1話 罪と罰(改)

2011年3月、俺は電車の車窓から東北の海辺の風景を見ながら、次の駅で待ち合わせしている瑠衣の清楚な白い顔とツンと上向きの胸とを想い浮かべながら若者らしい期待に下半身を熱く膨らませていた。


公務員だった親父の転勤でこの町へ来てから早いものでもう4年が経つ。

先週行われた同窓会で久しぶりにあった瑠衣とはその夜のうちに関係を持った。

という瑠衣はとうに処女でなく、その甘い吐息と吸い付く様な肌が真っ赤に染まる様はこのところ溜まっていた俺のストレスを綺麗に霧散させてくれた。いわゆる肌が合うと言う奴だ。


やがて人気のない無人駅のホームに電車が停まり、俺は改札を出た。

シーズンオフという事もあり閑散とした駅前のロータリーで俺を待っていたのは瑠衣ではなく、革ジャン姿のイカつい3人組だった。

そのうち俺を見て頷くのは中学時代に些か因縁のあった「金本光一」だ。


坊主頭の光一は身長が180センチの俺よりもかなり大きく身長が186センチ、体重100キロ近くありそうな巨漢だが、ジーパンの上からも一見しただけでその鍛えられた足腰の強さがよく判る。

柔道推薦で隣県の高校に行ってからも、そのやんちゃ振りは依然健在で、帰省した際に兄と2人で地元の暴走族を締めたと言う武勇伝もここいらではかなり有名だった。

そして光の後ろでラスボスのように凄みのある笑いを浮かべている俺と同じくらいの身長の短髪の男が兄の雄一だろう。

そしてもう一人、一見しただけで危険人物と分かるメタルフレームのサングラスを掛けた頬骨の張った痩躯の年嵩の男。

まるでカラスやドブネズミの様な魂が退化した生き物特有の「ドス黒いオーラ」を全身より放っており、まあ頼まれても近づきたくないタイプの輩だ。

実は昨秋に中国であったEスポーツの大会以降、人体の表面をうっすらと覆う光の膜みたいなモノが見える様になっており、俺は便宜上、それを「オーラ」と呼んでいる。

またその「オーラ」よって相手の感情や精神状態がある程度理解出来る事から、一種共感覚の作用により「生体電位」の流れが見えているのだと思うのだが、今の俺にはこの「第三の目」以外にも幾つかの特殊な能力が発現していた。


俺達は誰からともなく海沿いへと向かうの遊歩道を歩き始めた。


「よう佐曽利、元気だったか?」とわざとらしい程にこやかな光一から声が掛かる。

「おかげ様でな、性格でも変わったのか、そのフレンドリーな口ぶりは?」

俺が言うと、光一はニヤリと笑い、「普段クールなお前も女が絡むととんだ間抜けだな、瑠衣ならこないぜ、アイツは俺の女だ。最近飽きてきたけどな。」と光一はドヤ顔で言った。


「そうかい、”ダサい男”が瑠衣の好みとはな。」俺が低く渋い声で返すと光一が何か言おうとするタイミングで雄一がスッと前に出てくると「お前がサソリか?」

「最近、随分とオイタが過ぎるらしいな?」とのたまう。


「どういう訳か最近、俺の匂いが好きっていう女子が多くてね。モテてモテてどうしようもないんだ。」

俺が低音イケボで答えると光一が盛大に笑う。

雄一は頷くと「気にいったぜ、お前、早速だが岩野から何か預かってる物があるだろう?」

怪訝な顔をする俺に「知ってると思うが、岩野はウチの店で打ち子をやっててな、裏金を作って持ち逃げしたのよ。まあ他にも色々とやらかしてな。」


「打ち子」とはパチンコもしくはスロット店側に雇われて、景気のいい優良台でプレイする、いわゆるサクラのことだが、中には意図的に脱税行為などの違法な裏金作りに従事している様なケースもある。


