第21話 やっぱり悪党ですぅ? 瑠璃唐草がやっつけるですぅ~!


「大丈夫ですか?」


 倒れているおじいさんに対して、私は問いかけたけれど、反応がない。

 その一方で、近づこうとしたなぎささんはのどおさえると、苦しそうな表情をした。


 どうやら、二人にからみ付いている『黒い茨』は連動しているようだ。

 このおじいさんをどうにかすれば、渚さんが口を利けるようになるのだろうか?


じじい、死んだですかぁ~?」


 とはルリ。縁起えんぎでもないことを言う。

 優夜ゆうやが私の隣に来て、しゃがみ込むとおじいさんに霊力を送り込んだ。


 ううっ――とおじいさん。

 死んではいなかったようだ。まずは一安心。


「ワシは……いったい?」


 目を覚ましたおじいさんは身体の自由が利かないのか、目だけを動かす。


じじい、ボケたですぅ? 徘徊はいかい老人ろうじんですぅ~♪」


 こんな場所を徘徊はいかいされては、家族も探すのが大変だろう。

 おじいさんの身形みなりは整っていて、立派な着物を着ている。


 優夜の着物姿も見てみたい――いや、違う。

 おじいさんは、それなりの家に住んでいることがうかがえた。


「妖精? お嬢さんは妖精請負人コントラクターなのか……」


 とおじいさん。どうやら、ルリの姿が見えているらしい。

 ただの小娘だと馬鹿にされないのは助かる。


白瀬しらせ白菊しらぎくと言います」


 彼は私の『妖精守ようせいもり』で烏丸からすま優夜です――と私は自己紹介をする。


「いつから『白菊の』になったのですぅ?」


 とルリ。今は無視しよう。

 優夜もなにか言いたそうだったけれど、黙ってくれていた。


 『妖精守ようせいもり』が一緒ということで説得力はだいぶ違うだろう。

 平たくて大きな岩があったので、イスの代わりにすることにした。


 優夜に手伝ってもらい、おじいさんをそこで休ませる。渚さんも手伝ってくれようとしたけれど『黒い茨』のせいか、おじいさんに触れられないようだ。


あやしいじじいですぅ? やっつけるですかぁ?」


 とルリ。シュッシュッ――とシャドーボクシングのようにこぶしり出す。

 おじいさんからすると、こっちもあやしい子供でしかない。


 お相子あいこである。妖精が見えるようなので、おじいさんもルリの態度にはなれているのだろう。大きく溜息をいた後、事情を話してくれた。


 どうやら、おじいさんは、この辺り一帯の地主らしい。

 ほこらを作らせたのは、おじいさんの父親のようだ。


 昔、おじいさんにはお兄さんがいて、とある女性と恋仲になった。

 その女性というのが『人魚だった』という話だ。


 当然のように、父親には反対され、二人は駆け落ちをする。

 今みたく妖精との結婚は理解されていなかった時代のようだ。


「ワシが悪いんじゃ……」


 とおじいさん。


「やっぱり悪党ですぅ? 瑠璃るり唐草からくさがやっつけるですぅ~!」


 さっきからヤケに好戦的だ。良くない気を感じ取っているせいだろうか?

 ただ、今は話がややこしくなるので、黙っていて欲しい。


 どうやら、おじいさんもその女性のことが好きだったようだ。

 魔が差したのだろう。


 兄たちの駆け落ちを助けるフリをして、その計画を父親に教えたらしい。

 結果、お兄さんは捕まり、監禁されてしまう。


 そして、女性は人魚ということで『不老長寿の薬』として、食べられてしまったようだ。


「確かに、人魚の肉を食べると不老長寿になるという話はあるけれど……」


 と優夜。にわかには信じがたいようだ。


「ひぃ~、瑠璃唐草は美味しくないのですぅ~」


 そう言って、ルリは私の後ろに隠れた。

 いさましいのか、臆病おくびょうなのか、どっちなのだろうか?


「それでほこらを作って、まつっていた訳ですね?」


 私の質問に――ああ――とおじいさんはうなずく。

 どうやら、おじいさんはずっと後悔し続けているようだ。


 誰の入れ知恵か分からないけれど、ひどいことをする。

 このほこらは人魚の魂を沈めるような代物しろものではない。


 悪いモノを呼び込むための『呪具』だ。

 以前、叔父さんが見せてくれた『悪魔のオルゴール』に似た気配を感じる。


 こんな物におじいさんは若い頃から、いのり続けていたのだろうか?

 負の感情が集まっていて、良くないモノが生まれようとしている。


 同時に呪いの力も強くなっていったようだ。

 これが原因で、渚さんはこの土地に近寄れなかったのだろう。


 ただ、今は呪いの力が弱まってきている。

 きっと、叔父さんがなにかしたに違いない。


 さっきの落雷といい、早々に戻って来ないことを考えると、手を打ってくれているはずだ。こんな物は、早く壊した方がいい。


 でも、まずはおじいさんの誤解を解かなくてはいけない。先にほこらを壊してしまうと『黒い茨』を通して、おじいさんと渚さんにどんな影響があるのか分からない。


「たぶん、人魚は殺されていません」


 と私の言葉におじいさんは――なにを言っているのだ――と目を見開く。


「お兄さんは、どうされたのですか?」


 もし、お兄さんが生きていたのなら、あとを継いでいるはずだ。

 弟のおじいさんが地主というのも、納得がいかない。


「亡くなったよ……」


 海に飛び込んだと聞いている――とおじいさん。

 『自分が二人を死に追いやった』と思っているのだろう。


 そう思い続けて生きて来たのだ。

 恐らく、寧々子ねねこのおじいさんの時と一緒かもしれない。


 心の隙を突かれ、後戻り出来ない状況へと追い込まれてしまう。

 後はズルズルと落ちるだけ――

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