第30話 黒き獣
その場所は皇都エンプラサスから南に馬車で3日程の位置、
南の都市サウトマへと向かう街道の近くにあった。
「あの~姫様、今回は危険なので同行はやめて頂きたいのですが?
それにフメサリスさんも一緒とは、
できれば向こうでのモデルは勘弁して頂きたいのですが」
「ポジャカ様、私は言いましたよね『全ての責任は私が取ります』と
ポジャカ様の安全を確保するのは私の責任です、
もちろん、お父様の許可ももらってきておりますわ」
「それで、フメサリスさんは何故?」
「ポジャカ様の村で見た朝日の中に映えるポジャカ様と湖畔の風景、
あの様な風景を後世に残さない訳にはいきません。
ですから宮廷絵師にも同行してもらいました」
「すみません姫様、私は同じ年頃の子供に比べて少しばかり理解力が
高いと思っていましたが、間違いでした。
まったく理解が出来ません」
そうして、馬車は南下し、黒塚へと進んでいった。
「ポジャカ様、見えましたわ。あれが黒塚です」
姫様の声で、馬車の外をみると向こうに小さく土を積みあげた山が見えた。
なんだこの気持ち悪さは? あれ?
私は馬車の窓から身を乗り出して叫んだ。
「すぐに馬車を止めてください。あそこに近づいたらダメです」
「ポジャカ様、何を?」
ギルニアさんとセラメルさんもこちらにきてくれた。
「どうした、ポジャカ?」
「おかしいです、あの小山からここまで何も無いんです」
「それが、どうかしたのか?」
「土の山に何も生えないどころか、周囲に草木が生えないなんて
こんな場所にうかつに近づいていけません、すぐに離れてください」
私は大声で叫んだが・・・少し遅かったようだ。
「なんですの、これ・・・・」
ああ、この目に見えない圧力、
神経に直接命令するような感覚、
全身を支配する恐怖の感情、
間違いないな
「【黒き獣】ですね」
セラメルさんが、動けないままで。
「ポジャカ、あの小山の石の蓋から、凄まじい量の粒子が噴出してきている。
沼の時とは桁違いだ、どんな影響がでるかわからない、気を付けろ」
いきなり姫様が胸を押さえて苦しみだした、私は重圧に耐えながら、
自分のかばんから『青の雫』の瓶を取り出して、
栓を抜いて姫様に飲ませる、なんとか効いたようだ。
「ポジャカ様、お逃げください」
姫様の懇願が聞こえるが・・・
「だめだな」
私は神経からの命令を無理矢理押さえつけて、石の蓋を睨みつけた。
大人が子供を置いて逃げられるものか。
「姫様、ちょっと行ってきます」
ああ、この目に見えない圧力と神経に直接命令するような感覚、
そして全身を支配する恐怖の感情・・・・
それら全部をねじ伏せて立ち上がる。
馬車から出たとたん、地面に叩き落とされるが知った事か。
無理矢理立ち上がって、
一歩一歩、石の蓋に向かって歩いて行く。
一歩一歩に気力を削られていく、
また倒れたか、まだ立ち上がれる大丈夫だ
ああ、そうか石の蓋に近づくにつれて圧力も大きくなって行くのか
だが、それがどうした、足はまだ動く。
足が動かなくなってきた、腕を動かせ
まだ、石の蓋まで距離があるぞ
私の身体に何か力は残っていないか?
ああ・・・まだ魔法が残っている、
だが自分の体内の水を動かすと・・・うん死にそうだな、他に何か手はないか?
そうか、水を生み出して、後ろから叩きつければいいんだ。
あと、一度だけでいい、立ち上がれ。
残りの体力と気力を振り絞れ・・・
・・・よし、なんとか立ち上がった。
後は、背後に水を生み出して
斜め下から突き上げる様に水を叩き込めば
あそこまで、飛ぶだろう
さあ、ポジャカ、覚悟を決めろ
「せ~の~」どか~
身体が宙を飛ぶ、目測を誤ったのか、力加減を間違えたのか
身体は石の蓋よりも上の土に叩きつけられた。
一瞬、意識が飛びそうになるが、唇を噛み切って意識を保つ。
「石の蓋に当たってたら死んでたな、結果オーライだ」
石の蓋と土との間にすき間がみえる、なんとか入れそうだ
「さて、【黒き獣】とご対面といこうか、さてお前は何を求める?」
【青き蛇】は忘れられたくなかったんだろう
【黄色き蜃】は滅びたくなかったんだろう
身体をすき間に差し込んで、中に落ちた。
中は真っ暗だ、何も見えない。
明りは無いな・・・
魔法で水を出す、
私の髪が青く輝いて、周りが見えた。
奥に小さな黒い塊が見えた。
『ポルスなの?』声が聞こえた。
さすがに向こうから話しかけられるのは想定外だ
まあ、嘘をついてもしょうがない。
「いいえ、【黒き獣】、私はポジャカです」
『青い髪』
「はい、前に青い蛇に会ったら、この色になりました」
『ポルスと一緒だ』
その時、私の身体から黄色い光があふれだした。
「なんですか?」
『何?』
私と【黒き獣】の前に映像が浮かび上がってきた。
その映像の中では
青い髪の青年が倒れていて、その横に銀色の髪の青年と
黒い小さな動物が青い瞳から涙を流していた。
「ポルス、ノールすまない」
次のシーンでは、映像はこの穴の中になっていた。
『ポルスが居ないと僕は正気を保てない。
今のうちに、お願いサイカ、僕を、ここに封印して』
黒い動物の青い瞳が赤く染まっている。
「ノール、本当にいいのか?」
『うん、君とポルスが作った国にだけは迷惑をかけたくないからね』
そして、映像は消えて行った。
「そうか、【黒き獣】。あなたの名前はノールと言うのか? 」
『うん、そうだよ。しかし君はポルスによく似ている』
「いや、髪だけだろう。私は9歳の子供だよ」
『そうなのかな?』
「それで、あなたの正気を保つためには何をすれば良いのかな?」
『何故かわからないけど、衝動が消えている』
「それは良かった」
『もしかして、何か迷惑を掛けた?』
青い瞳が心配そうに問いかける。
「いや、この周囲に草木が生えなかったくらいじゃないかな? 」
『それなら、良いんだけど』
「それで、ノールはこれからどうするんだ?」
『辛かった衝動が消えたから、ゆっくり眠ろうと思う』
「そうか、今度はゆっくりと眠れるんだな」
『ああ、ポジャカだったか、お休み』
「おやすみノール」
ノールが消えた闇の中で考えた
全身が痛くて動けない・・・
さて、どうやってここから出ようか?
結局、ノールの重圧が消えたことで、
助けに来てくれた人たちにロープで引き上げて貰いました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます