想い人との再会
さて、山賊が襲ってきたりと事件が起こったものの、僕達は無事に教会の前へと辿り着いていた。
丘の上にポツンと建つ小さな教会。見晴らしはよく、御者さんから教えてもらった村が一望できた。
恐らく、あそこがミーシャの生まれ育った故郷なのだろう。
辺境だし、ここに来るまで都会の『と』の字もなかったからかなり小さい村なのだと思っていたけど、家らしき建物が多く建っていた。
市場らしい賑やかさも見えており、僕の想像よりもずっと栄えている場所なのかもしれない。
村というよりかは、街という印象がある。来た道からは想像ができないぐらい整備されていそうだからだ。
―――とまぁ、そんなことは置いておいて。
「そういえば、倒した山賊は御者にあげてもよかったの? 引き渡したらお金もらえそうなのに」
「まぁ、別にいいんじゃないかな? 引き渡すってなったら回れ道することになるし、ミーシャに会う時間が遅くなるし!!!」
「あー、はいはい。そうだったわねー」
このミーシャに会いたい衝動は一時の金では動かせない。
ミーシャに有り金全部渡したから無一文だけども。
「ようやく……ようやく会えるんだ、ミーシャに! この二ヶ月間、会えなくてどれだけ僕の心が擦り減っていたことか!」
恋をしたというのは初めての経験だけど、まさか会えないだけでこんなに寂しい想いをするなんて思わなかった。
高鳴る鼓動と、荒い息遣いと血走る眼がミーシャに会いたい気持ちを表わしているようだ。
そうだ、これこそが恋なんだ!
「さっきから凄く気持ち悪いわよ。変質者みたい」
素敵な恋の衝動に対してなんてことを。
「……まぁ、変質者云々はこの際置いておこう。では、いざミーシャに会わん!」
変質者扱いするアリアを放置して、僕は教会の扉を勢いよくノックした。
数秒か、数十秒か。それぐらい待っていると、扉の向こうからトテトテと小さな足音が聞こえてきた。
「いらっしゃいですっ! ようこそ、きょうか……ふぇっ?」
姿を現したのは、月光のような長い金髪を携えた可愛らしい少女。
二ヶ月も会えなかったからか、少し大きくなったような……いや、前より綺麗さに拍車がかかっているような気がする。
だからからか、さっき以上に僕の心臓が激しく脈打ち始めた。
でも、僕が恋焦がれていた少女は―――何故か、僕達を見て固まっている。
(どうしたんだろ? 特段おかしな格好はしていないんだけどなぁ)
もしかしたら着慣れていない祭服を着ているからかもしれない。
でも、その前にもう少し驚いてくれてもよかったのになとも思ってしまう。
具体的には「えぇ!? どうしてユランが!?」みたいな感じで上目遣いで。
とにかく、久しぶりに想い人と会えたんだ。サプライズになったかは分からないけど、まずはちゃんと挨拶だ!
「やぁ、ミーシャ! ひさしぶ―――」
バタンッ! ←(扉が勢いよく閉められる音)
ゴッ! ←(僕の鼻が勢いよく扉にぶつかる音)
「鼻がっ、鼻がァァァァァァァァァァァァァァッ!?」
痛いっ! 開いた瞬間に顔を前に出してしまっていたから余計に痛い!!!
魔術を使っていないから鼻の骨がどんな風に変形してしまっているか疑問に思うほど痛いッッッ!!!
「そんなところでのた打ち回っていると、服が汚れちゃうわよ?」
「懸念はごもっともだけど、先んじて僕の鼻を労わってほしい……ッ!」
ポタポタと垂れ始める鼻血を押さえながら、僕はゆっくりと立ち上がる。
どうして彼女はかつての仲間との出会い頭にこんな重たい一撃を食らわせたのだろうか。
最近、敵から与えられた痛みより仲間から与えられた痛みの方が多い気がする。
とりあえず、アリアに布巾を渡されたので祭服についてしまいそうな鼻血を拭った。
「あ、あの……!」
その時、もう一度教会の扉が開かれた。
今度は凄くゆっくり。恐る恐るといった感じであった。
「ど、どどどどどどどうしてユラン達がここにいるんですか……!?」
「どどどど?」
「どのオンパレードね」
「〜〜〜ッ!」
からかいすぎたからか、ミーシャの顔がこれでもかと朱に染まる。
相変わらず、ちょっとした姿も大変可愛らしい。
「ほら、あなたがサプライズ精神でいこうって言ったからミーシャが恥ずかしがってるじゃない」
「いや、どちらかというと僕達がからかったからだと思うけど? 可愛いよね……もういっちょ言っとく?」
「外道……って言いたいところだけど、私も可愛いって思っちゃったわ。もういっちょいきましょう」
「もうっ! お二人共、懺悔してくださいっ!」
そして、堪え切れなくなったミーシャが扉から姿を現して僕の胸をポカポカと殴ってくる。
さっきの鼻に与えられた一撃とは比べ物にならないくらい痛くない。むしろ可愛い。
「二人には困ったものです……まったくもう、ですっ! おかげで、驚きが冷めちゃったじゃないですか!」
「ほら、アリアのせいで僕のサプライズが台無しになっちゃったじゃないか」
「あなたの鼻血で台無しになった感は否めないけどね」
それは僕のせいじゃないと思う。
「それで、どうしたんですかお二人共……? お会いできたのは嬉しいのですが、よく現状が分からなくて。それに、これから今日配属される牧師の方とシスターの方を出迎える用事があるので……その、どうしましょう? い、いっぱいお話がしたいんですけど」
「あ、気にしなくていいわよ」
「ふぇっ……?」
「いや、僕達が今日配属される牧師とシスターだから」
「…………」
この格好を見たら分かりそうなものなんだけど、どうやらミーシャは気づかなかったようだ。
恐らく、僕達が現れたことに頭がいっぱいいっぱいだったんだと思う。
その証拠に、彼女の驚いた声が丘の上に響き渡った。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
サプライズ的なことをしたのは僕だ。
だから、彼女が驚いてくれる姿を見て満足している。
ただ───
「鼓膜さんが……ッ! 長年共にしてきた鼓膜さんがお別れしたような音が耳にィ!」
「大丈夫よ、何かが聞こえている時点で鼓膜さんは無事だから、多分」
傍にいた僕は、人体に多大な被害が及んでしまった。
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