第20話 異世界帰り

 今日もクエストが終わる。

 魔法生たちが異世界から帰還する英雄の塔、ギルドルーム内のラウンジ一角、天罰を食らって退場し1人涙を流しながら事の顛末を見届けていた灘は背後から声をかけられた。

 どこかで聞いた事のある笑い声。

 灘は久しぶりに聞くその声に、げげっ……となるも無視できないので振り向いた。


「あっはっは!雑用クエストの筈がきな臭い事件に巻き込まれて天罰食らうとかどんだけ運ないねん自分」


 狐のお面を被った長身の少女。

 振り分けられたクラスは落ちこぼれのEクラス。

 両手には何やら大量の買い物袋。この学園において1人だけ場違いというか、皆がクエストに汗水流している間、彼女は1人海外旅行でも楽しんできたそんな空気感を醸し出している。

 バックパッカーの如く背中には大きなリュックを背負っていた。


「シューコー……コーホー……若ー、お疲れ〜っす。いつからこっちに?」

「ついさっきや。ほれ、土産や。イグニス饅頭」

「シューコー……コーホー……あざ〜っす!若からお土産なんて初めてだ!わーい人類滅亡の予感しかしないぜ!しかもアタイが血と涙と天罰をくらっている間に1人だけ異世界旅行とか解せませんな!しかも、あのイグニス!アタイが今もっとも旅行したい観光都市国家イグニス!魔族のゲテモノちゃんこ鍋が食べたかったなー!摩天楼百本組手にも挑戦してみたかったなー!あーあ、いいなー!連れてって欲しかったなー!あ、イグニス饅頭めっちゃ美味Ci〜☆」

「ウチがイグニスに行っとったんは任務や。観光気分で行ってたんとちゃうで。生きるか死ぬかの戦場に行ってたんや」

「両手と背中のリュックサックにお土産いっぱい詰め込んで何言ってんだかこのヒト。お土産、ワンモワ!ワンモアプリーズ!」

「自分、相変わらずウザいな」


 灘はイグニス饅頭を食べるために、ガスマスクを取り外した。自分のことを美少女と豪語するが、確かに美少女であった。

 関西弁の少女も灘の隣に腰を下ろして、お土産袋を開封しては一緒に食べ始めた。

 器用にお面を外すことなく食べる。

 イグニス洋カンにイグニっちゃんスルメ、イグニ渋柿と渋めのラインナップである。


 というか、これから夕食の時間だ。

 周りの目も気にせず、他人を寄せ付けず、この2人はお土産の数々をバリボリと食っていた。


「それで?一体全体どういう風の吹き回しでなんです?やっとまともに授業する気にでもなったんですかー?」

「そんなんとちゃうわ、お嬢に頼まれごとされてな。それでここに寄ってみたらなんやオモロイ出しもんしてるさかい、あのチビ、レーザー光線ぶち込んだと思ったらなんで花火打ち上げとんねん。どんな魔法やねん。アレがお嬢のオキニやろ?例の東京事変でやらかした一般人さんや」

「ですねー。彼の名前は雨衣マキナくん!この天才美少女のアタイでさえもタジタジになるトラブルメーカーでしたわ」

「ふーん、マキナかぁ……機械仕掛けの魔導人形エクス・マキナと掛けてんのか?シャレのつもりか?まぁなんでもえぇ。しかしまぁお嬢はまたオモロイもん拾ってくるわ」

「それだけお嬢も必死なんすよ!誰にでも喧嘩を売る暴君に見えて実はちょっぴり乙女なんです〜。好きな男の子の前では見栄張ってゴリラになっちゃうんです〜☆」

「灘、自分ホンマなんかウザいな」

「てへぺろりんっ」

「よし、ここで殺るか……あと、このことはお嬢にチクるわ」

「そ、そんな殺生な!」


 ケラケラと笑う関西弁の少女。

 Aクラスの灘がEクラスを相手してあたふためくのはこの少女とエルの2人だけだろう。

 というか逆らえないのだ。

 昔っから……


「あ、それからウチ今から初クエストすんねんけど……自分も着いてこいや。チュートリアルするで」

「えーと、あの……若、星覇のルールであちらの異世界に行けるのは1人1日1回までなんですぜ。だからアタイ行けなーい笑」

「そんなもん知るか。ウチがついて来いつったらついて来いや」

「こ、ここにもアタイの話を聞いてくれない暴君がいる!?」

「ちゃんと話し聞いてるで。聞いた上でついて来いっつたんや。灘、自分が言ってるんは星覇のルールやろ?情報イデア体の生成は1日1回が限界やからな。でも、アッチへ行くんやったら別に情報体じゃなくてもええやろ。生身で来いや」

「なんて理不尽!パワハラ反対!若の鬼!アタイに死ねと!?情報体じゃないままの転送はリスクがあるんですぜ!もし、仮に成功したとしてもか弱いアタイじゃ異世界でクエストなんてやっていけないぜ☆」

「学年序列10位がよく言うわ。ていうかや、自分ウチの土産食ったやん。じゃあうまいもん食った分働くんが部下の役目やろ」

「は、ハメられた!?」

「人聞き悪い言い方しなや。それにEクラスのウチも生身で行ったるさかい。これでイーブンや、ええな?」

「何がイーブンなのかちっともわかりませんけど、ちなみにクエストは何ですー?」

「薬草採取もといプルガルド国境付近に発見された愚者の象徴の撤去や。たぶん、向こうの連中も狙ってくるやろ。やから、ウチには灘の力が必要なんや」

「わー、それってほんとにEクラスがするクエストじゃないじゃん!灘ちゃんがまた犠牲になる未来しか見えてこない!絶体絶命の大ピーンチだぜ☆」


 こうして、2人は異世界へと旅立った。

 無常にも情け容赦なく、灘が学園に帰って来れたのは1ヶ月後とかいう話である。



「なんだか騒がしかったね。早乙女さん、何かあったんですか?」

「うふっ、ちょっとねん♬それより、雨衣ちゃん、雲母ちゅわん、おかえりなさぁいん♡今回よく頑張ったわねん!ご褒美のハグはいるかしらん?」

「「け、けっこうです……っ!!」」


 雨衣たちも学園へ帰還する。

 それは、灘たちとちょうどすれ違った所であった。

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