第三章 妖精と少女の夏休み

第12話 アタシたち、親友よね?


 ギラギラとした太陽が照り付ける。

 八月に入り、世間一般では夏休みを迎えていた。


 子供たちのテンションも高そうだけれど――


白菊しらぎくには関係ないのですぅ~♪」


 とルリ。はいはい、どうせ毎日、夏休みですよ。

 私は『弟か妹が生まれる』ということで、いつも以上に仕事を張り切っていた。


 以前の私だったら――二人の本当の子供じゃない私は、きっと邪魔になるんだろうな――などと考えていたはずだ。


 でも、お互いを思う気持ちがあれば、一緒に居てもいいのだと寧々子ねねこたちが教えてくれた。


「うなーん」


 とお店のテラス席でマシロが鳴く。

 天気のいい日は、猫たちのお散歩コースのようだ。


 テーブルの下など、日陰になって休むには丁度いいのだろう。

 私は夏用の半袖の制服に着替え、接客を行っていた。


 もう仕事にもすっかりとれ、常連のお客様からも可愛がられている。

 ここは妖精たちも通う『喫茶フェアリーガーデン』。


 そのことは、お客様も理解しているようで、小学生である私が働いていることを言及する人物はいない。


 ルリは言いたいことだけ言って、どこかへ行ってしまったようだ。

 カランコロン♪――とドアベルが鳴る。


「いらっしゃいませ」


 私が笑顔で応対すると、目の前に居たのは見慣れた三人組だった。

 いや、三人一緒は珍しい。私の表情から察したのだろう。


「そこで偶然、一緒になった」


 とは烏丸からすま優夜ゆうや。私が二学期から学校に通うことを決意したため、定期的に勉強を見てくれている。今日は約束の日だ。


「こ、こんにちは……」


 とはたちばな寧々子ねねこ。あの事件以降、今ではすっかり仲良しだ。

 単に友達が他に居ないだけとも言う。


 髪は短くしたようで、ボーイッシュな格好をしている。一時期はお嬢様といった雰囲気のフリフリな衣装を着ていたが、趣味じゃなかったらしい。


 今では自分の意見も言えるようになったようだ。


「白菊、来てあげたわよ」


 でも、デートの邪魔じゃまだった?――とは天梨あまなし和奏わかなだ。

 この近所で両親がパン屋を営んでいる。


 最初は私が喫茶店の娘ということで、勝手にライバル視してからんできていた。

 けれど、叔父さんが彼女の家と契約して、パンを仕入れるとなった途端とたん


「アタシたち、親友よね?」


 と言ってきた。アホの子だ。

 仕方がないので、遊んであげている。


 ランチの時間も終わり、お客様も少ない。

 今は暑さをしのぐために、近所のマダムたちが集まって居座る時間帯だ。


 妖精絡みの相談については、この時間帯から受け付けているのだけれど、今日はお客様は居ないようだ。皆を角の席へと案内した。


 寧々子も二学期からの登校だ。私と寧々子は優夜に勉強を教わる。

 教わると言っても、分からない所を質問するだけだ。


 和奏は夏休みの宿題を広げていた。

 今日は優夜に、夏休みの工作について相談があるらしい。


 紙粘土で花瓶かびんを作ることにしたようで、なぜか私と寧々子も作ることになった。

 反論したいところだけれど、あまり騒ぐとお店に迷惑なのでやめる。


 そうこうしていると、雪風さんがジュースとお菓子を持ってきてくれた。


「いただきますぅ~♪ なのですぅ~♪」


 このタイミングになるとルリが現れる。まったく、ちゃっかりしたモノだ。

 冷たいジュースがのどうるおし、甘いお菓子が勉強の疲れをいやす。


 短時間での集中が勉強のコツだと優夜は言う。

 確かに集中していないと頭に入っては来ない。一息ひといきいたので、


「空きびんとペットボトル、こんなのがあったよ」


 と私は優夜に頼まれたので、お店にあったモノを持って来た。

 後はこれに紙粘土を巻いて、色を付けたりすればいいのだろうか?


「ありがとう、ビー玉や貝殻なんかでかざってもいいな」


 と優夜。なるほど、意外に奥が深い。


「瓶だと、素材そのモノを活かせそうね」


 作るのも簡単そうだわ――和奏は言う。


「ペットボトルは加工が楽」


 とは寧々子だ。つい――捨てる時はどうしようか?――と考えてしまうのは私だけのようだ。


「学校に持って行くのも、一人で出来るからな……」


 優夜が付け加える。さすがは六年生。

 色々と経験しているようだ。


「持って帰るのも大変だし、家でも使えるわ」


 と和奏が喜ぶ。

 後は紙粘土を買って、つやしのニスを準備すればいい。


「その前にデザインだな」


 優夜は苦笑する。確かに、それは必要だ。

 次の勉強会までに、私たちはそれぞれ考えてくることにした。


「ビー玉は買えるけど、貝殻は海に行って拾う必要があるか……」


 水族館や百均でも買えるだろうけど――と優夜。少し考えた後、


「夏休みの思い出という子供らしさを演出した方がいいだろう」


 と結論けつろんける。


「そうね、子供らしさをアピールしてあげないと、大人は心配するだろうし……」


 和奏も同意した。

 やれやれ、大人に気を遣わなくてはいけないとは――小学生も大変だね。


 けれど『夏休み』ということを考えると『家族旅行に行った時、拾ってきた貝殻を使いました』と言った方が受けは良さそうだ。


「まあ、叔父さんは連れて行ってくれないし、寧々子の所もいそがしいよね」


 海にも水族館にも行ったことないや――私は乾いた笑いを浮かべる。

 正直、行くのが面倒なため、口にした台詞セリフだったのだけれど――


 なにやら視線を感じた。まるで可哀想なモノを見るような目だ。

 優夜と寧々子、それに和奏がそろって私を見詰める。


 その後、ぐに視線は移動した。標的となったのは叔父さんだ。

 私たちの会話が聞こえていたのだろうか?


 雪風さんと常連のお客様までもが、叔父さんを黙って見詰める。

 叔父さんはえきれなかったのだろう。


「分かったよ、連れて行ってやる……」


 とは答えた。

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