定例朝食会
「雄介先輩は落ち着くまで昼間に絶対来ないでくださいよ。しばらくは営業時間外の来店でお願いします」
「わかってるって・・・」
雄介が昼間にエンデを訪れようとしたけど、凄い人だかりが出来ていたから入れなかったと言われたのが昨日だ。
せっかくできた自分の楽園が・・・と嘆きのメールがきた。
当然の如くその文をスルーして、水島との約束を今日に取り付けた。
「泰一の後輩に会うのって何時だっけ?」
「13時です」
「それまで書いた小説見てくれないか。途中なんだけどさ、なんかおかしな方向に向かっているような気しかしない」
「わかりました」
朝食を食べた後、たまに雄介の原稿をみてあーでもないこーでもないと二人で意見を言い合う。
泰一と話していると色々なアイデアが浮かぶらしく、新しいネタが次々と生まれるらしい。特別なことを言っているつもりはないが、アイデアが浮かぶと雄介は急に会話することを辞めて、ノートにメモをし始める。
泰一は雄介がメモしている間見守ることに徹していたが、アイデアが際限なく出てきている時は傍らで本を読んでいる。雄介の集中を途切れさせたくないので昔からそうしていた。アイデアメモが終わっても泰一が読書中なら話しかけられることはない。お互いがお互いの邪魔をしないのが泰一と雄介の暗黙のルールだ。
雄介から原稿を渡されて読みながら違和感のある所を都度指摘する。
「あー、雄介先輩。ここおかしいですよ。話の辻褄が合いません。確かこの駅からこの駅までの電車って乗り換えを考えると三十分じゃ辿り着かないです。四十五分かかりますね。そうなると主人公が犯行現場まで行く手段はタクシーかバスになりますが、貧乏の設定でタクシーは乗れないし、バスとなると最寄りのバス停から犯行現場まで歩いて時間がかかるのでどちらにしろアウトです」
「そうか!・・・それにしても交通網まで知っているのか」
「この辺りに住んでいたことがあるんですよ」
「それ前も聞いた気がするけど」
「・・・気のせいです」
泰一は引っ越しを頻繁にしている。
住んでいる家が更新のタイミングで違う場所に移り住むこともあれば、やむを得ない事情がある場合(前の店にいるときにストーカー被害にあった)もあるし、好きな小説の舞台になった場所に引っ越しすることもある。同僚は面白がって引っ越しする度に遊びに来ていた。
「じゃあここを修正するとなると前後もやり直しだな・・・。今から修正するけど、泰一どうする?ここにいるか?それとも一度家に帰る?」
「家に帰ります。12時半頃に迎えに来ますね」
「わかった。じゃあまたあとで」
「はい」
雄介の家を出た後、家の掃除と読みかけの本を読んでいたらあっという間に時間が過ぎていて、慌てて雄介を迎えに行った。
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