第17話 結婚
三島と君江はお互い一緒に生きて行くことを約束し、結婚の準備をする。忙しい最中ではあるが、三橋と真由とは頻繁に会って、お互いを祝福していた。今日も結婚式の日取りと場所を決定した報告を三橋と真由に行っていた。
「・・・になったの。まあ、この辺が妥当かなって思って」
君江がしょうがないと言った顔で真由に話す。それを聞いていた三島は呆れた顔で君江に話す。
「おいおい、よく言うよ。何ヶ所まわったと思っているんだ?それで妥協なんてよく言うよ。桐島さん、聞いてください。こいつの最重要点はウエディングドレスがいかに綺麗か、言い換えれば、いかに自分が美しく見えるかって点なんです。僕の意見なんてこれっぽっちも聞き入れないんです」
「何よ!あなたの意見も聞いたじゃない!」
「よく言うよ!俺に意見聞いたのなんか、お前のウディングドレスどれが良いか、だけじゃないか?」
「それ以外もあったでしょ!」
「いや、ない!」
二人のやり取りを聞いていた三橋と真由は苦笑していた。すると真由が二人の仲裁に入る。
「まあまあ、二人ともそんなに見せ付けないで下さい。三島さん、君江が自分のことに夢中で、あなたの意見を聞かなかったのも大目に見てやってください。何せ、結婚式は女性にとって夢の実現なんですから」
「そうですか・・・」
三島も真由に言われて恥ずかしそうに納得する。君江も少し反省した様子で三島に呟く。
「ごめんね・・・私、自分で何もかも決めてしまって・・・これからはあなたの意見をちゃんと聞くわ・・・」
「いや、俺も言い過ぎた。二人で楽しい式にしよう」
「うん」
今度は惚気はじめた二人を見て、三橋と真由は呆れて微笑む。
「はいはい。惚気もそれくらいにして下さい。まだ結婚前の僕達には見ていられません」
三橋がふざけて言った。
「お前達はまだなのか?もう準備し始めているかと思ったよ」
三島が不思議そうに聞き返す。すると三橋は一瞬考え込む。その様子を真由は気が付いていた。しかし三橋はすぐに微笑み答える。
「そうだな。君達を見習っておくよ」
三橋の答えに真由は少し引っかかるものを感じた。
三島達と別れた三橋と真由は、帰り道、無口のまま歩いていた。三島に結婚のことを聞かれた時の三橋の表情が寂しそうだったのを、真由は感じ取っていた。二人が真由の家の前まで来ると、三橋は真由に微笑んで話し出す。
「それじゃ、また」
「待って・・・」
真由は三橋の袖を掴み答える。
「三橋さん・・・上がっていって・・・」
「桐島さん・・・」
「私・・・さっき三島さんに結婚のことを言われた三橋さんが戸惑っているのに気付いています。それは利恵のことでしょ?だから、今日、私達のこと、利恵にわかってもらいたいの・・・」
三橋は自分の気持ちを理解してくれている真由に感謝した。三橋は笑顔になり答える。
「ありがとう。桐島さん・・・じゃあ、お邪魔するね」
二人は手を取り合い、玄関に向かった。
「お帰り!あれ?」
出迎えにきた利恵は、真由の後ろに立っている男性に気が付く。
「み、三橋さん?」
三橋と真由は玄関に並んで立つ。利恵も驚いた表情で三橋を見つめる。すると三橋が利恵に向かって話し出す。
「利恵ちゃん、君も知っているとおり、僕は君のお姉さんを愛している。君には今まで申し訳ないことをした。何度謝っても足りないことはわかっているが・・・どうか僕とお姉さんの仲を認めて欲しい」
三橋が頭を下げると真由も慌てて頭を下げる。二人の姿を見て利恵は、最初、驚いていたが、やがて笑顔になり、二人に語りかける。
「頭を上げて・・・二人ともお似合いよ!私のことは気にしないで。本当にもう平気だから」
利恵の言葉に三橋と真由は笑顔になる。真由は利恵に抱きつき、三橋も利恵に近づいて利恵の頭を撫でる。
「ありがとう、利恵ちゃん」
三橋の言葉に利恵は黙ってうなずいた。
三人はしばらく楽しく会話をすると、三橋が帰る仕度をはじめる。
「それじゃ、桐島さん、また会社で」
