閑話 歌えない歌姫
【クリスパメラ】
ドンドンドンドンドン
(うるさい)
ドンドンドンドンドン
(うるさい)
ドンドンドンドンドン
(だ・か・ら うるさい)
のろのろと重いカラダを寝台から引きはがして起き上がる。
まだ、怒りの感情は残っていたようだ。
テーブルの上に置いた、中身の入った酒瓶を逆手に持つ。
(どうせ死ぬんだ、このうるさい相手にケガをさせても許される気がする)
ニヤリと笑って、寝室を出る。
階段を下りて、うるさい音を立てる玄関の扉に近づいた。
ドンドンドンドンドン
「クリスパメラさん、生きてますか?」
(どこかで聞いた声だけど、あたしの怒り受けてみろ)
酒瓶を振り上げる。
ドンドンドンドンドン
「
まだ生きてますかクリスパメラさん?」
パリ―――ン
思わず酒瓶を落としてしまう。
聞こえた言葉がまだ信じられずにいる・・・・気が動転している。
ドンドンドンドンドン
「何かあったんですか? 無事ですかクリスパメラさん?」
(ごめん、グレイク先生。もう少しでグレイク先生が無事で済まないところだった)
ドアを開ける。久しぶりに見るグレイク先生だ。
「ああ、クリスパメラさん。良かった、無事でしたか? 」
とりあえず家に招き入れる。
(ああ、使用人をクビにするんじゃなかった。お茶も出せない)
応接室で筆談で先生に問う
〖先生、治療薬が見つかったって、本当なの?〗
「はい、見つかりました。少量ですが入手しましたのですぐに治療にかかれます」
〖治療にはどれくらい、時間がかかるの?〗
「治療薬を服用して2時間で声が出せる様になったそうです。
クリスパメラさん、まだ症例が少ないので確認させてください」
〖2時間で治るの? コレが?〗
「わかりませんから、クリスパメラさんの喉の状態も見たいです。見せてください」
〖わかったわ〗
「では、失礼します」
グレイク先生はあたしの喉の状態を見て、何かを書き留めている。
そして・・・・
「それでは、薬を用意しますので、ちょっと台所をお借りしますね」
(ああ、台所ね・・・・・・え?)
台所の惨状を思い出して、そこに向かうグレイク先生の肩を掴む
「どうか、されましたか? クリスパメラさん?」
(あれは・・・見せられない)
〖先生の医院で治療を受けるわ〗
「10分もあれば、治療薬を用意出来るのですが?」
〖先生の医院で治療を受けるわ〗
〖先生の医院で治療を受けるわ〗
〖先生の医院で治療を受けるわ〗
「わかりました・・・行きましょうか?」
グレイク治療院
目の前にはコップに入った琥珀色の液体?
(これが、治療薬?)
「これは青の雫と言われる断声病の治療薬です。かなり甘くて美味しいそうですよ」
甘い香りがする。口を付けると豊かな甘さとコクが口の中に広がる。
(おいしい、とてつもなく・・おいしい)
「クリスパメラさん。とりあえず2時間程、横になって安静にしていて下さい」
ベッドに横になる。喉が少し熱いわね。
あたしは、知らない内に眠ってしまっていたようだ。
グゥ~ウ お腹が音を立てる
「お
「なるほど、無事に声が出せるようですね」
(ちょっと待って?)
「ど・・どうして、先生がいるの?」
「クリスパメラさん。ここはウチの医院ですよ?」
「・・・・先生?」
「喉に違和感は残っていませんか?」
「先生?」
「空腹以外に体調に変化はありませんか?」
「先生・・・聞こえました?」
「クリスパメラさんの声は聞こえてますよ」
「そうじゃ無くて・・・」
「もしかしてお腹の音ですか? お休み中もずっと鳴ってましたよ」
「先生、私はこれでも金の歌姫と呼ばれていたんですよ」
「もちろん知ってますが?」
「先生、時々、女性に無神経とか言われてませんか?」
「時々どころか、常に言われますね」
「直そうとか思いませんか?」
「お腹の音なら良いんじゃないですか? さすがに放屁でしたら黙ってます」
私は右の掌をじっと見つめた。
「クリスパメラさん・・・どうされました? 」
「いえ、酒瓶を手放したのを少し後悔してるの」
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