第二章 妖精と少女の涙
第7話 いや、あたしは新しいタイプの悪魔だから……
今日、私は病院に来ている。
別に病気になった訳ではない。
お陰様で元気だ。
「
だから、早く帰るのです――とはルリ。
この
病院で人も多いという理由からだろうか?
今日は大人しく、私のバッグの中に入って隠れている。
お陰で荷物が入れられないので困ってしまう。
おっと、話しが
今日、私が病院に来たのは叔父さんの奥さん――
妖精は人間の想いや発する言葉に影響を受けやすい。
雪風さんくらい、自我のはっきりしている存在であれば特に問題ないのだろう。
今回は『念のため』というヤツである。
「ルリも
彼女は
「ひっ、ひっ、必要ないのですぅ~!」
どこか慌てた様子で答える。明らかに声のトーンが低い。
そういえば、先程から話し方がいつもと違っていた。
私はバッグの中に素早く手を突っ込む。
そして、捕まえると雪風さんに――お願いします――そう言って手渡した。
「うひぃ~、元気なのですよぉ」
と抵抗するルリ。けれど、雪風さんの前では無意味なようだ。
さすがは大人の妖精。
「あらあら、一緒に行きましょうね」
雪風さんのその言葉で観念したのか、
「は、はいですぅ~」
ガクリと
「行ってらっしゃーい」
と私は見送る。
「……」
しかし、急に手持ち
今までは一人でも平気だったのに――
記憶は
(大人しく座って本でも読んでいるつもりだったけれど……)
私は周囲を見渡す。
雪風さんが通う病院ということもあって、人外の存在が目立つ。
ルリと同じ羽の生えた小さな妖精も飛び回っていた。
かと言えば、毛むくじゃらな動物に近い妖精もいる。
見た目は人間と一緒だけれど、角や耳の尖った妖精も見ることが出来た。
白い毛に覆われ、尻尾を揺らし四本足で歩いているのは――
いや、アレはただの猫だ。
誰かのペットだろうか? ここは病院だけれど、衛生環境は大丈夫かな?
『ケット・シー』や『コボルト』などの妖精もいる。
なので、その辺はグレーゾーンなのだろう。
しかし、これほど多くの種類の妖精が一個所に集まるというのも珍しい。
私は本を読むフリをして、少し観察することにした。
どうやら小さく飛び回っている妖精は看護師のようだ。
色は様々だけれど、ナースウェアを着ている。
人間の職員も数名、混じっていた。そう言えば、昔は妖精から薬の作り方を教わって、
私のように妖精が見えるのであれば、自然な流れだろう。
今度、見てみようかな?
そんなことを考えていると不意に影がかかる。
「共通の話題があれば、二人の仲も進展するってか?」
と女性の声がする。
私が顔を上げると、金色の髪の綺麗なお姉さんが立っていた。
「よぉ、
と
一瞬、誰か分からなかったけれど、彼女の持つ深紅の瞳には見覚えがあった。
『
叔父さんが使役している悪魔『
こんな所で白衣を着て、コスプレだろうか?
「おい、誰がコスプレだ、誰が……」
と狭霧さん。両手を使って、私の
自分でも
それにしても、どうして皆、私の考えが分かるのだろう? 不思議だ。
「い、いひゃひ……」(い、痛い)
そう言って、私は読み掛けの本を置いた。
「どう見ても医者だろうが」
とは狭霧さんで――分かったか?――と聞いてきた。
早く解放して欲しいので、私はコクンと
それでやっと、私は解放された。
悪魔系は乱暴だから困る。私は
「たくっ、一人だったから、心配して声を掛けてやれば……」
狭霧さんはそう言った後、なぜか私の隣に座る。
心配しているというのは建前で『本当はサボりたいだけ』なのではないだろうか?
「働いていたんですね」
と私。叔父さんと契約しているので、必要な時だけ出て来る存在だと思っていた。
そもそも、雪風さんなど、人間社会に適応している妖精は多い。
瑠璃唐草と違って、普通の人間にも姿が見える。
ならば、働くのが道理かも知れない。
「お金が欲しいからな……」
狭霧さんは
「実体化するのに必要な霊力はもらっているけど……」
実体を持って生活するにはお金が必要じゃん――と同意を求められる。
人間を
「いや、あたしは新しいタイプの悪魔だから……」
昔みたく、善とか悪とかハッキリしてないじゃん――と言われてしまった。
そういえば、昔は勧善懲悪の時代劇があったと聞く。
「ほら、こっちの世界って、あたしらの存在が認められているだろ……」
法律が適用されるから面倒なんだよ――と教えてくれた。
どうやら、クーリング・オフや
その辺を上手く出来る悪魔はIT関連の社長などをやっているそうだ。
例えば、課金ゲームなどのアプリを無料で提供して、人々を
時代は変わってしまった――と狭霧さんは
結局、能力を生かせて、人の生き死に関わる医者の道を選んだそうだ。
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