閑話26:甘えたい夜

【!注意!】

夫婦喧嘩および性的な表現が含まれます。性的な表現が苦手な方は、次のリンクでお戻りください。

※読み飛ばしても、本編を楽しむのに支障はありません。


【第651話:久々の熱い夜】

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【ムラタのむねあげっ! 目次】

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──────────





「あなた……ああ、あなたっ……! きて、ください! もっと、いっぱい……!」


 ムラタにしっぽをつかみ上げられ、背後から激しく突かれ、リトリィはクッションに顔を埋めるようにしながら、ムラタの劣情を煽るように流し目で訴えた。


「お姉さま、今夜も随分と積極的ね」


 髪を振り乱し、豊満な胸を大きく弾ませ、しっぽを大きく揺らし、ムラタの上で淫らに腰を振るリトリィを見守りながら、マイセルが微笑む。フェルミは少しばかりひきつった笑みを返した。


「……ホント、今夜も激しいスね、お姉さま」

「だって、今夜は藍月の夜で、お姉さまの夜だもん。……あれ? そういえばフェルミは、その……ムラタさんと、シたくないの?」

「何言ってんスか。私だって、お産を終えたばかりっスよ? いくら私も獣人族ベスティリングだからって、さすがにさかったりはしないっスよ」


 ふたりそろって赤ん坊に乳を含ませながら、苦笑いを交わす。


「でも、お姉さまに泣かれたときは、いくらご主人に認められたって言っても、苦しかったっスねえ」

「私は、どうせこうなると思ってたんだけど」

「私が、ムラタさんの妻になっちゃうってことっスか?」

「うん。だって、ムラタさんだし」


 マイセルが苦笑いを浮かべると、フェルミは欠けた耳をうなだれさせて、小さくなった。


「それは……なんていうか、その……申し訳ないっていうか」

「仕方ないもの。そもそも私だって、ムラタさんにはお姉さまっていう婚約者があることを知っていながら、そこに割って入った女だし」


 マイセルは、無心で自分の胸に吸い付く赤ん坊を見ながら続けた。


「お姉さまはね、本当は私なんて、拒否できたはずなの。でも、受け入れてくれた。フェルミのことも、いずれは受け入れるつもりだったんだと思う。でも、ムラタさんが先走っちゃったから……」

「だから、あの大荒れになっちゃったってわけっスね? ……私だって、マズイって思ったくらいだったスからね、ご主人のあの発言は」

「だって、ムラタさんだから」


 何をどう話しても考えても、結局「だってムラタさんだから」に収束してしまうところに、ムラタという人間の罪深さ、業の深さがあるのかもしれない。



  ▲ △ ▲ △ ▲



「わたしは、あなたの、なんなのですか!」


 フェルミのお産の翌日の夜だった。リトリィの怒りは爆発した。


「フェルミさんの子はあなたの仔ですから『日ノ本ヒノモト』の姓を名乗らせてもいい、フェルミさんが育ててもかまわない。そのかわり、フェルミさんを妻とは名乗らせないし、みとめない! わたしはちゃんとあなたに、そう伝えましたよね!」

「それは……たしかにそうだけど、でも俺の子を産んでくれる女性を、あの場で愛人扱いになんて……」


 ムラタは青い顔で訴えるが、それはますますリトリィの怒りの炎に油を注ぐことにしかならなかった。


「そのけじめをつけるのが、一家の主たるあなたのお役目でしょう!」

「それは分かる、けど……」

「けど、なんですか! あなたの口先だけの『きみが一番』なんて、もう聞きたくないんです!」


 リトリィの悲痛な叫びが、寝室に響く。


「どうせ、わたしはあなたの仔なんて産めませんとも! あなたの仔をのぞんだときから、あなたにとってわたしはただのあそび相手だったんでしょう! ええ、わたしが悪かったんです! あなたのほんとうの心を見抜けなかった、わたしがおろかだっただけですとも!」


 泣いていた。泣き叫んでいた。


「マイセルちゃんのときだってそう! あのときに、わたしなんてあなたのあそび相手でしかないってことに気づかなかった、わたしが悪かったんです!」

「リトリィ!」


 さすがにそれ以上言わせたくない──ムラタは彼女を抱きしめようとして、激しく抵抗され、拒絶された。むしろ、彼女が狼獣人のガロウから伝授された当て身投げの要領で、ムラタはリトリィに投げられる。


