第8話 王都バンダム
王都外郭内 ホーバック邸
【ホーバック】
「ホルマ、今帰った」
「お帰りなさいませ、ホーバック様」
「留守中何かあったか?」
「夜会等のお誘いや、薬に関する情報提供の手紙、一部の貴族からの融資のお願いは
執務室の机に置いてあります。あとホーラル様とエマ様がお帰りになっています」
息子夫婦が帰ってきたか・・・
「ホーラルとエマか、どこにいる?」
「メル様のお部屋でお茶をされています」
「すまないが、すぐに私の部屋に来るように言ってくれ。
それとグレイク先生に使いを送ってくれ『薬が手に入った』それでわかる」
「はい、ただちに」
執務室に入って、机の上の書類を確認する、ホルマが優先順位をつけてくれているが、それでも大した内容は無いな
ホーラルとエマが来るまでの時間潰しだな。
コンコン「ホーラル様とエマ様が来られました」ホルマがドアを開ける
「なんだい、父さん、せっかく元気になったメルとお茶をしていたのに」
と軽口をたたく息子に対して。
「ホーラル、リグナス公爵と至急話がしたい連絡を取ってくれ」
「エマは私が至急モリアス財務卿に会いたいと連絡を頼む」
と矢継ぎ早に指示をだした。2人はあっけにとられていたが。
「父さん、戦争でも始まるのか?」
「お父様、何か大きな公共事業ですか?」
「どちらでも無いが、至急話がしたい」
その時、「グレイク先生が来られました。」とドアの外から声が入った
「お通ししてくれ」
勢い良く開いたドアから
「『青の雫』が手に入ったそうですね」とグレイク先生が入って来た。
ホーバックはニヤリと笑い「そこの壺の中をみてみな」と指をさした。
壺の中を覗き込むグレイク先生
「こんなに手に入ったんですか。これなら、おそらく国中の患者に行き渡ります」
「ああ、数えたら壺の中におよそ3000あった。増産も頼んできたが、1つ大きな問題がある」
「何ですか? 価格ですか?」
「いや、価格は金貨1枚までに抑える、使えない薬ほど役に立たない物は無いからな」
「それでは何ですか? 材料入手に問題があるとかですか?」
「それも解決してきたんだが、最大の問題は、今『青の雫』を作れるのは8歳の男の子1人だけなんだ」
「・・・なんと」
「特定の樹液を水魔法を使って加工しているんだが、
水魔法であんな事が出来るなんて誰も思いつかないぞ。
それに、湖で巨大な青い蛇に会ってから髪と目が青く染まったそうだ。
こんな話聞いた事無いかね?」
グレイク先生も分かったみたいだな。
「この国の初代国王、国祖の物語 確か赤い竜に赤い髪と赤い目を貰ったんでしたか?」
「大人達の知らない所で、8歳の子供が『青の雫』を作って
『青の神』に供えて祈りをあげていた」
「なんと」
「その子がなメルの話を聞いて『薬では無いですが甘くて喉にも良さそうですから』
って言って『青の雫』をくれたんだ」
「・・・・」
「このホーバックが8歳の子供に『青の雫』をタダで貰ってしまった」
ホーラルがため息をつきながら
「わかった、リグナス公爵とすぐ繋ぎをとるよ」
エマが涙を流しながら
「モリアス財務卿ですね、メルの恩人の為では仕方ないですね」
「すまないがグレイク先生」
「王都医学院のサラバス学院長ですな」
「話が早くて助かるよ、先生」
「『
「おう、持って行ってくれ」
グレイク先生が袋に『
王都 リグナス・バラム公爵の邸宅
リグナス・バラム公爵か、見事な赤い髪に銀灰の瞳か?
