イベントの内容






「来場の皆様、本日はイベントに参加いただきありがとうございます。イベントに際しまして、女王よりご説明がございます。今一度静粛にお願いいたします」


会場に響き渡るアナウンスで辺りは静まり返る。



「どうやら始まるみたいですね。今年はどんなイベントか楽しみです」


サーニャが泰一に聞こえる程度にこっそり呟く。

それに対して頷きつつも、今のところ周りを見渡しても諏訪さんはいないことを確認する。


参加人数が多すぎるから見つけられないというのもある。けど彼女がこの国にいるとなれば、きっと―。



「皆様ごきげんよう。女王ミハ・スーホです」



参加者の前に現れたのは赤いドレスに身を包んだ諏訪さんだった。

やっぱりそうかとこっそり溜息をつく。

女王となると近づくのがかなり難しい。もしこの夢の世界が諏訪さんの想像や願いを基に築かれているとしたら厄介だ。読んできた本の知識を組み合わせて完璧な王政制度を作り上げているに違いない。そうなると他国から来たことになっている泰一が近づける確率はかなり低い。



「今回のイベントは宝探しです。城下のどこかに隠された一冊の本を見つけてください。その本はどのように人々が過ごすかによって時間の経過の感じ方が変わることを伝えています。そして日々過ごす時間が生きるということそのものだと言っています。制限時間は三時間です。正解したものは私から褒美を与えましょう。皆様の健闘を祈っております」



そういうと彼女は王族の席へと戻った。

進行役の人からは本を見つけた場合は会場内のバッジをつけた騎士に声をかけること、また隠された本にはダミーがあるのでそれを持ってきた人は脱落であるということが発表された。個人でもチームでも挑戦できるのは一回だけ。



「では始めさせていただきます。スタート!」


そういうと銃がパンッと撃たれた。



「挑戦できるのが一回だけというのは中々厳しい条件ですね・・・」


泰一がそう呟くとサーニャも真剣な面持ちで頷く。



「この人数が挑戦者となると必然的にそうなってしまったのかもしれません・・・。それに城下と言っても広くて、三時間では回れません」



パンフレットにある城下の地図をみてサーニャが慌てている。

早々と行動に移る人たちがいれば、席で思案している人たちもいる。泰一は先程諏訪さんが言っていたことを頭の中で反芻していた。ここから出て三時間で行って帰ってこられる距離で尚且つ諏訪さんが言っていたヒントを元に謎を解けということは・・・。



「・・・少しパンフレットをお借りしても良いですか?」

「は、はい!どうぞ・・・」



城下の地図を確認すると主要の建物には『ジジ』『ベッポ』『フージー』など見覚えのある名前が連なっている。

観光名所と称して『さかさま小路』と書かれた場所もあり、説明を読むと『ゆっくり歩くと早く進み、早く歩くとゆっくり進む摩訶不思議な小路』と書いてある。


やはりそうか。泰一が諏訪さんと働いていた時「一番大切な本は何か?」という会話をしたことがある。二人とも全く同じ書籍のタイトルを言ったことで、彼女との仲が深まった。

偶々帰りが一緒になった時「どんなことがあったとしてもこの本から離れることはない」と言い、くたびれた、でも愛着を持って保管されていることがわかる一冊の本を取り出して見せてくれた。

泰一も読み返している時期だったので鞄の中からその本を出すと、諏訪さんは驚いた顔をして「私に負けないくらいの愛着度じゃない」と笑っていた。その時の諏訪さんの懐かしい笑顔を思い出してふっと笑う。



―彼女はこの世界に閉じこもっていてはいけない人だ



泰一は目を閉じて深呼吸をする。サーニャは不思議な顔をしてみていたが、集中しているのだろうと思い泰一が話すまで待っていた。



「女王は随分と気前の良い人ですね」

「えっと・・・?それはどういう?」



目を開いた泰一がそう言うとサーニャは益々不思議そうな顔をする。彼女は女王がスピーチで言ったことをメモしていたが、思い当たる本がなかった。



「とりあえず場所を移動しましょうか」


サーニャと席を立ちあがり動き始める。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る