第2話 湖

 私はジャンガに手を引っ張られて森に入った。

「ポジャカ、背比せえくらべしよう」

 ジャンガは私よりわずかに背が高い、すぐに比べたがる。


尖った小石を持ち歩いて、そこら中に、

自分の背の高さの刻み目を入れては大人達に叱られていた。


「いいよ、どこで測る?」

「これにしようぜ」と1本の木まで私を引っ張っていった。

刻み目を入れにくそうな、幹の表面がデコボコした木だ。


 私はすぐ横にある幹に凹凸の無い幹を指さして。

「こっちの樹の方が刻み易くないか?」と聞いてみる。


ジャンガは心底バカにした態度で

「ポジャカ、知らないのかよ、

その樹を傷つけたら、ネバネバがいっぱい出るんだぞ」


 そうなのか、それは知らなかった。

 2人で背を比べて、お互いの刻み目を入れる。

 やはり2cmほどジャンガの方が高い。

 私は(気持ちは)大人だ・・・・ジャンガ今に見ていろ。


 森で遊び飽きたのか、今度は湖に連れていかれた。

さすがに4歳のジャンガが湖に入る事は無く、

近くに落ちている木の実や枝を拾っては湖に投げ込んで

波紋が広がったり、水しぶきが上がるのを見ては喜んでいる。


わずらわしい事に、私に見ろと強要する。


私はその様子を眺めていたが、陽光の下、

光を反射する水面に巨大な影が映っているのに気が付いた。

巨大な影は、中央の島から水面を盛り上げながらこっちへ向かっている。


「ジャンガ、すぐ戻れ。何か来る」大声で呼ぶが、

ジャンガは逃げずに水面を探している。


「逃げろ、死にたいのか」わざと強い言葉を掛けるが、

ジャンガはキョトンとして動かない。


仕方ない、ジャンガに駆け寄り腕を掴んで力任せに引っ張ったその時。

大きな水音を立てて、水面から巨大な蛇が頭をもたげていた。


遠近感がおかしくなる大きさ、頭だけで村の牛より大きく見えた。


水に濡れた青い鱗が陽光にキラキラと輝いていたが、

それすら、私にとって自分を飲み込む死神のころもにしか見えなかった。


目の前には巨大な蛇の頭が口を開けている。


私の身体には、目に見えない圧力がし掛かっている。

恐怖で神経が勝手に命令を伝える


        


それでも私の身体は固まったまま、何も出来なかった。


巨大な蛇は、何故かこちらを見据えたまま動かない。


その時、ふと圧力が軽くなった気がした。

 

無意識に身体が半歩後ろに下がって、引いた足が何かに当たる。


・・・・そうだった。

私の後ろには、あいつがいるんだ。


を置いて逃げられるものか。


「ジャンガ、動けるか?」

「・・・・・・・」

「声も出せないか?」


 さて、どうやってジャンガを助ける? 考えろ。

 蛇の目を睨みつけながら考えを巡らせる。


 ふと、蛇の目に深い知性を感じた気がした、その瞬間・・・

 蛇の目から強烈な光が放たれて、光を浴びた私は意識を失った。


「ポジャカ、ポジャカ・・・」

 ジャンガの呼ぶ声が聞こえた気がした。


 意識を取り戻した時、私は自宅のベッドの上で眠っていた。

 ジャンガが村まで走って大人の人を呼んできてくれたらしい。


 私が目を覚ました時、両親が息を呑むのが聞こえた。


 後で聞いた話だが、私が運ばれてきた時、私の髪は青く染まっていた。


 そして・・・私が目を覚ました時、髪と同じ薄茶色だった私の目は

 鮮やかな青に染まっていた。


お母さんに手鏡に写った自分自身の顔を見せてもらって、

あまりに派手な色合いに驚いた。


 一時的なものかと思われたが、私の髪と目は半年がたった今でも青いままだった。


・・・そして、これは気のせいかもしれないが・・・・


前世の記憶を少しだけと思い出した気がする。



あの時に湖で出会った、巨大な青い蛇については村長から領主へ、

そして国へと報告がされた。


子供とはいえ、2人が目撃し、実際に私の髪と目は青く染まっている。


村に4人の冒険者がやってきて、調査の為1か月程村に滞在していたが

結局、何も見つけられずに帰って行った。


私の青い髪は目立つため、村を出る時には頭に布を巻くようになった。

そして、5歳になった私とジャンガは街の教会で属性判定を受けることとなる。


ジャンガは風属性・・・・・・・そして私はだった。

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