「リグナス・バラム公爵閣下、ナック商会の会頭をしておりますホーバックと申します。本日は時間を取って頂いてありがとうございます」
「噂は聞いているよ王国の金の半分はホーバックが持っているとね、
そんな人物が私に何の用かな?」
「これを見て頂きたい」
俺は『
公爵はそれを怪訝そうに見て
「これは何かな?」と尋ねた
「これは『
「何?」
動揺しているな
「断声病について説明は必要でしょうか?」
「必要ない」
「では、説明を続けさせて頂きます。
この『
断声病の患者は声が出る様になります。私の孫は2時間で声が出る様になりました」
「そうか」
「現在、こちらで入手した『
「そうなのか」
公爵はふ~と息を吐いた
「私どもの持っているあと半数で王国内の患者については対応可能と
医学院から報告を受けておりますし、今後の為『
「それで?」
「この『
国の対応はどうなるでしょうか?」
「どうとは?」
「例えば地方領主の領地であった場合、
『
「そうなるな」
「その場合、地方領主が『
「確かにそうだが、それは他の生産物でも同じであろう」
「はい、そうして『
おそらく100年以上『
「存在しなかった? 失伝した物を創ったのか?」
「現在『
「後継者を作ることは出来ないのか?」
「わかりません、あまりに高度な水属性魔法なので
同じ属性の魔法使いを探し出しても同じことが出来るかは不明です」
「地方領主が口を出さないように、国が管理しろと言う事か?」
「はい、それもありますが、公爵の見事な赤い髪はやはり国祖からのものですか?」
「ああ、この色は王家に連なる者に多いな」
「赤い竜の加護ですな」
「ああ、王家の誇りだ」
「『青の雫』を創り出した者は、巨大な青い蛇の加護をもらったらしく
髪と目が青く染まっておりました」
「なんだと」
「私も驚きました、青い髪と目の幼子(おさなご)が一人
『
「・・・・・・そんなに幼いのか?」
「はい8歳の男の子です」
「それでは、情報を出したら他国に誘拐される可能性もあるな、
分かった国が直接管理するように取り計ろう。
領主と村の名前を教えてくれるかな?」
「はい、カエダル男爵領のニミグラ村です」
「しかし、ホーバック殿は王家に
どこで知ったのかな?」
「私も孫の治療法を探しておりましたが、
何故か王家の探索部と出会う機会が多かった為
おそらく同じ病気について調べているのだろうと予想いたしました」
「なるほど、それでは隠せないな」
「もし、よろしければこの『
「よいのか?」
「はい、大きなコップに湯を入れてこれを溶かすだけです。
非常に甘いので飲みやすいです」
「では、頂こう。それで君はこれからどこに行くのかね?」
「モリアス財務卿に『
話しに行ってまいります」
「国の直轄地になる訳だが薬品の税金は別にかかるのか、少し待て、私からも書状を出そう」
「ありがとうございます」
王都 モリアス財務卿宅
モリアス財務卿、正直良い話を聞かない人物だが・・・実際はどうだ?
「はじめまして、モリアス財務卿。
私、ナック商会の会頭をしておりますホーバックと申します。
本日は時間を取って頂いてありがとうございます」
「モリアス財務卿だ、ホーバック殿の名前はよく聞くが
お会いできるとは思っていなかったよ」
「実は、ご相談とお願いに参りました」
「ほう、なにかな?」
「実はある所で新しい薬を開発しまして、
その薬の生産地をこの度王国の直轄地として頂く事になりました」
「ほう、そうなのか?」
「それで、その薬に関する国に納める税金についてご相談に参りました」
「ほう、そうなのか。その薬の販売価格はどの位を予定しているのかね?」
「はい金貨1枚ほどを予定しております」
「よし、では税金で金貨1枚だ」
「はい?」
「聞こえなかったのか、薬を金貨2枚で販売すればよい」
「つまり、金貨1枚の価格の薬に金貨1枚を税として乗せよと?」
「だから、そう言っておるでは無いか」
「モリアス財務卿、リグナス公爵から書状は届いておりますね?」
「もちろん、書面を頂いている」手紙を見せてくる
「封を切って無いようですが」
「なぜ、封を切る必要がある?」
「残念です、公爵様が王家に連なる者の誇りとして
この事業を進めるとおっしゃってられましたのに。
この様な形で事業が止まるとは」
「なに?」
「公爵様と王都医学院のサラバス学院長にはこう報告させて頂きます
モリアス財務卿が公爵様からの手紙を握り潰し、事業を止めに掛かったと」
「それは・・・」
「おそらく、この事業が成立しなければ、
この国土の四分の一が消えうせる事もあり得ますが
全てモリアス財務卿の責任でよろしいですね」
「いや、それは困る」
「これで私共ナック商会も、全ての店を畳んで他国に移動する事になりそうです。
その場合の税収の減額はどうなるでしょうね?」
「ちょっと、待ってくれ」
「正直、今後この国にどんな厄災が来てもおかしくないですよ」
「わかった、ちゃんと読むから待ってくれ」
公爵様からの手紙を開封して読みだした。
「なんと書いてありますか?」
「ナック商会のホーバック殿が行く、
この薬『
「では、よろしいですね?」
「わかった、承認しよう」
「書面で頂けますか?」
