王都の章

第10話 春の来訪者

 村に積もったの雪が溶けだす頃、

 ホーバックさんと一緒に、村に来客を届ける馬車がやって来た。


「初めまして、王都医学院から来ました。ニック15歳です」

「はじめまして、王都医学院から来た、マーシィ10歳です」


赤毛の痩せたお兄さんと、小麦みたいな色の髪をした女の子だ


「王都医学院の水属性の魔法使いだ、ポジャカお前のやり方を教えてくれないか?」


ニックさんは我がポグナス家に住んで、

マーシィさんは歳の近いジルの居るジリウスさんの家に住むらしい。


「ポジャカ、実際にこの2人が覚えられるかは分からないが、

普通の水魔法がどんなものか見てみるのもいいんじゃないか? 」

とホーバックさんも言ってくれた。


 さっそく、翌朝から作業を見て貰う。

ホーバックさんも一緒に見学している。


「神の聖名みなにおいて、水よ動け」

 1つ目の壺に魔法を掛けて見せると、

ニックさんが難しい顔にマーシィさんが困った顔になった。


 ニックさんに

「すみません、ポジャカ君。詠唱も普通だし魔力が作用しているのは

なんとなくわかるんだけど、何が起きているのかまったくわからないんだ」

 と言われてしまった。


言葉で説明してみるかな。

「ニックさん、水魔法で出来るのは水の生成と水を動かす事ですよね?」

「そうだね」


「自分で作った水も、湖の水も動かせますよね?」

「うん、どちらも動かせるね」


「樹液は『青の雫』の成分と水が混ざったものなので、

その中から水だけ桶の外に動かしているんですが?」

「それだと『青の雫』の成分も一緒に桶の外に出てしまわないか?」


 「はい、私も初めはそう考えたんですが、

それだと逆に水の入っているものは全て水魔法で

動かせる事になってしまうんです」

 「え? どういう事?」


 「今、患者さんの口に入る『あおしずく』ですが、

  樹液の重さを20とすると、その中の水、重さにして19を抜き出した物です」

 「そんなに水が入っているの?」


 「いえ、実際に固体にするのに、その1から、さらに7割の水を抜いてます。

  つまり樹液の9割7分は水です」

 「つまり、ほとんど水なんだ」


 「はい、その辺の木の枝もその中にある程度の水を持っています」

 「そんな物にも水があるんだ」


 「同じ大きさの枝でも、生木と陽に当てて乾いた枝では乾いた方が軽くなります。

  その重さの差が中の水の差です」

 「その枝の中の水が何か関係あるの?」

 「枝の中に水があって、それを水魔法で動かしても枝は動きませんよね」

 「やった事はないけど、おそらく動かないよね?」

 「それなら樹液から水を動かしても『青の雫』は動きません」

 「・・・・・・・そうなのかな?」

 「とりあえず、今日の作業を終わらせてしまいますね」


  残りの壺7個を次々に水を抜いていく、1時間程で作業を終えた。



 【ホーバック】


  もうそろそろ9歳だったか、それでも子供の話じゃないな。

  作業を見ていても分かり難かったが、

  含まれている水の重さまで計算してたのか。


  唖然としている2人に声を掛ける


 「どうだ、ポジャカの言う事は理解できたか?」


 マーシィは黙ったまま。ニックが絞り出すように声を出した。


 「あの子8歳なんですよね、医学院の教官よりも難解な事を

  理論立てて説明している様に聞こえました。まだ、何も理解できていません」

 「そうか?」


 「8歳の子の魔法と聞いて、もっと感覚的な物だと思い込んでいました」

 「ニック、それが判るだけでも大したもんだ」


 「あと、恐らくなんですが」

 「なんだ?」


 「あれ、普通の魔法使い10人でも出来ない位の魔法使っていませんか?」

 「水属性の魔法使いから見ても、やっぱりそうか?」


 「俺達、あの子の手伝いと魔法を覚える為に呼ばれたと思うんですが、

魔法を覚えてもあの量は無理じゃないかと」


 「そうだろうな、でもまだ魔法が覚えられるかどうかも分からないんだ。

 おそらくお前たちが覚えてくれれば他の水属性にも教えられる可能性がある。

 そうすれば、何人、何十人かで出来るんじゃないか?」


 「何十人かですか、少し安心しました」


 「今、あの子1人なのは流石に問題だからな。

 あの子に何かあれば『青の雫』が作れなくなる」


 「樹液を煮詰めて作る方法も試したと医学院で聞きましたが?」


 「時間と手間と燃料を掛けてやってみたが、薬の効果は出なかった。

 引き続き試作しているが当時の製法とは何かが違うらしい」


 「そうですか、責任重大ですね」


 「おう、よろしく頼む」


 「水属性の地位向上の為にも頑張ります」




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