岩野歩こと「イワノフ」は数少ない友人で、帰国後射撃場で知り合って急速に距離が縮まった。趣味が合うことに加えて同じ高専の先輩であることもある。

元々、岩野は収容所みたいな自衛隊の高校を出てから高専に編入して来たらしく、その反動でかかなりはっちゃけた男だった。


また岩野はコミュ力の高さと金廻りの良さもあって女にモテる。

ベンツのGクラスを乗り回し、女の子を集めてパーティーなどを主催していたのだが、かくいう俺も用心棒を頼まれて参加したことがある。

だがやがてバイト先のパチスロ店長だった湯田の裏金作りが発覚して行方をくらませると、湯田が岩野名義で所有していたベンツGクラスを安く買わないかと言う話を持ちかけて来たのだが、その岩野もまた今月に入ってから消息を絶っていた。


「要は岩野か湯田から預かっているものを返してもらえないかという話よ。」雄一が言った。どうやら連中の頭の中では俺も裏金作りの一味らしい。


丁度、バーベキューができそうな広さの広場に差し掛かったところで俺は

「その”ユダ”っていう人と会った事も無いし、何の話かわからないな?」

俺が答えると雄一はイラっとした様に顔を顰める。


「テメエ、舐めてんのか!?」とキレたふりをした光一が被せるようにまくし立てるが、身体を覆うオーラのパターンから意外と冷静だと分かる。


そんな光一に兄の雄一が余裕を見せる様に左手を挙げ、「まあまあ」と制止した。

「まあ、お前が持っていてもさほど役に立たないものだ。返して貰えるか?」

事前に申し合わせがしてあったらしい「怒る弟をなだめる兄」という昔のヤクザみたいな三文芝居に俺は笑いそうになる。


「下手なコントはやめよう。だぜ。」

クールに俺が言うと光一は今度こそ本気でキレたようで、「おちょくってんのか!テメエ」と顔を真っ赤にすると掴み掛かってきた。


このアウトローどもに凄まれたら、大概の者ならビビって竦むのかも知れないが、奴等がヒグマ相手に凄んだ所でそれがヒグマにとって何の脅威になるだろうか。恐らくエサにしか見えないだろう。

そして俺もまたヒグマと同様に捕食者の側だった。


光一が俺の胸ぐらを掴もうとして腕を出したその時、俺は半身に身体を開き位置を入れ替えた。

その時地面が激しく揺れ出した。

地震だろう。そして俺は


俺は静かに固まっている光一の喉を指先で突いた。「グっ!」とヨダレを垂らしながらだらしない顔で崩れ降ちる光一から離れると、やはり同様に固まって居る雄一と年嵩の男に近づき、指先でトンと喉を突くと奴等は崩れ落ちた。 


地震が終わるのを待ってから奴らに近寄ると携帯電話と財布を奪うと他に武器になりそうな物を持っていないか探る。光一達の財布より高額札を回収し、千円札のみを残し財布を連中のポケットに戻してから雄一の横腹を蹴って転がすと雄一の腕からロレックスデイトナを回収するとシリアル番号を確認して俺の腕に嵌めた。

おそらく岩野はもう生きていないだろう。何故ならこのロレックスは岩野のオールプラチナロレックスとトレードしたものだからだ。金本兄は町の女の子達をクスリを用いてデートクラブに入れ、パパ活させて得た資金を上納させていた。そしておそらく岩野はその片棒担ぎをさせられた挙句トラブルで消されたのだろう。

吊り目の男はベルトの後ろ側にベレッタを持っていた。


まあ俺が言うのも何だが、そもそも日本でこんなモノを持っている時点でアウトだろう。俺は着弾点を調整しながら連中の太腿や肩にタマを打ち込み、空になったベレッタを海に向かって投げ込む。


虫の息の金本達はこのまま放置で良いだろう。一旦揺れはおさまったが、揺れ具合から察して、もうすぐこの海岸にまで津波が押し寄せて来て来るからだ。

そして場合によっては近くの原子力発電所に浸水しメルトダウンする可能性がある。まあその場合には、東日本全体が汚染され、日本沈没ならぬ、日本終了となるのだが。


俺は緊急避難すべく全力でその場から走り去った。

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