第9話 直轄領ニミグラ村

 ホーバックさんが王都に帰ってから1か月が過ぎた。


 その間に村では収穫も終わり、ジリウスさんの畑の復旧作業に取り掛かっていた。


 『あおしずく』の量産の方は採取する桶の数を増やして今は8個になっている。


 私は9個目の桶の樹液の水分を抜こうとした時に

 初めて魔力切れを体験することになった。


 それまでも、魔法を使うと何かが身体の中から抜ける感覚はあったが、

その時は突然頭痛が襲ってきた。

 頭を抱えて蹲っている私を見て、桶の数は8個に落ち着いた。


 私は桶の設置や洗浄を他の人に任せて、水分を抜く事に専念することになった。

 そうして、『あおしずく』の量産が順調に進んでいった。


 村長にホーバックさんから、この村が男爵領から国の直轄地になる事が決まったと

手紙があった事を教えてもらった。


 馬に乗った役人がやってきて、村人を集めて書状を読み上げる


「本日より、このカエダル男爵領ニミグラ村は

バンダル王国の直轄領になった事をここに宣言する」


 役人が書状を村長に渡して完了らしい。


 そうか、この国バンダル王国って言うんだ、

 それと、この村って男爵領だったの・・・初耳なんだけど。


 そうして無事、バンダル王国直轄領ニミグラ村になったところに

 ホーバックさんがやって来た。二艘の小舟を積んだ馬車と一緒に。


 「おおーい、ポジャカ」

 「ホーバックさん、こんにちわ」

 「元気だったか?無理はしてないな?」


 大きなてのひらで私の頭を撫でる


 「はい、どうやら桶8個が限界みたいです」

 「一日8個作っているのか」


 手の動きが止まった・・・どうかしたのかな?


 「はい、それだと問題無く出来そうです」

 「ポジャカ、少しでも調子が悪かったらそこで止めるんだぞ、いいな」


「はい、心配してもらってありがとうございます。

そういえば舟を持ってきたんですね」

「ああ、俺も小島の祠を直に見てみたいからな、

ポジャカも一緒に見に行こう」

「はい、私も見てみたいので、是非ご一緒させてください」

「おう、先に村長に払うものを払っとかんとな。

村長の所に寄ってから湖に行こう」

「はい」


 村長の所に寄ってからホーバックさんと湖に向かう。

 湖にたどり着いたら、村人総出で小舟を岸辺に降ろす


「さあ、ポジャカ、祠を見に行こうか?」


 舟は8人乗れるらしい、私とホーバックさんとお父さんにジリウスさん、村長、

それと村の大人3人が乗り込んだ。

 もう1艘にも8人が乗り込んで小島へと向かう。


 ほどなく島に到着する。

先に杭と木槌を手に降りた大人の人が小島の岸辺に杭を打ち込む。

 打ち込んだ杭に舟のロープを固定していた。


 お父さんに舟から降ろしてもらい小島に降り立つ、

小島は小高い丘の様に中央が盛り上がった形状で

頂上のあたりに崩れた石作りのほこらがみえた。


「あそこが祠だな、見に行ってみよう」


 ホーバックさん達と傾斜を登っていって、

頂上へとたどり着いた。


「ポジャカ、疲れて無いかね?」

「はい、ホーバックさん大丈夫です」

ホーバックさんが足元に落ちている葉っぱを拾い上げる。

それを私に見せて

「どうやら、ポジャカのお供えはここで飲んでいるみたいだな」


「祠は直せそうか?」と大人達に声を掛けた

「組み合わせた石が崩れただけだから、すぐに直せそうです」

「それなら、すぐにかかってくれ」

「わかりました」


 大人達が大勢でかかると、あっという間に祠は組みあがった。


 そして、用意してあった『あおしずく』を

今回お供え専用に作った木の器に入れて祠に供える。

 いつも通り、両手を合わせて「どうぞ、お納めください」と祈りを捧げた。


「毎週、岸まで来ていただくのも手間だろうしな。

今度からここに供えに来たらどうだ?」


 ”何に”来ていただくのかは、あえて言わないな。


「はい、その方が良いと思います。

すみませんが毎週ここに送ってもらう事になりますが」

「それぐらいなら、村の大人で順番にやればいいだろう」と村長が言ってくれた。


 祠も直し、お祈りもお供えも終わったので皆で帰ろうと傾斜を下っていく。

 舟に乗せてもらい、出発する。

舟の上でホーバックさんに

「そういやポジャカ、あの両手を合わせる祈り方はどこで覚えたんだ?」と聞かれた。


 流石に前世とは言えなかったので「なんとなくです」としか答えられなかった。

 ホーバックさんは1晩だけ家に泊まって、翌朝には手を振りながら帰っていった。


 それから、しばらくして村に冬が訪れた。

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