第22話 探していた『セミの抜け殻』ですぅ~♪


 この世界には妖精の力を使って、世界を壊そうとしている連中がいる。

 それは人の思いを利用し『妖精を悪いモノに変える』という遣り方だ。


 人は簡単に、善にも悪にもなる。

 ただし――人の心を救うのは人の心である――ということを私は身をもって知った。


 私に出来るだろうか?

 コホンッ――とわざとらしく咳払せきばらいをすると、


「このお姉さんが、お兄さんのお孫さんだからです」


 そう言って私は渚さん紹介する。

 彼女の『年齢』を考えると、そのくらいだろう。


 コクコクと渚さんはうなずく。

 どうやら、正解だったらしい。


 あの落雷以降、記憶が少しずつ戻っていたようだ。

 渚さんの瞳に宿る意思の強さが違う。


 また、呪いを強く受けるほどの『関係者であること』を考慮こうりょすると、おじいさんの血縁者である可能性が非常に高い。


 つまり、みちびき出される答えはおのずと限られてくる。

 『黒い茨』をどうにか出来れば、別にうそでも良かった。


 けれど、正解を引き当てることが出来た。

 私にしては上出来だろう。


 おじいさんは、渚さんの姿を見て、なにかを思い出したようだ。

 きっと、お兄さんと好きになった女性――二人の面影でも見たのだろう。


「お、おおっ……」


 と言って、おじいさんは涙を流す。私は、


「きっと、お父さんはすべてを知っていたのでしょう。おじいさんをあきらめさせるために、お兄さんと一緒に一芝居打ったのだと思います」


 と説明をする。それなのに、誰かがこのほこらに細工をして、おじいさんが後悔し続けるように呪いの結界を張った。


 あるいはそうなるように『兄弟をいがみ合わせよう』としていたのかもしれない。

 少なくとも、妖精を見ることが出来る家系のようだ。


 利用されてしまったと考えるのが妥当だとうだろう。


「兄弟が喧嘩けんかをしないように、おじいさんがその女性をあきらめるように……」


 時がくれば、話してくれるつもりだったのでしょう――そんな私の言葉を聞いて、


「ワシはただ、謝りたかっただけなのに……」


 とおじいさん。


「今からでも、出来ますよ」


 そんな私の言葉で『黒い茨』が消える。

 また同時に、再び大きく洞窟が揺れた。呪いがね返ったのだろう。


「うひぃ~っ!」


 とルリ。今回は優夜が私を抱き締め、かばってくれた。

 もう少し、こうしていて欲しいのだけれど――


 ガラガラと岩がくずれる音が聞こえたのが気になる。


「いかんっ! 出口がふさがってしまった……」


 とおじいさん。慌てて立ち上がろうとして、ひざく。


じじい、無理すんなですぅ~♪」


 とルリ。私たちが入ってきた入口がまだあるので、慌てる必要はない。

 それよりも、ほこらは今の揺れと同時に壊れてしまった。


 外からの影響ではなく、内側から破壊されたのだ。

 なにやら中に入っていた黒い霊的なモノが飛び出していった。


 呪いと一緒に、呪者のもとへと向かったのだろう。

 きっと、あれが良くないモノの正体だ。


 それは上へとのぼっていった。近くに呪者がいたようだ。

 恐らくは、叔父さんと戦っている相手だろう。


 つまり――叔父さんがなんとかしてくれる――ということだ。


瑠璃るり唐草からくさは分かっていたのですぅ~♪」


 なんとも、調子のいいことを言う。

 へー、すごーい――と返している場合ではない。


 私たちは今のうちに脱出した方が良さそうだ。

 渚さんはおじいさんに手を貸す。触れられるようになったらしい。


 ほこらが壊れたお陰で、じきに渚さんの声も戻るだろう。

 私たちは来た時と同様に、渚さんの力を借りて、脱出することに成功する。


「大変な目にあったですぅ~」


 とルリ。まったくである。

 とんでもない、海水浴になってしまった。


 この後、私たちは叔父さんと合流して、渚さんたちとは別れた。

 まずは、おじいさんを休ませるのが先だ。


 改めて『お礼をする』と言っていたけれど、別にいいのに――

 しかし、叔父さんは『正しい対価をもらうべきだ』と主張する。


 私たちのように能力ちからを持つ人間は――安易あんい能力ちから行使こうししてはいけない――ということのようだ。


 能力ちからを持たない人間からすると、能力ちから誇示こじしているようにも見える。

 だからこそ、明確なルールが必要となるのだ。


 『喫茶フェアリーガーデン』の名刺を渡して、私たちはその場を後にした。

 雪風ゆきかぜさん、寧々子ねねこ和奏わかなも心配しているだろう。


すごい雷だったけれど、大丈夫だった?」


 私たちが戻ると和奏がそう言って心配してくれる。


「優夜が私を守ってくれたからね♡」


 そんな私の返しに――なんだか、心配して損したわ――と和奏があきれた表情をする。

 雪風さんは寧々子と和奏を連れて、先に車へ避難ひなんしていたようだ。


 海水浴場は、ちょっとしたパニックになっていたらしい。

 海での落雷は、離れていても感電の危険性がある。


 結局は雑木林に雷が落ちたので、怪我をした人はいなかったようだ。

 皆が無事だったことに、私もホッと一安心したのだけれど……。


 叔父さんの表情がいつもと違う気がする。怒られなかったのは助かったけれど、どうやらまだ、事件は解決していないようだ。


「お土産みやげですぅ~♪」


 とルリ。和奏の頭に、コテンッとなにかを落とす。


なにこれ?」


 落ちたそれをまみ上げ、首をかしげる和奏に対し、


「探していた『セミの抜け殻』ですぅ~♪」


 得意げにルリは言ったのだけれど、探していたのは『綺麗な貝殻』である。

 その後、なぜか私が和奏に怒られた。納得いかない。

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