―諏訪美波の夢の中―






「ん・・・?」



光の先を歩いて出てきた場所は、ヨーロッパを彷彿させる街並みだった。歩いている人たちは西洋絵画に出てくるような服装をしている。


この世界は諏訪さんが作り出した世界なのだろうか・・・。


行き交う人たちを見ていたが、ふと自分を見ると服装が変わっていることに気づく。近くにあったガラスで自分の姿を見ると、先程着ていた服ではなく、行き交う人たちと同じような服だった。

顔は泰一のままだが、いつもと違う服というので違和感を拭えない。レーヴが配慮してくれたのだと思うが、いつも決まった服を着ている泰一からするとむずがゆい気持ちになる。




「それにしても人が多い・・・」




市場にあたるところにいるのか、買い物客で賑わっていて人が多い。

これでは諏訪さんを見つけることができない。何かヒントがあればいいが、レーヴには何も言われず見送られたのでどうしたらいいのかわからない。とりあえず周辺を散策してみるか。


周りの景色を見ながら散策していると、日本語ではない言語で書かれた看板や張り紙が貼られている。不思議と文字の内容がわかるので読んでみると、今日は女王の誕生日でお祭りが開かれているらしい。

本日の目玉イベントとしては女王が見守る中行われる試合。平民であれば誰でも参加可能だが、試合内容は毎年変わるようで女王の口から言われるまではわからない。

ちなみに去年は剣による模擬試合、一昨年は早食い競争と書かれている。こういったイベントに諏訪さんが参加している確率は高い。


彼女はイベントごとが好きで書店でも色んなイベントを提案しては実行に移していた。人を喜ばせたり、楽しませたりするのが好きと言っていたのを覚えている。場所を確認して会場へと向かっていると走ってきた人とぶつかった。




「すみませんっ」

「いえ、こちらこそ。お怪我はないですか?」

「はいっ、私は大丈夫ですっ」

「サーニャッ、どこ行きやがったアイツ!」



横ではさっきぶつかった女性がヒッと悲鳴をあげている。どうやら男性に追いかけられているようだ。




「こっち」



放っておくわけにはいかずサーニャの手を引いて見つけた裏路地へと入り、彼女に覆いかぶさるようにして男性が通り過ぎるのを横目で見守った。




「もう大丈夫。さっきの男性はどこかへ行きましたよ」



そういってサーニャから距離をとると、顔を真っ赤にして口をパクパクしている。




「た、助けていただきありがとうございます・・・!わ、私、サーニャ・アスファルトと申します!」



湯気が出てきそうな真っ赤な顔をしながら言うサーニャは長い白髪を赤いリボンで結び、目鼻立ちがしっかりした可愛い女性だった。

顔が真っ赤なことに疑問を持ちながらも自分の名前を名乗ると、この世界では珍しい名前なのか不思議そうに「タイチ・ヒラヤマ・・・?」と繰り返している。









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