第1話 降臨
ある日、その世界では二つの国がぶつかる全面戦争の真っ最中だった。
一つは、ナトゥーラ公国。
世界の自然と宇宙を信仰対象とし、凡ゆる全ての事象による自然破壊と環境汚染から絶対厳守する国。
信者数億人という世界規模の宗教集団で構成され、その自然と宇宙から生まれると信じている『魔法』が武器となっていた。
一方対するは、アルダム帝国。
王の命令は絶対という王政に支配された国で、また国民も荒れに荒れまくっていた国。
最初はどの国からも干渉されない、縛られない自由の国として旗を掲げていたが、いつしか『自由を妨げる者は粛清する』という思想に変わり、正しく最も世界の摂理さえも縛るナトゥーラ公国に対して凄まじい怒りを見せていた。
この戦争は歪んだアルダム帝国と世界を保護しようとするナトゥーラ公国の"世界"戦争となっていた……。
しかしこの戦争の規模からして他国はどちらかの国が滅亡するまで終わらないだろうと考えていたが、その考えは突如として跡形も無く消え去った。
突如降り注いだ一つの"隕石"と、戦場を縦横無尽に駆けるたった一つの"流星"によって。
◆◆◆◆◆◆
武神アウダスは気付けば超上空から落下している途中だった。
「フゴッ!? あ……? ふわぁ〜あ。 何だ此処……。なんで俺落下してんだ?」
耳をつんざく風を切る音にアウダスは驚くようにして眠りから目を覚ます。
位置はまだ地上の影すら見えてこない上空。その落下速度が時間が経つにつれて段々と増していき、やがてアウダスの身体が炎に包まれる。
「知らねえ空だな……」
アウダスがふと空を見上げれば、青い空……ではなく。赤黒く濁った色の空。まるで長年環境汚染が続いた後の空で、すぐにその違和感に気が付いた。
だがその空の色は、下界の者たちが起こした戦争や環境汚染によって変わるものであり、一見すれば普通の空と見分けが付かない。だがそれでもアウダスは、それが自分が管理している世界とは違うとすぐに理解した。
「つまりっと……異世界ってこったよな? なんだぁ? 人が寝ている間にこの俺を異世界制裁に選んだってのか?
それならとんでもねえ迷惑じゃねえか。ま……最近ストレス溜まってたしな。間違いであろうが、そうでなかろうが。俺を選んでくれた神たちに感謝しねぇと」
自分が縛った誓約とは言え、ほぼ何も出来ずに退屈の限りを尽くしていたアウダスは、この異世界に飛ばされた理由を他の神の気遣いだろうと勝手に解釈する。
「ならやることは一つ。制裁を始めるとするかぁ……」
アウダスはニヤリ歯を見せて笑う。本当に神の気遣いと言うならば、それに答えてやろうと。自由に暴れてやろうと。
そうしばらく落下していれば、漸く真下に地上の影が見えた。
そこは既に壮大な戦争の真っ最中だった。
「ハハハ! やってるじゃねぇか! その戦争、この俺がぶっ壊してやるぜぇ!」
アウダスは片手に握り拳を作ると、そこから一気に落下速度を上げる。
全身を包む炎はさらに激しさを増し、それはまさに"隕石"のようになる。
最早目に追えぬ速さで地上に辿り着くと、アウダスの拳は地面にぶつかれば、容易に減り込み、周囲に急速に大亀裂を生じさせ、巨大な爆発を引きこ起こす。
その爆発は、戦争のど真ん中で発生し、戦争中であった二つの国の兵士は巻き込まれた者は、熱風に触れただけで蒸発する。
そして爆風に晒された者は、身体が木っ端微塵に吹き飛ぶ。
たった一撃で多くの人間が消滅した。
炎が燃え上がるような赤い髪と、獰猛な獣のような形相と、筋骨隆々の赤い肌と、巨人のような身体の大きさは、それだけで戦争中のニ国の兵士たちは戦慄する。
「何が自然保護だよ……あんなの、魔法じゃねえ。生物兵器だ! ナトゥーラめ、そろそろ俺らを一人残らず叩き潰すつもりか! 絶対ぇに負けらんねぇ……」
「アルダム帝国よ……部下を犠牲にするほどの兵器を持っているとは……。益々許せんな」
お互いにどちらの兵器かを疑う始末。
そんな光景にアルダムは大きくため息を吐く。
「何が理由の戦争か知らねえが……どんな理由でも戦争なんてクソも同然だな。ここは神様が天罰を与えてやらねえとなぁ!」
そういえば、アルダムは超高速で駆け、近くにいた兵士を拳の一撃で粉砕する。
次に近くの兵士、次に次にと、連鎖するように兵士を消していく。
その姿はまさに"流星"であり、誰にもそれを目で追うことが出来なかった。
次々と消し炭にされていく兵士たちを見る戦争の指揮官は、歯をガタガタと鳴らしながら怯える。
「やめろ……くるな……こっちに……来るなぁアアアアァァァ!!」
そうしてアルダムが異世界に降臨してからは、ものの一時間も経たずに、ニ国の戦争は"鎮圧"された。
兵士は一人残らずに。戦場は静寂へと移り変わった。
「掃除完了っと。さて、近くで昼寝でもするかぁ……まだ寝足りねえ……」
武神の異世界制裁 Leiren Storathijs @LeirenStorathijs
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