最終話 ありがとう/あとがき

          1


 閉会式で発表した、ミスターコンテストの優勝者は細波蓮、ミスコンテストの優勝者は氷室祐介だった。

 祭里は妙な気持ちを抱いていた。(よく考えたら、ミスターコンテストの結果って、後夜祭が終わるまで決まらないじゃん)

 細波との賭けにやっきになっていた自分が恥ずかしかった。

 文化祭の魔法はとっくに解けていた。閉会式中の体育館には、いつもの気だるげな高校生たちの姿があった。


 

          2


「とにかく、お疲れ様でした!」


 祭里が挨拶をする。文実のプレハブは寂寥感に包まれていた。すべてはここからはじまった。速水前文実委員長も来てくれていた。

 みんな思い思いに喋っている。


「いやーマリナ、委員長は本当に明るくなったよねえ」

「何言ってんだよかなで、もともとああだったんだよ。色々あっただけで」

「へえ。氷室くんは?」

「まったく変わってないよ。ずっとあんな無愛想な感じ」


「勅使河原」氷室がたしなめるように低く言った。


「だから、勅使河原はやめろって!」


 かなでと氷室の距離がいやに近かった。


「なんだよ手嶋、近いよ、離れろよ」

「えー?」


「もしかして手嶋さん、氷室祐介のこと好きなの?」

「ほあッ⁉︎ レンくん、何をっ⁉︎」


 みんなとも、もうお別れなのだろうか。

 氷室やマリナとは同じクラスだが、かなでは隣のクラスで、高校生にもなると違うクラスとの関わりはほとんどなくなる。細波はそろそろ仕事で忙しくなるだろう。


「寂しく、なるなあ……」


 祭里が呟くと、急にプレハブが静かになった。


「なーに言ってんの」マリナが言った。「前も言ったじゃん。いいんちょー、カタいんだって! もうアタシらは友達なんだよ。一緒に遊べばいいじゃん」


 友達。あったかい響き。そうだった。


(わたしが、これまでの数ヶ月かけて、手に入れた、もの)


 ローラが得た信じる力のように、祭里が他ならぬ自分の力で得たものだった。


「じゃあ、カラオケいかない? 氷室くん、ここどう?」

「手嶋、なんで俺に訊くんだよ」

「バカだね氷室雄介。手嶋さんは君のことが──」

「ちょっと待て! ここ、コスプレ可能って書いてあるぞ⁉︎ まさか、さっきからすり寄ってきてたのは──」

「あっ。バレた!」


 三人がわちゃわちゃやり合っているのを、祭里は遠くから眺めていた。


「いいんちょー」

「マリナちゃん?」


 マリナが肩に手を添えてくれていた。

 突然、温かい気持ちが噴き出してきた。伝えたい。クラスメートに話しかけることすら憚られていた昔の自分ならできなかったけれど、今の自分なら、できるはずだ。


「──ありがとうね。私にとって、はじめての友達になってくれて」


「ニシシ。こっちこそ友達として過ごしてくれてありがとうだよ! それに、充実した毎日をくれたし! ──あ、そうだ。速水センパイがなんか話あるんだってさ」

「速水先輩が?」


 速水先輩はプレハブの奥にいた。無言で、横断幕を指し示している。

 メッセージが、横断幕からあふれて、壁にまで書き込まれていた。


「後野さん、僕が最初のころに言ったこと、覚えてる?」


「えっ?」


「『後野さんも、みんなを引っ張って、繋いでいってほしいな。温かい気持ちのバトン』。それを、ちゃんと成し遂げてくれた。僕の気持ちを、君がつないでくれたんだ。ありがとう」


 繋ぐ。繋いでいく。

 ずっと祭里が求めていたものが、ずっと祭里に求められていたものが、叶った、数ヶ月だった。

 祭里はにこりと微笑んだ。温かい日差しが、窓から文実委員たちをやさしく包んでいた。





  ── 『あとのまつり』 完 ──





《あとがき》

「本編終わったし、閉じよう!」

 ──その前に少し時間をくださいっ!


 七月からはじめた七ヶ月にもわたる『あとのまつり』の連載、最後まで書ききることができてよかったです。読んでくれる人がいる、ということだけでここまで頑張れました。本当にありがとうございました! 祭里たちの人生を通じて、「みんなの気持ちを繋ぐいい社会にしていこう」と思ってくだされば幸いです。


 またお会いできればいいですね。ここまでありがとうございました!

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                            2023/01/04  菜々丘たま


    



                      

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《長編連載①》あとのまつり 菜々丘たま(旧:青丘珠緒) @aotama0819

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