第25話 マヌケな妖精もいるのですぅ~♪


 狭霧さぎりさんと合流した私たちは大人しく部屋へと戻った。

 この旅館は比較的、新しいから大丈夫だけれど、不思議な気配がする。


 この温泉郷自体に歴史があるのだろう。

 そのため、妖精や妖怪の類がみついているようだ。


 叔父さんが部屋に戻ってくると、どういう訳か――仕事を手伝うか?――と聞かれた。いつもなら、関わろうとすると注意されてしまうので、珍しいことだ。


 けれど、同時に認められた気もする。

 以前から叔父さんの仕事に興味があったのは確かだ。


 いつかは私も妖精請負人コントラクターの仕事をやろうかな?

 漠然ばくぜんとだけれど、そんなことを考えていた。


優夜ゆうやも……付いてきてくれる?」


 私の問いに――そのつもりだ――と彼は答える。


「二人とも、付いてこい」


 と叔父さん。どうやら、問題ないようだ。


瑠璃るり唐草からくさも行くのですよ」


 と言って、ルリが私の頭の上に乗った。叔父さんが向った先は別の旅館だ。

 おもむきがあると言えばいいのだろうか?


 入口の屋根の上には、髪の長い着物姿の男性が煙管キセルをくゆらせていた。

 恐らく、植物の精霊だろう。


 悪いモノが旅館に入って来ないように見張っているのかもしれない。

 私たちを一瞥いちべつしたが、特に問題はないようだ。


 それよりも、浴衣に羽織姿のまま、出て来てしまったけれど大丈夫だろうか?

 旅館の女将らしき人に挨拶あいさつをすると、そのまま奥の客室へと案内される。


 どうやら、この部屋で夜な夜な不思議なことが起こるらしい。

 大抵は妖精や妖怪の仕業だろう。


 嫌な気配はしないので、危険はなさそうだ。


「あの『掛け軸』があやしいのですぅ?」


 とルリ。白い光の流れ――『妖精の通り道』――が見える。

 叔父さんもうなずいたので、間違いないようだ。


 いや、叔父さんには最初から分かっていたのかもしれない。

 だから、私を連れてきてくれたのだろう。


 なんの変哲もない風景画。


「ウズウズするのですぅ~♪」


 と言ってルリが『掛け軸』の中に入ってしまった時はおどろいたけれど、何事なにごともなかったかのように、ぐに出てきた。


「だ、大丈夫なの?」


 私の問いに、


なにがですぅ?」


 とルリはとぼけたように答える。どうやら、問題ないらしい。

 私は、ホッと一安心する。


「これは妖精が通りたくなるように描かれた絵だ――とは言っても……」


 効果があるのは小さな妖精くらいだろうな――と叔父さん。

 なるほど――『妖精ホイホイ』だね――と私は納得する。


「マヌケな妖精もいるのですぅ~♪」


 とルリ。いや、ついさっき引っ掛かったばかりのくせにどの口が言うのやら……。


「妖精を捕まえたいのだったら、もっと効率的な遣り方がある――恐らく……」


 妖精が通るのを見て、楽しむためのモノだろう――と叔父さん。

 やはり、最初から検討はついていたようだ。


 だとするのなら、私を試したいのはここから先だろう。


「この『掛け軸』は、どういった経緯で、ここにかざられているのですか?」


 私の質問に女将さんは――先日、亡くなった先代の遺品から出てきました――と言う。しかし、先代は骨董品を集める趣味はなかったようだ。


 お客様からもらった物ではないかしら――ということだった。


「確かに――この『掛け軸』をかざってから……」


 奇妙な出来事できごとが起こるようになったかも―――と女将さんが言う。

 どうにも、歯切れが悪い。


しばらく時間をください。一時間ほどで戻ります」


 私はそう言うと、部屋を出た。優夜も付いてきてくれる。


「どうしたんだ?」


 彼の問いに、


「聞いて回るの」


 と私は答える。

 こういう歴史のある場所や建物には、色々なモノたちがみついている。


 妖精や妖怪と呼ばれる不可視の存在。そんな彼らを見付けると、私は『掛け軸』や最近の出来事できごとについて、聞いて回った。


 以前は怖かったはずなのに、平気で話せるようになったのは優夜がいるからだろうか? なれとは怖いモノだ。


 一番、有益な情報をくれたのは旅館の屋根にいた、男性の精霊だ。

 柳の木の精霊らしく、女将さんのことは子供の頃から知っているらしい。


 これで必要な情報は集まった。後は組み立てるだけだ。


「待ってくれ、白菊しらぎく」「なに?」


 優夜に呼ばれ、私は立ち止まる。

 そもそも手をつないでいるので、優夜が歩いてくれないと私も進めない。


「聞いて欲しいことがあるんだ」


 と優夜。話があると言っていたけれど、そのことだろうか?


「こんなところでいいの?」


 私の問いに彼はうなずく。ここは旅館の廊下で、今は人通りもないようだ。


「俺は――お前を妹の代わりにしていた――かもしれない」


 この前、海で出会った朝美あさみという少女のことだろう。

 叔父さんから、話は簡単に聞いている。


 今は妖精請負人コントラクターと呼ばれているけれど、本来は『巫女』や『妖術師』、『魔法使い』や『呪詛師』などと呼ばれていたらしい。


 現代では政府の機関に『陰陽師』が組み込まれていて、警察官として、妖精が関わる事件を解決しているそうだ。


 優夜の祖父はそんな『陰陽師』の家系だったのだけれど、能力を待たないため、その任から外されてしまった。今となっては、普通の暮らしをしている。


 ただ――優夜と朝美――双子の男女が生まれたことで、再び騒動が起きてしまったようだ。二人は能力ちからを持っていたため、本家の方へ引き取られてしまう。

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