第7話 対価

嵐の影響で暗い雰囲気の村にやって来たホーバックさん


「すまない、ポジャカ。君の家で少し話をさせてもらってもいいかな?」


 と言ってやってきた。


お父さんもお母さんも、前回泊ってくれた客人を気持ちよく迎えた。


「ポグナスさんマイラさん、そしてポジャカ君、突然の訪問で驚かせて申し訳ない。

 実は、この前にポジャカ君から貰った物のことでね」


「そうなのか?ポジャカ」とお父さん。


「うん、森の樹の樹液を固めて作ったんだ、

前に、あの樹の樹液は喉に良いものだって聞いた事があったから

ホーバックさんにあげたんだけど」


「それでは、あれはポジャカ君が作ったのか」


「そうだよ、お孫さんよろこんでくれましたか?」


「ポジャカ君、あれが『青の雫』だよ」


「え? あれは琥珀色でも液体でもないですよ、

 樹液を固めただけなんですが?」


「ああ、私も頂いたが素晴らしい甘さだった、

だが結果的にあの樹液で孫の断声病も治ったんだ」


「ポジャカ、俺も子供の頃なめた事があるが、

樹液なんてそんな甘い物じゃないだろ?」


「うん、ホーバックさん、もしあれが『青の雫』だとしたら

おそらく大量の樹液を煮詰めて作ったモノだと思います」


「ポジャカ君、では君も大量の樹液を煮詰めてあれを作ったのかい?

 樹液が液体で無くなるまで」


それには、お母さんが答える

「いいえ、ポジャカには家のカマドを使わせていませんので、

それは無いと思います」


私に3人の注目が集まった・・・しかたないな


「はい、私は水属性なので魔法で樹液から水を抜いてみました。それで出来たのがあれです」


「魔法で水を抜く?」ホーバックさんが驚いている。


「すまない、ポジャカ。もしあの『青の雫』がまだ有るなら、

 他の断声病の人の為にも譲って欲しいんだ」


「それなら、そこにありますよ」


 私の宝物入れになっている壺を指さす。


「ポジャカ君、開けてもいいかな?」


「どうぞ」


 壺の中には8割程、ホーバックさん曰く『青の雫』が詰まっていた。


「ポグナスさんマイラさん、ポジャカ君、是非これを譲って頂きたい」


 お父さんは少し考えて。

「ホーバックさん、まことに浅ましい話だが、

俺と一緒に小島に行ったジリウスがこの間の嵐で畑を失った

 申し訳ないが、あいつに助力をお願い出来ないだろうか?」

 と頭を下げた。


「ポグナスさん、頭を上げてください。

譲ってほしいと言っても私は商人だ、

もちろん対価は支払うし助力についても聞かせてもらおう。

それに、この『青の雫』は村の新しい産業にならないだろうか?」


お父さんの顔が久しぶりに明るくなった。


「ありがとう、ホーバックさん。これでジリウスを助けられる」


「いや、こちらも孫を救われたんだ。お互い様ですよ」


「すまない、ホーバックさん。ジリウスに話してきます」


 お父さんが走って行ってしまった。


「お母さん、お父さん良かったね」


「ええ、助けられなくてつらそうだったからね」


「ポジャカ、良ければ『青の雫』を作っている所を

見せてもらっても良いだろうか?」


「はい、いつも朝、森に出かけて作ってますから。

よかったらどうぞ」





 翌朝、ホーバックさんとお父さんが一緒に来てくれた。


 森を歩いて桶の仕掛けてある場所に向かう、

まずは1つ目、桶を取り外して中を見る。


いつもの様に樹液が4L程溜まっている。


「ほお、樹液はこんなに溜まるのか? 

この桶はいつ取り付けたのかな?」


「毎朝来てますから、これは昨日の朝取り付けたものです。」


桶の樹液に魔法を掛ける。


「神の聖名みなにおいて、水よ動け」


私の髪が輝き10分程で桶の底に塊が出来る。


「こんな風に作っています」


 ホーバックさんが、唖然とした顔で見ている。


「次に行きます」


2つ目の桶に移動する


「何ヶ所に桶を取り付けてあるのかな?」


「今は3ヶ所です」


 2つ目の桶に到着した

 取り外して中をみる、これも大丈夫だ

 この桶にも魔法を掛けて10分で塊を作る。


「次、最後の3ヶ所目に行きますね」


3つ目の桶に移動して中を確認する。


「すみません、週に1度1個の桶だけお供えに使っています」


 魔法を掛けて、今度は底に液体を残す。


湖のほとりでいつもの様に

大きなへこみのある葉っぱのコップに樹液を入れて

平たい岩の上に置き手を合わせて祈る。


「後は湖で桶を洗って樹に取り付けに行きます」


 桶を魔法を使って洗っていると。


「ポグナスさん、あの葉っぱのコップ見覚えありませんか?」

「ああ、あの葉っぱが小島の祠にあったのはそういう事だろうな」


 何か話しているみたいだ。


 「ポジャカ君、そんなに魔法を使って苦しくなったりはしないか?」


 「今まで苦しくなったことはありませんが、苦しくなる物なのですか?」


 「ええ、魔法を使って体の中の魔力が少なくなると、

  身体が警告を出して苦しく感じるんだそうです」


 「そうですか、毎日同じ事をしていますから、

  桶の数を増やした時は気を付けないといけませんね」





  村に戻って、今度は村長とジリウスさんを交えての話になる。


 「今回はこれを手付に持ってきました」


  ホーバックさんが革袋を出す。


 「金貨で500枚あります、ご確認ください」


  ジリウスさんが「ひっ」と声をあげた。

  村長が袋の中の金貨を確認している。


 「確かに金貨500枚あります」


 そういえば、貨幣価値がわからないな、

 村で買い物をすることもないし。


 税は物納だし。


「残りの金貨1,000枚も次回来るときに持ってまいります」


 ホーバックさんは私の宝物入れをポンと叩いた。


 村長が

「これだけあれば、村の復旧どころか。

今まで手が入れられなかった所の整備はもちろん

 村の設備の改修や、かなりの貯えになります」


と言っていたからかなりの金額なんだろう。


ただ、気になったのでこれだけは聞いてみた。


「こういう新たな産業を起こす場合、

届け出とか税金等はどうすれば良いのでしょうか?

ここの領主様付の納税官様に相談になりますか?」


 村長が「ん~」と考え込む。

お父さんとジリウスさんはポカンとしている。


 すると、ホーバックさんがニッコリ笑いながら


「この取引に関しての税金はこちらで対処しますので問題ありません。

もし納税官が何か言ってきたら

王都のナック商会が納税しているとお答えください」


「はい、ありがとうございます」

何故私がお礼を言っているのかな?


「それから、小舟を用意しますので

小島の祠を修理させた方が良いと思います。

 ポジャカ君がやっているお供えも祠が修理出来たら、

そちらの方にお供えした方が良いかもしれませんね」


「そうですね、私もあれは、しっかりお祀りしていた方が良いと思います」


「ポジャカ君、『あおしずく』を作る桶を増やすのでしょうが、

今は、君しか作る事が出来ないんです。

くれぐれも無理はしないで下さいね」


 「はい、気をつけます」


 ホーバックさんは馬車で帰っていきました。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る