思わぬサプライズ
―夢の本屋にて―
目を開けるとソファーの上でゴロゴロしているレーヴが目に入った。
「ハデス様が喜んでいらっしゃる。泰一のおかげだ」
「それは良かったな」
いつもなら姿勢を正して泰一を出迎えるレーヴが寛いでいることに驚いた。
泰一に慣れて来たのかはたまた大仕事が終わって一服しているのか・・・。
「葵雄介の影響力は泰一が思っているより大きい。死の間際から救い出せたことによって、影響を受けた人々が死の道へ誘われずに済んだ。私からも礼を言う」
「その体勢で言われてもな・・・」
「気にするな」
そういってレーヴは欠伸をした。
今回の件は泰一が思っている以上に重要なことだったようだ。そんなこと一言も言っていなかったのに。
「言うわけないだろう。変なプレッシャーを与えて失敗してみろ。それこそ大損害だ」
心の中を覗かれた。そのことに対してレーヴを睨んでもどこ吹く風のように涼しい顔をしている。
「泰一に一つ忠告しておく」
「なんだ?」
「これからエンデは忙しくなる。本の発注は怠らずにな」
どういうことだろう?
首を傾げて頭に疑問符を浮かべていると視界がぼやけて、夢の本屋から現実に戻っていた。
数日後、レーヴが言っていた意味を知ることになる。
雄介がエンデのことをインタビュー記事で紹介していたのだ。その記事が大きく掲載されたからか、それとも雄介がたまに訪れているという情報がSNSで拡散されてしまったからか、お客さんが絶え間なく来店するようになった。
それはそれでありがたいが、とにかく忙しい。
水島から本の相談ならエンデへと紹介されたことで来店してくれていた人もいた。その人たちの相談にのっていると、それを見た別のお客さんから後日相談されるという無限ループを繰り返している。
本の相談ではあるが、かなりプライベートに踏み込んだ内容を話されるお客さんも多くいるので、街のなんでも屋になった気持ちになる。店主もここまで忙しく相談をされていたことはなかった。目まぐるしい日々が続いて泰一はとにかく毎日ヘトヘトだった。
「繁盛してるな」
「おかげさまで」
定期的に行われている朝食会でそう言われた。
雄介の照れた顔を見ていると、なんとなくムカついて黙ってご飯を食べる。
「なに、俺なんかした?」
「・・・エンデが記事になることを事前に言ってくれても良かったんじゃないですか」
「サプライズになるかと思って・・・」
「そんなサプライズいりません」
バッサリ切ると今度はしょげた顔をしている。
雄介のおかげで店は繁盛しているしTwitterのフォロワーも増えてきたが、ただのしがない街の本屋だ。しかも大型書店に比べるとだいぶと狭い。
その中に人だかりができるものだから頭を悩ませている。一時的なものだと思ってはいるが、早く収まってほしい。
特に雄介目当てで来るお客様は本を見ることなく、雄介を探していなければ出ていくので何とも言えない気持ちになる。
せめて本棚を見てほしいなと思いながら、出ていくお客さんを見送る。
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