第23話 ちゃんと

「できたで~」


 丈くんの部屋で、お菓子を作っていた和也が、僕の部屋に飛び込んできた。

 前に、僕が予想した通り、丈くんの部屋でお菓子を作り、僕の部屋では、晩ご飯を食べることになった。


 リビングのローテーブルに和也が、おごそかにのせたケーキを見て、僕らは驚いた。薄くスライスされた白桃が、きれいに、少しずつずらして並べられ、美しい模様を描いている。

「めっちゃ、すっごいきれいなケーキやな」

 め、と、すに力を入れて、丈くんが言った。

「ケーキ、っていうか、白桃のタルトな」

「へえ~。これ、ほんまに和也が作ったん?」

 僕も目をみはる。

「うん。すごい?すごい?」

「すごいすごい」

「お店で売ってるやつみたいやな」

 和也は、僕らの大絶賛を受けて、照れながらも嬉しそうだ。


「よし、立派なデザートもできたし、ご飯にしよか」

「せやな。そのケーキには負けるかもしれんけど。こっちも僕と丈くんの力作やで」

「ほんま、うまそうやな」

「ビールもある?」

「あるある」


 今日は、丈くんが、ニラやエビ、ピーマン、人参、いろんな野菜を入れたチヂミを大量に焼いて、僕は、ポテトサラダと、きゅうりのピリ辛、レンコンとベーコンのオリーブオイル炒めを作った。

 あと、これは、買ってきた唐揚げ。ほんとうは、自分で作ればいいのかもしれないけど、揚げ物は後片付を思うと、ちょっと勇気が要る。


「ビールと唐揚げって最高よな!」

 和也が、言う。

「ほんまほんま」

 僕らも同意する。


「このチヂミも、めっちゃいろいろ入ってて、ほんま旨いな」

「うんうん」

 僕らも、チヂミを頬張りながら、うなずく。


「このポテトサラダもめっちゃ旨いな。ゆで卵と玉ねぎ入ってるのが、ええアクセントになってるわ」

「ほんまほんま」


 和也は、いつも何を食べてもご機嫌で、「旨い!」と言う。だから、彼と一緒にいると、僕らもなんでも美味しく食べられる。美味しいと、なぜか不思議に幸せな気持ちになる。


 麻ちゃんは黙っているけど、彼女の楽しそうな気配が、僕にも伝わってくる。

 このところ、僕の様子がおかしかったのを察していた彼女は、僕が、

「今日、丈くんと和也誘って、うちで晩ご飯食べよかなって思ってるねんけど、いいかな?」と言ったら、

「いいね。丈くんも和也くんも、すっごい、いい人たちで、私、大好き」

 と喜んでいた。


 僕らはたっぷり飲んで食べて、それでも、デザートは別腹や! と主張する和也が、ケーキを冷蔵庫から取り出す。

「タルトな。白桃のタルト」

 僕らが、「ケーキ」というたびに、

「タルトな」と修正を入れながら、和也が、そっとナイフを入れようとする。

「ちょ、ちょっと待って! 写真撮るわ」

 丈くんが、スマホを構える。

 僕も様々な角度から、撮る。


「いや、そんなに、いっぱい写真撮られたら、おれ、照れるわ~」

「いや、お前撮ってんちゃう。ケーキ撮ってるねん」

「そうそう。照れるんやったら、和也やなくてケーキや」

「え~」

「ほらほら、このへん、なんかピンク色になって、ケーキ、照れてるで~」

 桃の薄いピンク色を指さして丈くんが笑う。

「ほんまや、可愛い、照れてる~」

 僕も笑ってシャッターを切る。

 僕らは調子に乗って、ケーキと和也の写真を撮りまくり、

「いや、タルトな」と、

 めげずに和也は繰り返し修正し、笑いながら食べながら、僕らの夜は更けていく。



 気がつくと、僕らは、リビングで、それぞれに転がってザコ寝していた。明日が休み、というので、3人ともホッとして気がぬけていたのだ。


 ぐっすり眠っている、丈くんと和也のそれぞれに、軽く、タオルケットをかける。

枕は……2人とも、座布団を二つ折にして、頭の下に敷いているから、それでいいよな。



「麻ちゃん。起きてる?」

 僕はささやくような声で言う。

「うん。起きてるよ」

「おやすみ」

「うん、おやすみ」

「さっきまでおやすみも言わんと、寝てしもてたから、ちゃんと言いたかってん」

「うん」

「おやすみ。今日もそばにいてくれて、ありがとうな」

「こちらこそ、ありがとう。おやすみ、大ちゃん」


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