になるに違いない。
「でも、これはこれで便利そうね」
「どこが!?」
「ほら、ユランが
「ははっ、忘れてもらっては困るよ……そんな足枷ぐらい、僕は簡単に引き千切れるさ」
あまり元勇者を舐めないことだ。
そもそも、僕が説教を受ける前提で話されているのが妙に腹が立つ。
「もしかして、こだわったのってこの足枷?」
「はいっ! こんな懺悔室は他の教会にはないかと思いまして!」
こだわる部分がオリジナリティとは、これまた恐れ入った。
確かに、この足枷があることで他にはない物騒さを醸し出せるだろう。差別化にはピッタリだ。
ただ、それがいい意味かと言われれば即座に首を横に振るだろう。
こだわるんだったら、壁とか椅子とかに違うアクセントを入れるとかもう少し別のところに───
「あ、あの……やはり、おかしかったでしょうか?」
「そんなことはないさっ! いいこだわりだね!」
これはこれで味が出ていいと思うんだ、うん。
「……チョロ男」
「さ、さぁ! 次の場所に行こうじゃないか!」
アリアのジト目から目を逸らしつつ、僕はミーシャの背中を押して礼拝堂の奥へと向かった。
言わんとしていることは分かるけど……しょうがないじゃないか。
やっぱり、好きな人には甘くなってしまうのが男っていう生き物なんだから。
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