「三橋さん、私、送るわ」
「大丈夫だよ。すぐ近くだから」
「でも・・・」
二人の会話を不思議そうに聞いていた利恵が二人に尋ねる。
「ちょっと待って・・・二人の会話、変よ」
三橋と真由は不思議そうに利恵の顔を見ると、利恵は続けて話す。
「何で二人とも苗字で呼び合っているの?『桐島さん』、『三橋さん』って、恋人同士の呼び方じゃないわ。お互い名前で呼び合ってみて」
利恵の言葉に三橋と真由は困惑する。
「何やってんの?早く呼んでみて!」
利恵が督促すると、三橋と真由は苦笑いをし、利恵の言うとおりにする。
「それじゃ、真由・・・また明日」
「徹も気をつけてね」
二人はお互いを名前で呼び合うと照れて吹き出す。そして三橋が利恵に向かい
「利恵ちゃん、これでいいかな?」
と、尋ねる。利恵も笑顔で二人を見つめ
「これからずっとそう呼び合ってね」
と、言って二人の肩を叩いた。三橋が玄関を出ると利恵は真由にお願いをする。
「私、今日だけ三橋さんを送っていっていい?」
「利恵・・・」
「誤解しないでね、それに襲ったりもしないから」
利恵の言葉に真由も苦笑し、黙ってうなずく。利恵は玄関を出て、三橋を追いかける。
「三橋さーん!」
利恵の呼びかけに、三橋は驚いて振り返る。
「どうしたの?」
「今日だけ、私が送っていくことをお姉ちゃんに許してもらったの」
「えっ?」
「お姉ちゃん説得するの大変だったんだから・・・最後は殴り合いよ!」
利恵の冗談に三橋は微笑む。
「そう、じゃあ近くまで一緒に行こうか?」
「うん」
二人は夜道を歩き出す。しばらくし、三橋の家の近くに来ると二人とも立ち止まる。
「利恵ちゃん、ありがとう。ここでいいよ」
「うん・・・」
何かを言いたげな利恵を見て、三橋は不思議そうに聞く。
「利恵ちゃん・・・僕に何か言いたいことがあるの?」
「ううん。そうじゃないの・・・三橋さん、一つお願いしていい?」
「うん。何かな?」
「目をつぶって欲しいの、渡したいものがあるから・・・」
「そんな、いいよ」
「受け取って!お願い」
「うーん、目をつぶる?それでいいの?」
「うん。絶対開けちゃダメよ!」
「わかった。じゃあ目をつぶるね」
三橋は苦笑しながら目を閉じた。利恵は回りをキョロキョロ見渡した後、三橋に近づくと、三橋の唇に自分の唇を合わせた。三橋は驚いた表情で目を開けるが、瞼を閉じたまま唇を重ねている利恵を見てそのままじっとたたずむ。しばらくして利恵も三橋から離れる。
「ごめんなさい・・・でも、私のファーストキスは三橋さんとしたかったの・・・私の最後のお願いだから・・・許してください」
うつむきながら謝る利恵を見て、三橋は微笑みながら抱き寄せる。驚いて三橋の顔を利恵は見つめると、利恵を優しく見つめながら三橋は話す。
「今は自分を恋人だと思って。君のファーストキスの思い出が悪くならないように・・・」
三橋の言葉に利恵は嬉し涙を流し、三橋に胸にきつく抱きつく。しばらくすると利恵も三橋から離れ、笑顔で三橋を見つめ、話す。
「ありがとう。本当にいい思い出ができたわ・・・でも、お姉ちゃんには内緒ね。それじゃあ、帰ります」
三橋も笑いながらうなずくと、利恵は手を振りながら帰っていった。利恵は三橋が見えなくなるところまで来ると、胸を抑える。三橋とのキスを思い返し、気持ちが熱くなっている自分に言い聞かすように呟く。
「初恋は実らずね・・・きっと良い思い出に・・・なるよね」
そう言うと笑顔に戻り、自宅へと向かった。
三島と君江の結婚式に三橋、真由、利恵の三人は招待される。初めての結婚式に利恵は興奮気味で、あれこれと真由や君江に質問をしていた。そんな利恵の姿を三橋は微笑んで見ていると、三島がそっと近づいてきた。
「三島、おめでとう」
「ああ、ありがとう。まあ、これで俺も年貢の納め時かな?」
「何言ってんだよ。君江さん、すごく綺麗じゃないか」
