閑話28:わたしはあなたの帰る家

【!注意!】

性的な表現が含まれます。性的な表現が苦手な方は、次のリンクでお戻りください。

※読み飛ばしても、本編を楽しむのに支障はありません。


【第683話:十分な仕事】

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【ムラタのむねあげっ! 目次】

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「……あの、いたしますか・・・・・・? わたしでよろしければ──」


 リトリィは、自身でもあざといと思いつつ、あえてそう言ってみせた。ムラタとリトリィは夫婦めおとなのだから、わざわざ「わたしでよろしければ」などと言う必要はない。


 ではなぜ、そう言ってみせたのか。

 理由は単純、あの時の再現である。

 目を覚ましたムラタとの初の会話。


 出会った頃のムラタは、女性に対する経験値がなさすぎて、紳士という名のヘタレでしかなかった。また、日本に帰るのだという意識があった。


 だからこそ、獣人の自分にも分け隔てなく接してくれるムラタをこそ、人生の伴侶と思い定めたリトリィとの認識のずれが生じ、様々な衝突が起こってしまっていた。


 けれど、あの頃はあの頃で、お互いに変に不器用だったからこその甘酸っぱい思いを味わうこともできた──リトリィはそう思っている。


 もちろん、苦く、苦しい思いもした。あまりの苦しさに、いっそ死んでしまいたいと思ったことすらある。

 けれど、今となっては、それもまた今の関係に繋がる、なくてはならない思い出だと考えている。


 ムラタはわずかに考えたようだった。だが、自信に満ちた表情で続けた。


「……もちろんだ。致そう・・・じゃないか」


 あの時──初めて出会ったあの時のムラタは、羞恥心に押しつぶされるようにして顔を覆い、「もうやめて……俺のライフはゼロよ……」などとネットミームを用いて誤魔化していたが。


「……ふふ、たくましくなられましたね、わたしのだんなさま……」


 自分の夫が、自分を抱くのに、全くの躊躇なく手を伸ばし、そして力強く抱きしめてくれる。

 あの時とは違う、自信に満ちた優しい目で。

 リトリィは、それがうれしくてたまらない。

 彼自身も言っているが、そうなったのは、ひとえにリトリィとの生活を守ろうとして、彼が奮闘してきたからだ。


「……愛してる、リトリィ」


 彼のこの二年間の奮闘のそばにいて、その姿を見届けてきた。

 その成果の結実が、二年前のムラタと、今のムラタとの違いを生み出している。

 リトリィは誇らしかった。

 自分の夫は、こんなに素敵なひとなのだと、世界に喧伝したいくらいだ。 


「ええ、わたしもですムラタさん・・・・・


 ムラタの頬を両手で挟むようにして、そっと唇を重ねる。

 彼の逞しいものが、鎌首をもたげているのが視界の端に入り、リトリィは、自分を求めてくれる夫への感謝と愛を込めると、そっと彼の首に腕を回した。


「……さあ、いらしてください」


 ムラタの手がかけられた脚を、そっと、大きく開く。

 ムラタはその脚を抱え上げると、自分の両肩に乗せ、蜜をあふれさせる彼女の花弁に、自分のものをゆっくりと押し込んでいく。


「あなた……んっ!」


 奥まで届いたものが、ぐっと奥の底を押し上げた瞬間、リトリィが腰をくねらせ体をのけぞらせる。

 何度愛しあっても、一度目の、この奥を押し上げる感触に、リトリィは慣れることがなかった。


「あなた……おかえりないませ……っ」


 リトリィが必ず言う言葉だ。彼が作ってくれると宣言した彼女の居場所、それがムラタの隣。だからこそ、彼の居場所は自分の胎内ここなのだと、リトリィは思っている。


「リトリィ、ただいま」


 リトリィの言葉に、そう返してくれるムラタがまた、好きだ。

 山にいたころは、こんなにも器用に自分を愛してくれる余裕は、彼には無かった。それが、山を下りて結ばれ、愛し合い、共に暮らしていくなかで、互いを知ることができるようになった。


「……はじめてのときのこと……おぼえてくださって、いますか……?」


 リトリィの言葉に、忘れるものか、という想いをこめて、ムラタは深々と彼女の奥を貫く。

 奥にずしんとくる衝撃にリトリィは目を見開き、歓喜の悲鳴を上げながら、愛しい夫にすがり付く。


 ナリクァン夫人の所有していたボロ小屋で一夜を明かしたあの夜。

 リトリィのことを「経験者」だと思い込み、だから彼女を抱いてみたい、女性を経験したいという性欲に振り回されつつ、しかし女性経験皆無という劣等感に囚われて「前の男」と比べられることを恐れていた、あの頃のムラタ。


 なんのことはない、二人とも未経験者だった。ただ、リトリィのほうが生活経験上、性的な関心も技術も高かったというだけで。


「今だから、言います……ね。あのとき……とっても、痛かった……です」

「それは、ごめん……」

「でも、それがあったから……いま、こうして……あなたに、いっぱい……っ!」


 身をのけぞらせる彼女の爪が、背中に食い込む。

 絡められた彼女の脚がムラタの腰をがっちりと挟み込んで、注ぎ込まれるものを一滴も漏らすまいとしているかのようだった。ごくっ、ごくっと、まるで飲み干すかのように胎内が熱くうねる。


