第22話 果たされた約束

「ただいま故郷ハームブルト


「ダールさんは本当に強引ですよね……」


「こうでもしねえと出られねえだろ」


 魔族と結託する統治者がいる街にはいられねえ。そんなことを声高に言いながら、止める兵士に困惑する兵士を押しきってダールはここにいる。


 シキメには呆れられるが、時には必要な手段だ。


「シキメは大丈夫なのか。俺についてきて」


「大丈夫じゃないですよ。下手をすれば私は解雇です」


「じゃあなんでついてきたんだよ」


「ミルトくんとメトラちゃんを守るためです。後は、ダールさんを信じたからです」


「そうかよ」


 シキメの信頼が重くのしかかり、ダールの首筋を冷や汗が流れ落ちる。


 適当を言った挙げ句、根拠は勘。そんなことは、口が裂けても言えない。


「ダールさん、この後はどこに行くんですか」


「とりあえずワキョんとこに行くぜ。言わなきゃいけないことがあるからな」


「ワキョさん? ダールさんの友だちですか?」


「そんなとこだ。シキメは初対面か」


「はい、初対面です」


「初めて、私もその人を知らない」


「ワキョはここの兵士なんだが……会ったことないか」


 シキメが会ったことないのはともかく、ハームブルトに住んでいたメトラはありそうだ。


 メトラはうつむいて考えこむも、やはりないのか首を横に振る。


「ない」


「そうか、なら顔くらいは覚えてやってくれ。いい奴だからな」


「それにしても、どうしてこうもボロボロなんでしょう。もしかして、魔族にまだ襲撃されているんでしょうか」


 シキメが村の廃れ具合に疑問を覚えるのは無理もない。ダールも最初は廃村かと思っていたが、今はもう人の仕業であることを知っている。


「いいや、人らしいぜ」


「人ですか?」


「そう、人がやったこと。ヨールドのような、混血種私たちを恨む人たちが」


「ヨールド? それは約束と関係すんのか」


「する。ヨールドとの約束は、私がお金を持ってくる代わりに村を破壊しない約束。それは、誰にも言っちゃいけない」


「それが酷いことの正体か」


 ダールは辺りを見渡して反吐が出そうになる。


 ガキを脅すことも使うことも勝手でそれはどうでもいい。ただ、罪を被せて1人勝ちをすることがダールは心の底から許せない。


「メトラちゃん、もう大丈夫だよ。今度は私たちが守るから」


「ありがとうシキメ」


「ヨールドさんって酷い人ですね。ダールさん、ボクたちも手伝いましょう」


「俺を巻きこむんじゃねえ。だいたいこれは兵士の仕事だろ。俺には別の仕事がある」


 シキメたちが持ってきた事件とは無関係、とは言い難い誘拐事件。どうせ関係はあるだろうが未だに手がかりはない。


「別の仕事? それはなに」


「誘拐だ。汚ねえあそこで言っただろ。俺はその真犯人を探してんだよ」


「真犯人……きっとヨールドだと思う」


「証拠がねえ」


 ダールも薄々そんな気はするが、これといった証拠がない。強い恨みだけだと無理があり、もっと確定できる情報が必要だ。


「不明なお金は誘拐で儲けた。というのは考えられそうですね」


「俺もそうだとは思うぜ。混血種は金になるからな。ただ、いかんせん証拠がねえ」


「ねえダールさん。誘拐は魔族が関係するんじゃないですか」


「魔族が? どう関係すんだよ」


 ミルトにしては突拍子もないことを言う。ダールが顔をしかめると、ミルトは難しい顔をしてゆっくりと口を開く。


「どうって……仲間を増やすとか、魔王を復活させるためとかですかね?」


「6人もいるか?」


「もしかして、魔王の器の代わりを探してたからですかね。誰が代わりになるか分からないため、多くの人が誘拐されたんじゃないでしょうか」


「それなら納得だ。それで今回やっと本物が見つかったから魔族じきじきに来たのか」


 シキメの言い分は納得がいく。魔王の器を探してたが見つからず、代わりになりうる混血種で試した。当然全員がなれるとは限らず、探しに探して6人も誘拐したのだろう。


 ダールはタバコにをくわえて真剣な目つきをする。残りはヨールドの関与だ。


「ダールさん、タバコ吸うなら離れてください」


――――


「おいワキョ。いるか」


 ダールがドアをドンドンと叩けば、微かに開いてワキョが顔を見せる。


 ワキョほ目元をこすり、大きなあくびをこぼして眠たげだ。


「昼帰りっすか。何してたんすか」


「ゴタゴタがあったんだ」


「はぁ、また暴力沙汰っすか? どうせ酒を飲みすぎて一触即発からのドカンって感じっすか?」


「そうじゃねえよ。襲われたんだよ、よく分からん連中に」


「よく襲われるっすねー今度はなにしたんすか」


「ダールは守ってくれた。私を、殺しに来た悪い人たちから」


 メトラがひょっこりと顔を見せるとワキョは固まる。ダールをじっと見てきて、言いたいことは分かる。


 この子は誰だ――。そうとでも言いたげだ。


「村長の娘だ」


「悪いっすけど理解が追いつかないっす。なんでそんな子が殺されそうになってるんすか? ていうかなんで連れ帰ってんすか?」


「色々あったんだよ、色々と。家に入れろ、話はそれからだ」


「はぁ、分かったす。どぞ」


「失礼する」


「ただいまです」


「失礼します」


「……ダールさん、なんで国のお偉い兵士さんもいるんすか」


「あー、シキメのことか。護衛で来てるんだ、それも後で話す」


「うわあ、話が多そうっす」


 ワキョは嫌そうなため息をついてダールの前を歩く。


 ダールも一から話すのは面倒で、できるなら誰かに丸投げしたい。が、昨晩の出来事を体験したのはダールだけで、ガキ2人は見ることも聞くこともさせていない。シキメに至っては論外だ。


「俺だってしたかねえよ。話が多すぎる」


「でも、聞かないことには現状なんて何1つ分からないっすよねー」


「当たり前だろ」


 部屋につくとミルトとメトラがイスに座り、空いているイスは1つだけだ。


 シキメが座らないのは配慮から、おおよそワキョのために空けたのだろう。けれど、ワキョは座らずシキメを見る。


「シキメさんすよね、座っていっすよ」


「いえそんな、家主であるワキョさんが座るべきですよ」


「いえいえ、自分はさっきまで寝てたっすから」


「私は立っているほうが楽なので」


「じゃあ俺が座る」


 どうせ譲り合って座らないのならダールが座る。酔いや昨日の疲れから座して然るべきだ。


「まあ、ダールさんならいいっすね」


「そうですね。ダールさんならまあ」


「んで、ワキョはなにから聞きたい」


「そっすねー、普通に1から聞かせ欲しいっすね」

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ヤニカス酒カスギャンブラーの(元)勇者候補は拾ったガキを親に返して堕落した日々に戻りたい 横鞘に干し @YokosayaNiboshi

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