探すべき本
何の本を探せばいいのか、それは諏訪さんが発していた言葉と城下の地図に隠されている。念のためサーニャがメモしたというスピーチの言葉を読み返したが間違いない。
探すべき本はミヒャエル・エンデの『モモ』だ。
彼女は『モモ』の中に出てくる最も好きな文の内容を言った。そしてこの城下の地図。この地図には『モモ』に登場する人物の名前や場所が盛り込まれている。どの本かは判明したが、問題はどこにその本を隠しているかということ。
主人公であるモモは浮浪児で都会外れにある円形劇場跡の廃墟に住みついていた。そこに隠してある確率は高い。城下にはこのコロッセオとは別に今では廃墟と化してる円形劇場があるはずだ。
「サーニャさん、昔使われていた円形劇場の場所ってわかりますか?」
「えーっと・・・、確かここです!」
そうしてサーニャがパンフレットで指をさした場所は少し離れたところにある『ホラ』と書かれた場所だった。
「さすが・・・」
『モモ』に出てくるマイスター・ホラからとってつけられたのか。
でもマイスター・ホラと円形劇場の関わりはなかったはずだ・・・。この円形劇場にその名前を付けたのには理由があるはず。
「ここから歩いて二十分くらいです!行きましょう!」
サーニャが歩き始めたので置いて行かれないように後に着いていく。
「それにしてもどうしてわかったんですか?」
「女王様と僕の読書の趣味が合ったから、ですかね」
そう言って微笑むと「なるほど!」とサーニャが笑った。
彼女は娯楽本を読むことがなく、読むとすれば戦術書や国際関連の書籍が多いという。
代々騎士団に入隊している家系の貴族だというが、貴族と言えども貴族っぽい優雅さはなく、武一筋だという。サーニャは兄のイリアと違い女の子ということもあって蝶よ花よと育てられたというが、彼女自身興味があるのは剣や体術などの武芸だった。
両親は頭を悩ませたものの、結局本人が良いというのであれば・・・と許可は貰えたという。ただ騎士団への入隊をすることはできなかった。男所帯というのもあるが、サーニャはイリアとは違う意味で武に秀でていた。
イリアを立てる為にもサーニャは入隊するわけにはいかなかった。
「私の力は周りの誰かがピンチな時に守れたらそれで良いんです。後は兄がやっつけてくれますから」
この兄妹はお互い思いあっているのがわかる。
・・・イリアは思わぬ方向に行ってしまってサーニャに嫌われてしまわないか心配だが。
「へへ、私のことばかり話してすみません。タイチさんはイベントに参加されに来たのですよね?女王様を見て吃驚されたんじゃないですか?とてもお綺麗ですし!普段はとても気さくで聡明な方で、私が騎士団に行ったときにお声をかけてくださるんです!お話もとても面白くて周りの方々や国民に愛されているんですよ」
サーニャは用事で騎士団へ行ったときに何度か諏訪さんと会って可愛がられているようだ。年下を可愛がるのは相変わらず。泰一も諏訪さんに良くしてもらっているのでわかる。
サーニャに頼めば諏訪さんに会えるのではないか?
「私も女王様にお会いしたいですね」
「えっと、どうでしょう・・・。騎士団は身内しか訪問できませんし、女王様は宮殿から外出されることは少ないようですので・・・」
サーニャから詳しく話を聞くとどうやらイベントごとや王族の行事以外は宮殿から出ることは滅多にないらしい。
騎士団で鍛えている弟を見る為、稀に騎士団に訪問されることはあるみたいだが、頻度もまちまちで会えないことの方が多いとサーニャは項垂れている。
諏訪さんに弟?
現実世界ではいなかったと思うが、泰一が知らないだけかもしれない。
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