 だが、床に叩きつけられるのではなく、寸前でそっと下ろされるところに、まだリトリィの理性があるとすら言えた。


「そうやって、とりあえず抱けばわたしが口を閉じるって思われていることがつらいんです! あなたはやっぱり、なんにもかわっていない! わたしが、あなたにきらわれるのをこわがって、言うことを聞くって思っているんでしょう!」

「違う! 俺は君のことを──!」

「またそうやって息をするように嘘をつくのでしょう! ほんとうに愛してくださるなら、わたしが一番なら、どうしてわたし以外のかたを抱くなんてまねができるんですか! わたしは、わたしには、あなたしかいないんです!」


 リトリィの悲痛な叫びに、ムラタは胸が締め付けられる思いだった。


「それなのに、あなたは、わたしだけで満足してくださらない!」

「そうじゃない、違うんだリトリィ!」

「何が違うっていうんですか!」


 ムラタが伸ばした手を払い、リトリィは絶叫した。


「あなたは、わたしを一番だと言って、かわいがってくださいます。わたし、あなたを信じて、あなただけにつくしてきました。じゃあ、どうしてわたしだけで満足してくださらないんですか!」


 ムラタは、何も言えなかった。

 彼女の言う通りだ。とても誠意ある態度をとってきたとは言えないと、彼女の言葉にほぞを噛む。

 だが、何も言えないからといって、行動しないわけにもいかなかった。


 何度投げられただろう。

 泣き叫ぶリトリィに、ムラタは何度、寄り添おうとしただろう。


 気が付いたら、二人は荒い息をつきながら、ベッドに並んでいた。触れるか触れないか、そんな微妙な距離感で寄り添って、月を見上げる。


「……だいきらいです。ムラタさんなんて」

「……そうか。すまない」

「そうやって、なんでも受け止めてしまうあなたが、だいきらいです」

「……すまない」

「こんな……こんなわがままを言ってるわたしが、だいきらいです」

「君は、わがままなんて言ってないよ」

「……そうやって、やっぱりわたしを受け入れてしまうあなたが、だいきらいです」


 涙で真っ赤な目をこするリトリィは、そっとしっぽだけを、ムラタの腰に差し向ける。

 ムラタがそれに気づいて彼女の肩に腕を伸ばすと、リトリィはそっと体をそらしてみせる。だが、しっぽまでは離さなかった。


「……可愛いな、リトリィは」


 思わず漏れたムラタの言葉に、リトリィは顔を背ける。だが、しっぽをなでるムラタの手に、彼女はさらにしっぽをからめてみせた。


「かわいく……なんて……。どうせわたしは、ケダモノですから……」


 マイセルちゃんみたいに、リノちゃんみたいに、フェルミさんみたいに、つるつるの肌じゃない、毛深いケダモノですから──そう言ってまた、涙をこぼした彼女を、ムラタは抱きしめた。


 この夜──いや、これまでに何度も何度も彼女が卑下してみせた言葉だ。

 今度こそ、ムラタは捕まえた。

 捕まえて、その薄い唇に、自身の唇を重ねる。


「俺は、君のふかふかな体が大好きだ」

「そうやって、また……うそを、つく、あなたが、だいきらい、です……」

「いつも言っている、嘘じゃない」

「うそです……うそです! あなたは……」

「俺がどれだけ君に惚れてるか、まだ分からないって言うなら……」


 ムラタはそう言って唇を奪い、力の限り抱きしめると、首を振って抵抗する彼女を抱きしめ、深々と愛の証で刺し貫いた。

 さっきまでの抵抗が嘘みたいに、あっけなく、彼女の最奥まで。


「一晩かけて、分からせてやるから……!」


 そう言ってみせたムラタだが、それが自身の強がりだと十分に分かっている。

 彼女が本気で抵抗してみせれば、彼女を抱くどころか、手をつかむことだってできないはずなのだ。

 つまり、自分は今、リトリィに許されているからこそ、こうして、彼女のぬくもりを味わうことができているだけの男だ──ムラタは。彼女の胎内が自身を包み込むぬくもりを感じながら、そっと自嘲する。


 さっきまでけんかをして、興奮していたからだろうか。いつもより熱くうねり、とろけるような胎内の感触に、ムラタは感動すら覚える。彼女が体を許してくれたことを幸いに、その蜜壺がもたらす悦びに身を浸すことにした。


 すすり泣くような彼女のあえぎ声が、腰を叩きつけるたびに自分を咥えこむ秘所からあふれる蜜が、すがるように巻き付けられるふわふわなしっぽの感触が、さっきまでの、なぜ分かってくれないのかという焦りや苛立ちを、ことごとく裏返していく。


