第2話

コンビニから歩いて5分の場所。

夕焼けに照らされ、キラキラと光る水面。一面が橙色の世界だ。

砂利の敷かれた海沿いの道を歩きながら左側を見る。

この先にあるのは、海に面する高台の公園。公園とは言っても、殆どの市民はこの場所を知らない。

知っているのは、ずっとこの街に住んでいて散歩するお年寄りくらい。

なんで皆知らないかって言うと、ここにたどり着くまでには、入口近くにある舗装されていなくて、木に囲まれている薄暗い道を通らなくてはならないから。見えづらいし通りづらいし怖いしで、誰も気づかないし近寄らない。

この街の戦後完全復旧の記念に造られたそうだけど、もう戦後から何十年も経っているからしょうがないかもしれない。僕がここを知った理由は亡くなったひいおじいちゃんが僕にだけ教えてくれたらしいから。なぜ僕だけになのか、その理由は知らないけど。

でも、景色が綺麗で海と空を一望できるから、一人になりたいときとか気持ちの切り替えをしたいときとかによく来た。波の動きとか音を聴いていると落ち着く。漣ぐらいが一番好きかな。


そんなことを考えているうちに公園に着く前まで来た。

歩いていた時間はそんなに長くないけど、コンビニを出た時間が結構遅かったから、日は水平線に沈み頭も見えなくなりそうだった。

空は橙と紫がグラデーションを創り出して、星と月が小さくまたたいている。

その色がとても綺麗だったから、公園に着いたら写真を撮ろうと思った。

暗くなっているから早くしよう。

足早にちょっと急な坂を上りきると。

普段誰もいなくてベンチが一つ、ぽつんとあるだけのこの公園に。

人がいた。


「え」


しかも女性。

ベンチに座っているからハッキリとは分からないけど、スラっとしてて身長は高めっぽい。高校生のようにも見える。

サラサラとしていて長く白い髪に、深いピンクの目。

現実では有り得ないはずのその容姿がとても美しい。

綺麗な人だな…。

ぼーっとその女性を見つめる。


ハッ…!


思わず見惚れていた。

別に向こうに気づかれているわけではないけど、必死に目を逸らす。

えっと、そうだ、僕は写真を撮りに来たんだった!

あっちに気づかれないように、こっそりと後ろを通って、より海に近くて綺麗に景色が見える場所に向かった。


⧉ ⧉ ⧉


「よし、良い感じに撮れたな。」


ちょうど灯台が灯り始めた頃だったから、暗めの空といい感じにマッチして綺麗な写真が撮れたと思う。

満足できる出来栄えだったのでとても嬉しい。自分の顔は見えないけど、きっといわゆるホクホク顔のようになっているのだろう。


「あれ…、まだいるんだ。」


自分の満足のいくまで撮っていたから、結構時間経ったと思うんだけど。

あの女性はまだ座っている。

それにしても、見れば見るほど綺麗な人だな…。

また見惚れていると、その女性はこちらに気づいた。

あ、こっち見てくれた。顔も整ってるなぁ。

僕はそんなに女の子とかに興味は無い方なんだけど、それでも自然と目がいっちゃうな。


またずっと見つめていたら、彼女はすっくと立ちあがり突然ズカズカ近づいてきた。


「…へ?」


あと2メートルくらいの距離で立ち止まる。


「な、な、なnでしょしょうkあ?」


こういう時に限ってコミュ障発揮か!!うまく呂律が回らない!

女性が口を開いた。


「貴様、私を殺す気だな!!!」


…。


「はぁぁ!?」


な何言ってるのこの人!?中二病かよ!!

綺麗な人なのに見た目とは大違いなこと言うなぁ??

そんなことないな、大違いではないか、よく物語であるもんな。

いやいやいや違うって!そりゃ物語は何でもありだよ!でもリアルでこんなこという奴は基本いないって!

心の中で色々考えていたら。


ん?


なんか黙っちゃったけど?

特に何かしたわけでも言ったわけでもないのに。

ベンチに座り直してる。

と、とりあえずどうしたのか聞いてみるか…。嫌だけど…。


「あの…?だ、だ、大丈夫ですか…?」


「…。」


何も言ってこない…。どうすればいいのこの状況!?

黙り込んでるし…。でもこのまま帰ったりするのも何なんだよな…。

そしたら彼女がゆっくりと口を開いた。


「何か用ですか?私急いでるんですけど。」


すっごく冷たい目で睨みつけられた。


「はぃ!?」


さすがに堪忍袋の緒が切れそうだ。何なんだこの人!?

中二病みたいなこと言ったと思えばベンチに座ってゆったりしてるくせに『急いでる』とか!!しかも睨んでくるの!?訳わかんないって!!

思わず怒りを言葉にしそうになったけど、見ず知らずの人に説教するのもおかしい話。怒りを必死に堪えながらもう一度聞いてみた。


「あのですね…。上から目線も何なんですけど、あなたを心配してるんですよ?こんな時間と場所に、それも女性が一人でいるなんて普通おかしいと思ったので声をかけたんですけども。大丈夫なんですね?本当に。これ以上変な事言ったら知り合いじゃなくても許しませんからね?」


さあ、この人はどんな反応をするのだろう。流石に普通の反応をしてほしいんだけど…。

ジッと見つめていたら。


「それではこれで失礼しますね。」


「えっ…?」


彼女は立ち上がると小走りに去っていってしまった。


「何だったんだあの人はぁ…!?」


結局何もないの!?変な事言ってきたくせに!!!

呆然と立ち尽くすしかない僕は、叫ぶ。


「何なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

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AI〈アイ〉はただひたすらにズレている せふカのん @sehukahuka

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