目的地に到着
「あ!でもイベントの褒美でもしかしたら女王様に会えるかもしれませんね!」
考え事をしている泰一が項垂れているように見えたのかサーニャがフォローしてくれた。
「ええ、そうですね。会えるかもしれないので頑張らないと。・・・それにしてもサーニャさんは女王様のこと好きなんですね」
先程から諏訪さんの話をしているとき目がキラキラ輝いている。
「ええ!でも、女王様がどう思われているのかはわかりません・・・」
自分の思っていることを口に出すのは中々難しいと苦笑しながら言う諏訪さんが目に浮かぶ。
泰一と長い付き合いだが、その心中を話してくれることはほとんどない。自分の話より人の話を聞くことが楽しいという彼女は、ほとんど自身について語らないのだ。それ故に何を考えているのかわからないと言われることが多い。
誰にでも優しく笑顔なので、一部では八方美人と煙に巻かれていたこともあった。そんなこと諸ともせず、良く思われていない相手でも平等に接する諏訪さんに感心していたが、彼女にそのことを話すと「私はとても冷たい人間よ」と言って笑って誤魔化された。
泰一は泰一で本の話が出来れば良いので、深く関わることもなくほどほどに仲良くしてもらっているが、彼女のことを好いている人間からすると、その目に見えない線がもどかしいのだろう。
視線を下に向けて悲しそうな顔をしているサーニャの頭を思わず撫でる。
「え、タイチさん・・・?」
「あ、すみません。つい・・・」
そういって手を引っ込めると、撫でたところを抑えて顔を真っ赤にしている。
妹がいるからか年下の女性の頭を撫でてしまいがちだ。だけどサーニャは嫌だったのか顔を真っ赤にして震えている。
確かにさっき知り合ったばかりのおっさんに撫でられたら嫌か・・・。
自分でやったことでダメージを受けていると、サーニャは小声で「タイチさんのバカ・・・」と言っていたが、泰一には聞こえていなかった。
しばらく沈黙はあったものの、サーニャが話題を変えてこの国のことや女王について話してくれたり、泰一が本の話をしたりしているといつの間にか目的の場所に着いた。
「こちらです!いつもは立ち入り禁止のマークが付いていますが・・・」
周りを確認してもマークはないので入っても大丈夫だろう。
中に入ると何人かうろうろしていて何かを探している。きっと『モモ』を探しているのだろう。
この国では書店が貴族専用とされているので、本を所有している人は少ない。平民は図書館や学校で本を読むことができる。貸出期間は一週間。ただし貸出の本は全て昨日に返却されており、今日は図書館や学校が休みの日なので本の内容を確認することは不可だという。
諏訪さんが治めている国で書店が貴族専用というのは何とも不思議だ。彼女は本と人を結び付けるのが好きなので書店は誰でも解放されているものとばかり思っていた。諏訪さんに一体何があったのだろうか。
泰一はそれについて考えていたがふと今の説明で疑問が浮かんだ。
「サーニャさん、貴族なら『モモ』を持っている人がいるのでは?」
そう。
宝探しと言えども元々持っている本をお宝として提出する人がいるかもしれない。
「いるとは思いますが、それを提出しても無効になるだけですよ。本の支払いをした後に自分の魔力を流すので、検査した時に違うとわかってしまいます」
「魔力?」
「ええ。高価なものなのでなくさないようにそうするのが通例なんです」
つまり参加者は記憶力を頼りに見つけるしかないということだ。
かなり厳しい条件ではないか。貴族で裕福な生活をしていて手元にこの本を持っている者かはたまた平民で読書好きか。
どちらにせよ初めの説明でかなりの人数ふるい落としているのは一目瞭然だ。
それにしても本が高価というのにも違和感がある。
諏訪さんは一体何を考えているのだろうか。
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