初めは、北欧のサーガを読むような心地で読み始めたのですが、いつの間にか血が通う人間たちの物語に惹き込まれていました
豊かな語彙から為る正確な描写が、歌に似た心地よいリズムで刻まれていく素晴らしい文体
遠い昔から火の前で、だれかが語り継いできた物語なんじゃないか?
自分も幼いころに聞いたことがあるんじゃないか?
という、不思議な錯覚を覚えます
世界中、どんな神話の登場人物にも試練や絶望が訪れますが、彼らは神や英雄だし、数千年は昔の人だしで、その苦悩は遥か遠くにあります
この作品を読むと、荒れ狂う創世の奔流の中で、もがきながら生きた人間が確かにいたんだなと想像させられます
何よりも一章主人公カザドの誇り高さと優しさが、絶望的な世界で輝いています
戦うことを諦めた同胞を殺すほどに気高くて、抗ってなお無惨に散っていった命に気付くほど繊細で、瀕死の見知らぬ人に優しい嘘をついてやるほどいいやつで、どこまでも人の心がわかる男
いやもうほんと、彼が火のように怒る瞬間も、打ちひしがれる瞬間も、「それな」過ぎて、読めば読むほど涙ぐみました
この雪吹きすさぶ世界で、フェンリルたちの戦いは絶望的に孤独ですが、間違いなく大きな火となって、残酷な理不尽を飲み込んでくれることでしょう
なにせ、これは創世記なのですから!!
この神話、追いかけたほうがいいと思いますよ