「……リトリィ、俺は……初めての時、自分が気持ちよくなりたいばっかりで、君の痛みのこと、全然、考えてやれなくて……」

「ふふ、あやまらないでください、あなた」


 荒い息をつきながら、リトリィはムラタの首筋に鼻をこすりつける。彼の汗のにおいにくらくらするほどの官能を覚えつつ、微笑んでみせた。


「あれほど奥手だったあなたが、わたしに夢中になってくださった……あのとき、それが、どれほどうれしかったか……」


 リトリィはそう言って、うつぶせになると腰を高く掲げてみせる。しっぽをくねらせ、ムラタを誘う。

 再びムラタを迎え入れたリトリィは、彼を最奥で受け止めながら続けた。


「あなたに毎日愛していただけて、あなたのよろこぶことばかり覚えて……。それなのに、なかなか仔にめぐまれなくて、ずっとずっと、こわかった……。あなたに、いつか、あきらめられてしまうんじゃないかって」

「そんなわけがないだろう? 俺は絶対に君の望み通り、子供を作るって言ってきたじゃないか」

「……それでも、こわかったんです。だって、マイセルちゃんも、フェルミさんも、あなたの仔を授かって……。なのに、一番愛してもらえていたはずのわたしが、いつまでたっても、仔ができなかったんですもの」

「安心しろ。俺はこれからも産ませるからな。前に約束しただろう、君が欲しいと言い続ける限り、何人だって作るって」


 ムラタの腰の動きが、いっそう力強くなる。


「なにせ、一つ、大事な手がかりを得たんだからな。子供の誕生日は集中してしまいそうだけれど……」

茄子オバゥギナ……ですか?」

「ああ。効果は抜群……だったと思うぞ?」


 ムラタは身をかがめると、彼女の腹に手を回した。

 突くたびに揺れるそれは、以前よりもさらに大きくなったと感じる。

 この奥に自分の子供がいる、彼女がずっと求めてくれていた存在が宿っている──そう思うだけで、彼は天にも昇る思いになれた。


「だから、これからも……リトリィが望んでくれるかぎり……!」


 リトリィの大きな臀部を鷲掴みにすると、ムラタは一気に加速する。


「……何人だって、産ませてやるからな……!」

「わたしっ……わがまま、言っちゃいます、よ……?」

「言ってくれよ。それくらい、何度だって叶えてみせるさ!」


 ひときわ深くえぐられるようにした瞬間、リトリィは脈動と共に、奥が満たされてゆくのを感じた。リトリィは体を弓なりにしならせると、遠吠えのように歓喜の悲鳴を上げた。




 彼と愛し合うようになって、そして街で暮らすようになって、リトリィにも何人か、ご近所さんができた。

 その中にひとり、犬属人ドーグリングの男性と結ばれたヒトの女性がいる。獣人は基本的に女性が多く、男性はかなり少ない。そんな希少な相手を夫に持ったその女性は、大変だ、大変だといつも惚気のろけてみせる。


『ほんと、大変なんですよ、亭主との夫婦生活!』


 彼女の言う「大変」の意味──それは、犬属人ドーグリングの男性特有の器官、亀頭球だ。彼の物が屹立した際の根本にできる、こぶである。


『とても入らないのよ! 握り拳よりずっと大きいの! あんなの入れたら裂けちゃうわ、きっと!』


 などと言いながら、そのこぶがぐりぐりと秘裂を刺激する具合の良さを延々と語り続けるのである。本人は純粋に苦労話として話しているつもりらしいのだが、どう考えても惚気のろけである。聞かされる方はたまったものではない。


 ──わたしのだんなさまだって負けてないもの。奥の奥までかきまわすのが、すごいんだから。


 彼女の話を聞きながら、いつも「愛しのだんなさま」との夫婦生活の素晴らしさについて、頭の中で張り合っているリトリィ。最近では「自分やフェルミを妊娠させた、すごい種主たねぬしさま」という謎の称号まで脳内で贈りながら、ムラタの素晴らしさで張り合っている。

 リトリィにとって、ムラタは誰よりも誇らしい、最高の夫なのだ。


 実は、ほんの最近まで、リトリィはそこまで確信が持てないでいた。もちろん、口ではムラタを誰よりも信じていると公言してはばからなかったし、そのように仕えてもいた。


 けれども、なにせムラタである。仕事、仕事と、家庭を顧みないことがしょっちゅうなのである。夢中になって仕事に向かい、そして、時にはあろうことか女をこさえて帰ってくるのだ。


 どうしてわたし一人で満足してくれないのかと、泣きながら訴えたこともあった。献身的に仕えるその裏で、子供ができない自分は、いつかムラタに見限られるのではないかと、真剣に恐れていた時もあった。


 しかし、彼は諦めなかった。リトリィと仔を作ることを。それどころか、彼女が望む限り、作るとまで言ってくれた。リトリィの夢──ムラタそっくりの、黒髪に黒い瞳の仔ができるまで。


 もしかしたら、これからもムラタは女を作るかもしれない。けれど、何人作ったとしても、彼女の居場所は彼の隣であり、彼が帰る場所は、自分なのだと、今のリトリィは信じることができる。


 だから、もう、リトリィは絶対に迷わない。

 彼は自分を、本当に愛していると確信できるから。


 ならば彼の「帰る家」として、全身全霊を込めて彼に尽くすのだ。


 あぐらをかくムラタの上にまたがるようにして、愛しい人のために体をくねらせるリトリィ。彼と抱き合い、その髪を、頭をなでられ、そのやさしい手つきに胸を震わせながら、飽きることなく愛しい人と唇を重ね続ける。


 ずっと、ずっと、いつまでもこうしていたい──彼との出発点たるこのベッドで、そう願いながら。

 


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