ファンとの交流、予期せぬ声
雄介と他愛もない話をしていると、いつの間にかカシェットに着いていた。
扉を開けると、もうすでに来ていた水島が勢いよく椅子から立ちあがる。
「あ、あ、葵先生!ほ、本日はお、お時間いただきあ、ありがとうございます!」
緊張しすぎて嚙みすぎだ。
水島は呆れた目で見ていた泰一に気づくことなく目をキラキラさせて雄介を見ている。
「いやいや。こちらこそ本を読んでくれてありがとう」
そういって雄介は右手を水島の方に出すと、水島はその手を両手でがっしり握って感涙していた。
そんなに泣くほどなのか・・・と思う程のボロ泣きで、さすがに昌平がカウンターからお手拭きを持ってきていた。
「水島ちゃん、落ち着きなよ。とりあえず席に座ろっか。・・・葵さん、すみませんね。この子ずっとファンなんですよ」
「知ってます。まさかこんなに感動してくれるとは思わなくて・・・」
そういう雄介は微笑んでいるが困ったような表情をしている。
「雄介先輩、とりあえず座りましょう。昌平、ブレンドコーヒー二つ」
「はーい」
そういうとカウンターの方へ戻っていった。
「泰一、店員さんと知り合い?」
「小学校の同級生です」
「世間は狭いな」
「本当に」
ようやく水島は泣き終えたのか、鼻をすすりながらすみませんと謝る。
「大丈夫ですよ」と雄介が言うと、優しさに感動したのか涙を流しそうになったのをぐっとこらえて、デビュー作から新作に至るまでの感想を言い始めた。
いきなり始まったので雄介は驚きながらも、新聞の小さなコラムの話までされると感動したのか、耳を傾けてしきりに頷いている。
正直泰一は蚊帳の外だった。熱心に話す二人を横目に来ていたブレンドコーヒーを飲む。
「水島さん凄いね!そんな昔のものまで読んでくれているなんて・・・、ありがとう」
「いやいやいやいや、感謝するのは私の方ですよ!いつも素敵な作品を作ってくれてありがとうございます!」
そう言われて雄介は照れている。紹介して良かった。
「水島さん、これ取り寄せた本。雄介先輩にサイン貰って渡したらどうかな?」
「いいですね!あの、葵先生、いいですか・・・?」
「もちろん」
持ってきたサインペンを雄介に渡して、柴門さんの名前とサインを書いてもらった。水島はちゃっかり雄介の最新作の本を持ってきていて自分の宛名入りサインも貰っている。
「宝物にします」と言っていたので神棚に飾って毎日拝んでそうだなと思いながらやり取りを見ていた。
二人が話し合っているのに時々相槌を打ちながら聞いていると、不意に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『泰一、次の訪問者がもうすぐ来る。早く来い』
なんだ今のは。この声は、もしかしてレーヴか・・・?
『そうだ。黙っていたら次の訪問者と泰一が接触できなくなりそうだから無理やり呼びに来た』
強制的だな・・・。
そう思いながら不意に時計を見ていると十八時になっていた。
合間にご飯を食べていたとしても、結構な時間話している。
『早く来るんだぞ』
そういうと声は聞こえなくなった。
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