皇国の章

第25話 姫が来た

王城 謁見の間で国王アグライト・バンダルは他国からの使者に対応していた。


使者は青い民族衣装を来た、銀色の髪の年若い女性だった。


「アグライト王、わがサーキザル皇国への『青の雫』の提供ありがとうございます。

我が父であるサクミリモス皇帝に代わりお礼を申し上げます」


素晴らしく優雅な物腰での挨拶だ


「『青の雫』の生産もやっと軌道に乗ったのでな、

やっと他国への提供に踏み切れたのだ。

まずは隣国の友好国である貴国に送らせていただく

貴国の断声病にかかった民の為に役立ててくれ」


使者の女性は、微笑みを浮かべたまま


「実は、もう一つお願いがございます。

我が国にも噂に聞きます、この国の智者ちしゃ

『青の賢者』様に相談したい事があるのですが、可能でしょうか?

できれば我が国に招待させて頂く許可を頂きたいのですが?

お認め頂けますでしょうか? 」


国王はそばにいる宰相と顔を見合わせ

「すまぬが、それは我の一存では不可能だ」

「そうなのですか?」


「『青の賢者』を貴国に送れない理由がいくつかある。

まず現在生産されている『青の雫』はそのほとんどを彼一人で作っている、

彼が居なくなれば生産が全体の1割ほどに落ちるだろう」


宰相が続ける

「それに彼には、あらたに事業を任せた所です。

今はそれに集中している最中ですから止める事は難しいかと」


「そうなのじゃよ、昨年、彼に王都で蔓延した奇病の調査と対策をさせてしまった。

その間『青の雫』の生産は停止させてな。正直これ以上の負担をかけられない」


「そうですな、それに彼は、この地で長く失われていた

「青い神」の加護を受けた御子みこでもあります。

今回、奇病の対策をした際に「黄色き神」の加護も受けていると、

多くの民が信じているようです。

彼が王国から離れる事で、民の不安を招くことになるかもしれません」


国王がため息をつきながら

「そして、最大の問題が、彼がまだ9歳の少年だと言う事だ。

神の加護を受けたとはいえ、

9歳の子供に王都の奇病を調査させてしまったことは

我も本来許される事では無いと思っている。

両親から引き離し、調査させた事もそうだ

結局あの子に奇病の原因調査はおろか対策までさせてしまった。

この上に他国に行けとはどうしても言えない。」


「国王陛下、無理を言って申し訳ありませんでした。

では、私がその『青の賢者』にお会いする事は出来ませんでしょうか?」


「それならば、近衛から案内を付けよう。ギルニア、セラメル

イリシメル姫をニミグラ村まで案内せよ」


「「はっ」」


【セラメル】


サーキザル皇国の馬車と護衛の騎士と王国の騎士が並んで移動している。

ギルニアは馬で、私は姫に乞われて共に皇国の馬車の中にいた。


「姫、私に何か御用ですか?」

「いえ、『青の賢者』様について、どのような方かお聞きしておこうと思いまして」

「どのような事を、お聞きになりたいのですか?」

「はい、智者とお聞きしましたが。どのようにして、そのような智を身に着けたのでしょうか?」

「それは、まったくわかりません。しかし知識欲は旺盛ですので、

迂闊に話しかけると質問攻めに会いますのでお気をつけください」

「そうなのですか?」


「はい、私も外にいるギルニアも初めて会った時に質問攻めに会いました」

「好奇心旺盛な方なのですね」

「はい、ですが普通の子供の好奇心とは少々毛色が違うようで、王都の文化や歴史

 社会形態等、まるで学者に質問されているようでした」

「国王陛下にお聞きしましたが、奇病の原因調査までされたとか? 」

「そうですね、あの時は大変でした」


 ふいに、あの時の情景が脳裏に浮かんだ。

 いかん、気が付けば私は涙を流していた。


「失礼いたしました」

 乱暴に涙を拭う


「セラメル殿、実は『青の賢者』様について、私共も調べました。

しかし、青の賢者様が黄色の神様を慰めたという話と

民衆の水魔法によって癒されたという事しか分かりませんでした。

あの時王都で一体、何が起きていたのでしょうか?。

近衛騎士であるあなたが思い出すだけで涙が出るような事など

それほど無いと思うのですが」


「いえ・・姫、別に隠されてはいないのですよ。

事の発端は王都で発生した、子供が感染する病でしたから。

原因がわからず、あの子が呼ばれて、調査して原因を見つけました。

しかし・・・その状況は最悪でした」


「最悪ですか?」


「はい、そうとしか言いようがありませんでした。

黄色の神が住む沼に、廃棄された鉱山から流れ出た毒が流れ込んでいて

神のあげた悲鳴が王都に住む子供達に伝わっていたんです」


 姫が口元に手をあてた。


「鉱山から流れ出る毒は止めましたが、沼に流れ込んだ毒の除去が問題でした。

 子供達の病状もあって、猶予は1月と言われていました。

 あの子はそんな状況でも2つの方法を出してきたんです。

 一つは、あの子の使う水魔法を多くの人に教えて、

 大勢の人の手で沼を浄化をする方法でした」


「そうですか、それで民衆の水魔法によって癒されたなのですね」


「そして、もう一つの方法が。毒に侵された沼の前に天幕を張り

あの子がひたすら浄化を続けることだったんです」


「そっ、そのような事が許される訳が・・・」


「子供達の命がかかっておりましたから、王は許可されました。

初めてですよ、あんな地獄のような光景を見たのは」


「地獄ですか?」


「幼い子供が、1日に2度天幕から出てきて大人が汲んだ水を浄化していくんです。

数十個の壺の水が浄化されて、子供が力尽きたら

その子を抱き上げて天幕に連れて帰る、その繰り返しです。

それが何日も続くんですよ・・・・

水を汲む大人がその光景に耐えられなくなっても、

あの子の代わりだけは居ないんです」


【イリシメル姫】


なんというか、壮絶な話を聞いてしまった。

これは確かに誰も話したがらないだろう。

しかし、我が国の民の為に青の賢者様の話だけでも聞きたい。


馬車は森の近くの小さな村に到着した、ごく普通の農村の風景だ。


近衛騎士のギルニア殿が、村人に声をかけている


「おーい、ニック。村長とポジャカを呼んでくれ。

ポジャカには来客で他国からの要人だと必ず言ってくれよ」

「はい、ギルニアさん。倉庫の方にいるはずなので呼んできます」

「あの、ギルニア殿?」

「どうしました、姫?」

「今、何故『ポジャカ様には』とおっしゃられたのでしょうか?

 通常は村長に来客の事を伝えませんか?」

「そういえば、そうですな。まあ、ここは普通の農村ですので

他国の方しかも要人と言っても、意味を分かって貰えないんです」


「ギルニアさ~ん」向こうから小さな男の子が駆けてくるのが見えます。

「え?」私は、今目の前にいる存在が信じられなかった。


「ポジャカ、こちらは隣国サーキザル皇国のイリシメル姫だ

『青の賢者』に会いに来られた」

「それは、大層な名前で呼ばれていますがポジャカと言います。

 姫様はなにか私に御用ですか?」


そこには、我が皇国が憧れていた「青」が存在した。


 私はその場に跪いて

「ポジャカ様、どうか我がサーキザル皇国を救ってください」


「すみません、姫様。今皇国で何が起きているのか

聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」




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