第21話 求める強さ

 ギルド管制室。

 雨衣は少し重い足取りで受付へ向かった。

 そこには、仁王立ちして出迎える巨漢早乙女さんが待っていた。


「あら〜ん、まぁたコレを派手にぶっ壊したわねん」

「また、って雨衣さん貴方これが初めてじゃないんですのね?」

「な、何度もすみません」


 学生寮に戻る前に、雨衣が魔法を使用した代償に壊れた零式を、早乙女に見てもらっていた。

 一体いくら壊せば気が済むのよんと、愚痴の一つも溢しては、黒炭と化してショートし時折火花を散らす零式を慎重な手つきで調べていく。

 言い訳としては自分の魔法に不慣れというか、振り回されているというか、何というか口を濁すしかなかった。

 花山院からはシド目だ。


「早乙女さん、わたくしの零式は直るのですの?」

「ここまで黒炭になっていたら流石に直せないわねん。雲母ちゃんの分は新しいもの明日までに用意しておくわねん♬」

「早乙女さん、ボクも零式失くしたんですけど」

「ナンセンスね雨衣ちゃん。アナタの分は無いわよん」

「そんな、真顔で……!?」


 雨衣には塩対応だった。


「あったりまえよーん。零式だってタダじゃないのよん?」

「は、はひ……」

「もっとモノを大切にしなさいねぇん。雨衣ちゃんの魔法で誰かが救われることはとってもイイことだけどぉ、零式でしか救う方法がないことも致命的よん」

「う、確かに……」

「今回はギリギリの所でどうにかなっちゃったけどん、今度はそうとは限らないでしょん?だから、もっと自分の長所と短所、それから魔法の知識を身につけてきなさいな」

「はい」


 零式に頼りすぎていた。

 しかし、零式に頼らざるを得ない程の雑魚だ。Eクラスだ。

 でも、そんな言い訳が通用する学園でも異世界でもない。そんな甘えは通用しない。

 雨衣は零式以外の攻撃手段、それから雨衣のオリジナルの魔法ではない魔法の習得を目標にした。

 あ、そのためにも今日は帰ってから魔法陣のお勉強だ。


「それで、早乙女さん。今回のこのクエストのこと、ちゃんと説明していただけるのですわね?」


 地下水道で起きたきな臭い事件。

 町の地下にあんな息が詰まりそうなオブジェクトがあって、それは結果的に町へ牙を向けた。

 鏑木エルと灘が解体しなければ何も起こらなかっただなんて到底思えない。

 学園側も二人を止めなかった。

 

 だから、花山院は説明を求めた。


「そうねぇん。当事者のアナタたちに教えない訳にはいかないでしょうねん。今は混乱を避けたいからこのことはくれぐれも内密にお願いするのだけどぉ……エルちゃんは何か言ってたかしらん?」

「愚者の象徴。アレはクイーンズを食いつぶしていく人為的に発生したガンみたいなもの。あの国は病気なんだって言ってました」

「それから、こうも言ってましたわ。愚者の象徴になった男は、10年前の魔人事件で戦いから逃げて後悔していたとも」

「そう。彼は戦いから逃げたのねん。だから……」

「早乙女さん、なんでエルがそんなこと知ってるんですか?学園長の娘だからですか?」

「それもあるけど、今はエルちゃんの話は置いときましょん。それよりも、アナタ達が知っておかないといけないのは愚者の象徴よん。アレはアナタ達が思っている以上に話しがややこしいのよん。だから簡潔にしか今は答えられないんだけど……」


 早乙女も今回のボランティア活動の後処理で忙しい身だ。今も管制室から早く戻ってきて欲しい声が聞こえてくる。


「彼はずっと後悔していたのよねん。魔人から逃げたこと。国や大切な人を守れなかったこと。だから、彼は求めたのよ。今度こそ国を守るだけの強さを……そして、彼は打ち負けたのよん。アレに……」

「愚者の象徴に、ですか……?」

「えぇ。アレを取り込むことができれば魔人にも魔女にもなれる、そういう忌むべきものなのよん」


 早乙女が語ったのはここまでだった。

 今はこれだけ知っておけばいい。話しはこれで終わりと云うかのように、管制室の奥へと引き込んでしまった。

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