 むしろ、こんなに可愛い妻を寂しがらせていた、という罪悪感がわいてくる。

 さっきまであんなに拗ねて泣いていた彼女が、自分にすがりつき、熱い吐息とあえぎ声を漏らしながら、突き入れるたびに体を弓なりに反らせる姿を見せることへの愛おしさに。


「わたしは、あなたのリトリィです……あなただけのわたしなんです……。どうか、どうか、それだけは……!」


 すがりつき、俺の耳元で、嗚咽とともに訴える彼女を、どうして無碍になどできようか。夫をくわえ込む彼女の秘裂からは蜜がしとどに溢れ、腰を打ち合うたびに熱く飛び散り、二人の下半身を濡らす。


 さっきまで想いが通じないことに絶望していただけに、今、自分の腕の中で悦びに悶える姿が、一層、愛らしい──ムラタは、改めて彼女を愛おしく思う。


「わたし、あんなこと、言いたかったんじゃないんです……。あなたにかわいがってほしかった……大好きなあなたに、もっと、もっと大事にされかった……そう言いたかっただけなのに……!」


 ごめんなさい、と繰り返し、すすり泣きながら腰を振る彼女を、ムラタはしっかりと抱きしめて、一緒に愛を確かめ合った。


「あなた……あなた……! もっといらして、奥にください……!」

「ああ、たっぷり受け取ってくれ。愛しているよ、リトリィ……!」


 きゅうっと締まる蜜壺に吸い付かれるような感触に耐えかねて、ムラタは彼女の胎内、その一番奥に、これ以上ないというくらいに子種を注ぎ込む。彼女の胎内は、ムラタのものをくわえこみ、注ぎ込まれた精を飲み下すかのように、熱くうねった。




 リトリィとて、いつまでもけんかなどしていたくなかった。感情の高ぶりが抑えきれなくてけんかになってしまったけれど、彼女自身、ムラタのそばを離れるつもりなど毛頭なかった。自分が受けたショックを、悲しみを、辛さを、ムラタに理解してほしかっただけだ。


 ムラタはやっぱり、自分を選んでくれた。

 こんなにもわがままを言って困らせたというのに。

 そう感じることができただけで、もうリトリィに、ムラタを拒絶する理由など無くなっていた。むしろ、けんかを吹っ掛けたぶんだけ、彼を存分に受け入れたかった。


 自分を抱きしめてくれるムラタ以上に、リトリィは腕も脚も、全身を使ってムラタにすがりついた。

 彼が悦んでくれる方法は、積み重ねてきた夫婦生活の中で、いくつも知っている。長い時間、自分のわがままに付き合ってくれたムラタへの謝罪と、そして感謝の想いをこめて、彼女は夫の愛の動きに合わせ、情熱的に腰をくねらせた。


 二人は、ひたすら互いに愛を重ね合った。

 夜の底がしらしらと明けてくるまで、ずっと。




 マイセルもフェルミも、その夜は一階にいた。

 フェルミなど、「自分のせいで……」とおろおろしていたが、マイセルの方は「お姉さまは、ムラタさんに甘えたいだけだから」と落ち着いたものだった。「リトリィ姉ちゃん、大丈夫かな……」とおびえるヒッグスらチビたちを連れて客間に毛布とクッションを持って行ってしまい、聞こえてくる悲鳴などをものともせず、チビたちを抱えるようにして眠ってしまった。


「……お姉さまは甘えたいだけ、ね……?」


 マイセルの言葉を思い出しながら、フェルミは天井を見上げる。

 さっきまでかすかに聞こえていたリトリィのすすり泣くようなあえぎ声は、今は歓喜の悦びに満ちた声にかわっている。


 自分もムラタに愛されている時には、あんな声を上げているのだろうか。少し恥ずかしくなってきたフェルミは、毛布を頭まで被った。




 翌朝、「ご、ごめんなさい、みなさん……昨夜は、その……」と、泣きそうな顔でしょんぼりして、か細い声で、ムラタの後ろに隠れるようにしながら謝るリトリィに、マイセルが「ムラタさんが全部悪いんですからいいんですよ!」と、にこにこしながら答える。


 フェルミに至っては、「ご主人の寝言はさておき、私はお姉さまの『提案』を守りますから」とまで言った。


 あのような激しい一面を見せたリトリィだ、しばらくギクシャクするかもしれない──そう考えていたムラタだったが、案外すんなりと受け入れられたことに、彼は拍子抜けした気分だった。


 マイセルやフェルミが特別に寛大な女性だった、というわけではないだろう。リトリィがこれまでに示してきた寛容さが、彼女自身を救ったのだ。


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