第28話 見つけた物

皇帝執務室


その執務室のなかでは、サクミリモス皇帝が

内務大臣から調査報告を受けている最中だった。


「それで、調査の結果はどうだった」

「はい、今回の件の全ての患者が南方から入って来た糖蜜酒を

飲んでいた事が確認されました」

「その酒はすべて回収せよ、原因はそれか?」

「現在、帝国医局で調査を始めていますが、医局長の意見では可能性は高いと」

「皇国に来たばかりの9歳の子供に、原因を見つけられては立場が無いな」

「陛下が、あの場で問われなかったら今も原因は闇の中でしたな。

それを考えるとぞっとします」

「私の戯言が役に立ったのは久しぶりだな」

「今回ばかりは本当に助かりました」

「いや、本人に断られたにもかかわらず。

 無理を言って来てもらったイリシメルの手柄だな」

「それも、ありましたな」

「あの青い髪を見て、どうしても来てほしかったらしいな」

「この国の者ならば皆そう思います」

「それで、賢者殿はどうしておられるのかな?」

「姫様が絵師を連れてこられて、応接室に行かれました。

今頃絵のモデルをさせられているかと」

「それは、気の毒にな」


皇城内応接室


私は現在、イリシメル姫と宮廷画家のフメサリスさんの前で

姫様に指定されたポーズを取っている最中です。


「あの~姫様」

「ポジャカ様、動かないでください」

「このポーズは、あとどれくらいの時間でしょうか?」

「もう1時間、お願いします」

「途中で休憩入れて貰っていいですか?」

「次のポーズに行く前に休憩を入れますね」

「姫様、すみません、ポーズって、あといくつあるか、

 差し支えなければ教えて頂いていいでしょうか?」

、あと5つです」

「今は? もしかして増えるんですか?」

「後で、ポジャカ様の魔法を使ったところも描きたいので

魔法の実演をお願いしますね」

「姫様、腕と足がしびれてきました」

「もう少し、我慢してくださいね」

「頑張りますから、ポーズを減らしてもらえませんか?」

「ポジャカ様、この絵師を連れて村まで伺いますから湖畔でのスケッチも

 協力してくださいね」

「なんですか、姫様。その話は初耳ですよ」

「大丈夫です、そちらの国王陛下にはちゃんと許可をいただきました。」


皇城内応接室


長時間のモデルをやっと終わらせてもらったのは、

もう夕刻の食事時間に近い頃だった。


「疲れた~」


ソファーで横にならせてもらってます。

謁見の間の時よりも疲れました。

ところで姫様、“それでは続きはまた明日”ってどういう事ですか?

ギルニアさんが、こっちを見て大笑いしている。


「ポジャカが人に振り回されている所を始めてみたぞ」

「ギルニアさん、それだとまるでいつもは

私が他人を振り回しているみたいじゃないですか」

「ポジャカ、お前いつもあれだけ他人を振り回しておいて自覚がなかったのか?」


ギルニアさんがおどろいた様な顔でそんな事を言ってきた。


「ギルニアさん、私は農村生まれの普通の9歳の少年ですよ、

他人を振り回すような事を出来る訳が無いじゃ無いですか」


 「ポジャカ、普通の9歳の少年は他国で発生した謎の病気について、

原因究明に協力したりはしないと思うぞ」


「それこそ買いかぶりです。あの内容ならこの国の医療関係者だって

間違いなく予想していますよ」


「それは・・・違うと思うぞ」


「いえ、『この小僧何を分かり切った事を偉そうに話しているんだ』

 って絶対に言われてますよ」


皇帝執務室


「陛下、わかりました。」

「医局長、どうしたね」

「糖蜜酒に混ぜ物がされています。恐らくこれが病の原因かと思われます」

「輸入元はどこの商会だ、何故こんな事になったのか?」

「輸入元はカブナバ商会でした。どうやら南方で大量に買い付けた酒に

混ぜ物がされたのを気が付かなかったというのが言い分のようです」

 「しかし、結果的にこれが病の原因であれば責任は重いな」

 「酒の輸入に関しても法整備を進める必要があるでしょうな」

「とりあえずは、製造元の確認できない酒の販売は禁止するしかあるまいな」

「輸送途中で混ぜ物がされた場合の事も考えねばなりませんな」

「困ったな、かなり大きな問題になるな」

「そういえば、賢者殿は最近になって村で酒造りを始められたと聞いております」

「それならば、この問題にも何か案を出してくれるかも知れないな」

「はい、しかし賢者殿の年齢では酒は飲めないでしょうに何故酒造りなんでしょうな」

「まったくだ」


そうして、私はまた皇帝陛下に呼びだされた。

「皇帝陛下、私をお呼びと聞きましたが」

「ああ、賢者殿。先日の謁見の間での話だが」

「はい、病気の話ですね」

「ああ、どうやら南方から輸入された糖蜜酒に混ぜ物がされていたのが原因のようだ」

「なるほど、皇帝陛下、その混ぜ物は作られてから、

どこで入れられたのかは分かっているのですか?」


「いや、それが不明なのでな、

聞けば賢者殿は最近村で酒を造られたと聞く、

それならば、法整備についても何か対策は無いかと思ってな」

「そうですね、可能なら酒が造られた所で蓋に封印をして、

手元に届くまで封を切らない様にしたいですね」

「ほう、封印か」

「王国でも酒造りは国の認可が必要ですから、

もう一歩進めて国から酒蔵に対して封印用の印を与えて、

その印紙が破れている物は信用できないから

流通させないようにするのと、印の偽造を罪とする事で、

飲む人が安心して口に入れる事が出来る様に出来るかもしれません」

「なるほど、飲む者の安心か」

「はい、酒という一つの産業にとっても、

責任の所在がはっきりした方が良いでしょうから」

「わかった、大臣たちと相談してみよう」


閑話 瓶


今、僕は皇国の特産品である陶器で作った瓶(びん)を見せられている。

なるほど、こう来たか。

酒を大きな樽や甕で運んだ後に、小売店が小瓶に入れ替えて、

ここからは小売店が責任を持つやり方か。

でも、これなら『青の雫』にも使えるな。

「すみません、この小さい瓶2~3本貰ってもいいですか?」

実際に『青の雫』を入れてみて、使い勝手を確かめてみよう。






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