「そんなことねえよ・・・まあ、顔やスタイルは我慢するとして、あいつが俺には必要だとわかったんだ・・・」
「誰の顔とスタイルが問題なの?」
突然、後ろから声を掛けられ三島は驚いて振り向くと、君江と真由が立っていた。
「私の顔とスタイルに何か問題でも?」
君江が三島を睨みながら言うと、三島は困った顔で
「いや・・・そんなことはないよ・・・今日は一段と顔とスタイルが綺麗だって話していたんだ・・・本当だよ」
と、必死に訴える。
「そうなの?じゃあ、あっちに挨拶しに行きましょう」
笑顔に戻った君江は三島の腕を掴み歩き出す。その様子を三橋と真由は見て吹き出す。
「男って、付き合う女の人で、ああも変わるんだな・・・」
「それは逆も言えるかもね。女性も付き合う男性で大きく変わるから」
真由の言葉に三橋は微笑んだ後、いたずらな顔で聞き返す。
「真由は僕と付き合ってどう変わったの?前の人からどういう風に?」
真由は三橋を軽く睨むと
「何かとげのある言い方ね、私は変わってないわよ」
「そうなんだ。じゃあ、まだ僕の影響は薄いんだね」
「そういう意味じゃないわ・・・なんて言うか・・・」
真由が困った顔をしていると、三橋は真由の手を握りながら話す。
「いいんだ。君は君のままで構わない。君がどう変わろうと僕は君だけを愛しているから」
二人はお互いを見つめ合い微笑んだ。
結婚式も無事に進み、花嫁がブーケを持ってみんなの前に現れる。君江は真由にそっと近づき耳打ちをする。
「私のブーケをあなたに投げるからね」
君江はそう言うとウィンクして歩き出す。真由も微笑んでみんなの輪の中から一歩前に出た。
「花嫁がこれからブーケ投げます。女性の皆様、ご注目願います」
司会がそう言うと君江は皆に背を向け、真由の方角に後ろ向きにブーケを投げた。するとブーケは真由とは全然違う方向に向かい、真由ではない女性がブーケを受け取る。ブーケを受け取ったのは利恵であった。真由と君江は苦笑しながらも拍手する。ブーケを受け取った利恵は困った顔をしていたが、あることを考えつき、君江のもとに走り寄り耳打ちする。君江も笑顔でうなずきながら利恵の話を聞き終えると、みんなの前に立ち話し出す。
「皆さん、ブーケを受け取った利恵さんから提案です。これからすぐに結婚する人に利恵さんはブーケを渡したいそうです。賛同していただけますか?」
回りからは拍手が起こる。すると君江は続けて話す。
「では、私達を結婚に導いてくれた、私達の親友でもあり、利恵さんの姉でもある桐島真由さんと三橋徹さん、前に出てください」
名前を呼ばれた三橋と真由は照れながらも、輪の中心に押し出される。すると、ブーケを持った利恵が二人の前に立ち、真由にブーケを渡す。
「お姉さん・・・幸せになってね」
「利恵・・・ありがとう」
笑顔で話す利恵を真由は涙ぐみながら抱きしめる。回りからは拍手が起こった。二人の姿に君江も貰い泣きしそうになり、
「もう、主役が誰だがわからなくなったじゃない!こうなったら二人の愛の証を見せてもらいましょう」
と、叫ぶ。すると回りからも『キス』コールが鳴り響く。三橋と真由は正面を向いた格好にさせられる。テレながらも三橋は真由の手を握り、真由に話し掛ける。
「愛してる。これからもずっと君を信じているよ」
「私も愛している。これからも信じていてね」
二人が口付けを交わすと回りからは拍手が起こった。その後、回りから三橋と真由はもみくちゃにされ、祝福された。その様子を三島は見て、そっと君江に呟く。
「あの調子なら、あいつの病気は治ったな」
その言葉に君江は微笑みながら答える。
「そうね・・・三橋さんの女性恐怖症への処方箋は真由だったみたいね」
三島と君江はお互い笑顔で見つめ合い、君江を三島は抱き寄せると、三橋と真由を優しく見つめた。
おわり。
女性恐怖症への処方箋 @WARITOSHI
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