▼22「エンドロール」
8月を目前にしたある日。
今年は記録的な暑さで、去年以上の熱中症対策が必要だとテレビで言っていた。
だと言うのに僕は、少し薄着なだけで外に出ていて後悔している。
「暑いな……」
当然のことを呟く。せめて何か被って日差し避けをすればよかったかと思うけれど、わざわざ家に戻るのは億劫だった。
肩を落としながらも僕は歩いて、その場所に辿り着く。
海に沿う僕の住む街。この時期には毎日のように人が訪れていて、でもそこに近づくと途端に人気が減っていく。
砂浜の端。岩がせり出ていてそれ以上は進めない。しかも、去年のとある事故をきっかけに、岩礁に乗ることも出来なくなって、いよいよ人は寄り付かない。
そんな目的地を前に、僕は立ち止まって眺める。
岩礁に、波が打ち寄せていた。濡れた岩肌はきっと滑りやすくて、そこに立てば海に落ちてしまうかもしれない。そうなれば、溺れて命を落とすことだってあり得る。
だから僕は声を投げた。
「そこ、危ないよーっ!」
当然、封鎖されているのだから、誰も立ってはいない。
でも僕は、ここではないどこかまで届くように、大きな声でそう伝えた。
これで今日の目的は達成。そう満足して、踵を返す。
その時だった。
——心配してくれてありがとーっ!
声が聞こえた気がした。
振り返っても誰もいない。でも僕はその声が誰のものなのか知っていた。
「うん、もう後悔はないや」
中学3年生の冬。
あの時僕は、とある妄想をして、同級生に思考を覗かれてしまった。
教室にはいない同級生。
話したこともない女の子。
彼女と他愛のない話を繰り広げて、でも何かがあったわけではない。
けれど僕は変わった。
あの日々が妄想であっても、僕に変化を与えた。
それは、奇跡と呼んでもいいのだろう。
あの日々を。僕はそうして記憶に刻み付ける。
彼女に誓ったように、決して忘れることなく。
僕の思考が覗かれている。 落光ふたつ @zwei02
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