第5話 お茶菓子、持って来やがれですぅ~♪


「お茶菓子、持って来やがれですぅ~♪」


 とはルリ。姿が見えないので言いたい放題だ。

 部屋の中にはたたみかれ、独特のにおいがした。


 中央には木製の座敷机テーブルが置いてあり、座布団で囲っている。

 優夜は部屋に入ると適当に座った。私は荷物を置くと、その隣に座る。


 そして、油断しているルリを捕まえようと、頭の上に手を伸ばした。

 しかし、逃げられてしまう。


 『ピーター』といい妖精はG並みにすばしっこいようだ。


「そんなのと一緒にしないで欲しいのですぅ~♪」


 とはルリ。相変わらずフヨフヨと私の頭の上を旋回せんかいしている。

 『小さいおっさん』の時は蠅叩はえたたきで簡単に倒せたのだけれど……。


 その後、ピーターは蠅叩はえたたきでGを叩くと――菌をらすことになるので、次からはやめた方がいい――と教えてくれた。この手の妖精はGに詳しいようだ。


 確かにルリの場合、その後、私の頭の上に乗ろうとするだろう。

 それは非常に困る。


薄鈍うすのろニートには捕まらないのですぅ~♪」


 とルリ。どうせ、お菓子を出せば寄ってくるので、今は放って置こう。


「虫でもいるのか?」


 とは優夜だ。私が上を向いて、視線を動かしていたのが気になったのだろう。


「うんん、なんでもない」


 と首を横に振って私が答えると、それがルリだと理解したようだ。


「あまり、白菊しらぎくを困らせるなよ」


 と天井に向かって言ってくれた。


「は~い、なのですぅ♪」


 ルリはそう答えると、今度は優夜の頭の上に乗る。

 目で追っていた私は、自然に彼と目が合ってしまう。


 再び、顔が真っ赤になる私。


「あ、暑いよね」


 と言ってうつむくと――そうだな――と彼は微笑ほほえむ。

 よく考えたら、ルリが一緒とはいえ、部屋に二人きりだ。


 急に緊張してくる。なにか話すべきだろうか?

 私が思案していると、ぐに足音が聞こえた。


 どうやら、住職じゅうしょくさんが来たようだ。

 助かった――と思いつつ、残念な気がするのはなぜだろう?


 私も優夜も姿勢を正す。


「やあやあ、わざわざ来てくれてありがとう」


 と髭達磨ひげだるまのおじさん。『達磨だるま和尚おしょう』と命名。

 どうやら、ご利益りやくがあるは髪の毛ではなくひげ眉毛まゆげらしい。


 その後ろには雷清らいしんさんも居る。私は立ち上がると、


「初めまして、白瀬白菊と言います」


 今日は叔父の代理で来ました――ペコリと頭を下げる。

 住職さんも――これはご丁寧ていねいに、満福まんぷくです――と言って頭を下げた。


 つい住職さんのお腹を見てしまったのは仕方のないことだろう。

 れているのか――ハッハッハッ――と住職さんは笑うとお腹をさすった。


「こんにちは、烏丸優夜です」


 と優夜も挨拶あいさつをする。すると住職さんは目を細めた。


「おお、君か……大きくなったね」


 と言って、優夜の肩を叩いた。どうやら、知り合いだったようだ。


「保育園に通っていた」


 優夜は教えてくれる。住職さんはひげでると、


「うむ、どうやら『妖精守ようせいもり』といった所かな?」


 私と優夜、二人を見比べる。

 一方、私は――『妖精守ようせいもり』?――聞きなれない単語に首をかしげる。


「まだ小学生ですし、見習いですけどね」


 とは優夜。私を見る。


「『妖精守ようせいもり』とは、その名の通り、妖精の守人もりとのことですよ」


 雷清さんが説明してくれた。彼の話によると、妖精を捕まえる人間や、悪いことに利用する人間もいるのだそうだ。


 また私のような子供も利用できるため、狙われやすいという。

 そのために『妖精守ようせいもり』の仕事ある。


 『妖精守ようせいもり』は妖精たちから、特別な能力をさずかっているらしい。

 そう言われると、最初に聞いたような気がする。


 なあんだ、私と一緒にいるのは仕事だからか……。

 ちょっと、ガッカリしてしまう。


「すみません、余計なことを言ってしまいましたか?」


 雷清さんは私に謝った。


「い、いえ……教えてくれてありがとうございます」


 私はお礼を言った後、『妖精の薬壺やっこ』を返そうと身体を反転させる。

 そして、床に置いた荷物を取ろうとしたのだけれど――


「はわっ!」


 座布団ざぶとんつまずき、転びそうになってしまう。


「大丈夫か?」


 と優夜がかさず私の腕をつかみ、支えてくれる。


「あ、ありがとう……」


 私がお礼を言うと、


「ドジっなのです」


 とルリが笑った。優夜は荷物を取ると、私へと渡してくれる。


「自分で渡すんだろ?」


 と優夜。そうだった。別に彼は仕方なく私と一緒に居るのではない。

 私は荷物を受け取ると、薬壺やっこを住職さんに渡した。


 それから、叔父さんからのメッセージを伝える。


「詳しいことは、この手紙に書いてあります」


 と優夜。叔父さんから受け取っていた封筒を渡す。

 住職さんの代わりに雷清さんが受け取る。


「どうやら、使い方をあやまると大変なことになってしまうようだ」


 と住職さん。どうしたモノかと薬壺やっこながめていたので、


「私、『妖精の通り道』なら分かりますよ」


 と告げる。ほほう――と住職さん。ひげでると、


「では、教えて頂けるかな?」


 そう言われたので、私は霊脈と妖精が通りそうな場所を教えた。

 白い光の流れが見えるので簡単だった。


 しかし、お寺に妖精とは不思議な組み合わせだ。

 住職さんは私の説明を熱心に聞いてくれる。


「いやはや、助かった」


 と住職さん。これで『妖精の薬壺やっこ』が原因で事件が起きることはないだろう。

 私としても一安心だ。


「早く帰るのでは、なかったのですか?」


 とはルリ。すっかりきてしまったようだ。

 一方で頃合いを見計らっていたのだろうか?


「お茶とお菓子を準備しましたので、よかったら食べていってください」


 と雷清さん。姿が見えないと思ったら、そんなことをしていたのか。


「フム、ご苦労なのですぅ♪」


 ルリはたちまち機嫌を良くする。やれやれ、現金なモノだ。

 先程の部屋に戻ると、きちんと三人分のお茶とお菓子が用意されていた。


 はて、ルリのことは説明しただろうか? 私が首をかしげていると、


「今日はちゃんと出来たな」


 と優夜――かっこよかったよ――と私の肩をポンと叩いた。

 そうか、私、ちゃんと出来たんだ。なんだか急に嬉しくなる。


 放って置くとルリが三人分のお菓子を食べてしまいそうだ。

 早く食べよう――と優夜をうながす。


 用意されていたのは駅の通りにあるお店『流幻庵げんりゅうあん』の桜餅さくらもちだ。

 枝垂桜しだれざくらは見られなかったけれど、これはこれでいい思い出になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る