「すぐに作る」
無駄な時間を使った。
王都医学院 学院長室
このばあさんがサラバス学院長か
「はじめまして、サラバス学院長。
私、ナック商会の会頭をしておりますホーバックと申します」
「ああ、グレイクから聞いているよ。あんた、よくあんな薬見つけたね」
「はい、必死になって探しましたが、見つけたのは偶然ですね」
「それで、あたしになんの用だい?」
「まず、いくつか報告を『
医薬品の税率はゼロに決まった」
「ゼロか、モリアス財務卿がよく了承したね?」
「王家から圧力を掛けてもらったよ」
「商人が無茶をするね」
「今回だけは引けないのでね」
「グレイクがいってたよホーバックさんいつもは次善策を考えて動くのに
今回はそれが無いって」
「よく見てるな、あの先生」
「それで、あたしに何のようだい?」
「サラバス学院長、王都医学院に水属性って何人居ますか?」
「うん、水属性かい4~5人じゃないかな。それがどうかしたかい?」
「『
しかし、俺はあんな人間離れした魔法を見たことが無いんだ」
「水属性で加工しているのかい、それってあたしに話してもいい内容なのかな?」
「ああ、おそらくな。ちょうど鍋を火に掛けて煮詰めるみたいな感じだ、
それを水魔法でやっている」
「そんな事、どうやったら水で出来るんだい?」
「わからない、しかも毎日桶3つ、水を抜いて固形物にしているんだ」
「それって、火魔法だと桶1つでも何人も要るんじゃないか?」
「ああ、だがそれが異常だって事に誰も気づいてないんだ」
「どうしてだい?」
「周りに水属性が誰も居ないからかな、
学院にいる水属性ってどんな事ができるんだ?」
「大体、水を桶4~5杯も出せればいいとこじゃないか?」
「大体俺の予想と変わらんな。
その子は桶3個分水を抜いてから水魔法で桶を洗ってたよ」
「なんだい、その子は」
「しかも、今頃は『
「そんな事をして大丈夫なのかい、その子は」
「一応、魔力切れに気を付ける様には言ってから都に戻って来たんだがね」
「それで、私に頼みたい事は?」
「その子の魔法の使い方を憶えられる水属性の魔法使いが居ればと思ってね。
このままだと、あの子が居なくなれば『
「それは困るね」
「まあ、8歳の男の子に魔法を習おうって言うのに無理があるけどな」
「8歳なのか、その子。じゃあ、属性判定を受けて3年たってないのかい?」
「そうなるな、もっとも湖で青い蛇に会って髪も目も青く染まっている。
それが原因の魔法なら打つ手は無くなるんだが」
「色は違えど、国祖と同じ子か」
「頭は良いぞ、その辺の若い行商の奴より、よっぽど教養があるし言葉遣いも丁寧だ」
「変な子だね」
「『
こいつだけ税金の心配してやがった」
「ますます変な子だね」
「まあ、『
「わかった、学院の水属性に当たってみるよ」
「すまない、よろしく頼む」
「そっちこそ、『
「ああ、村に行って様子を見てくるとするよ」
再び王都外郭内 ホーバック邸
「ホルマ、今帰った」
「お帰りなさいませ、ホーバック様」
「ホルマ、中が騒がしいようだが、何かあったのか?」
「それが・・・グレイク先生が・・・」
「グレイク先生? いつもの通り応接室で待ってもらえばよいだろう?」
「それが、金の歌姫をお連れでして」
劇場の舞台で艶やかに華やかに歌う、この国を代表する美女を思い浮かべる。
「・・・それは、なんと真逆の人が来たものだな、それで?」
「ホーバック様に是非お礼が言いたいとおっしゃっておられます」
「とにかく会ってみるか」
応接室には、いつものグレイク先生と見事な金髪に赤い衣装に身を包んだ金の歌姫が並んで座っていた。
「グレイク先生、いったいどうしたんですかな?」
「すみません、ホーバックさん。彼女がどうしてもあなたにお会いして礼が言いたいと聞かないんですよ」
「金の歌姫殿がか? こちらに心当たりはないんだが?」
「お初にお目にかかります、ホーバック様。私はクリスパメラ、
金の歌姫等と呼ばれております、歌うたいでございます」
「もちろん知ってるよ、しかし、礼を言われる理由には想い当たらないのでね」
「実は私は断声病に掛かっておりました。おかげさまで声を取り戻せたのですよ」
「なるほど、そういう事か。しかし、私も孫の治療の為に治療薬を探した結果ですし、何より礼を言われるべき一番の功労者は別にいる」
美女の口元が目に見えて引きつった・・
「グレイク先生・・・その話は聞いて無いですよ? 功労者って誰ですか?」
「クリスパメラさん、それについては迂闊に口外出来ないんだ。
そうですよね、ホーバックさん」
「申し訳ないがグレイク先生にも口止めしてある。
『青の雫』の製作者については、つい先ほど
やっと王家の保護を取り付けてきた所なんだ。
できれば彼の安全の為にも秘密にしておきたい」
「製作者ですか?」
「100年以上前に村ごと滅びて失伝していた『青の雫』を
たった1人で復活させていた賢人さ」
「そんな方が・・・それは、一度お会いしたいですわね」
「もし、王都に来る機会があれば歌姫殿に紹介するよ」
「それは、楽しみにしています」
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