似ているあの人
「店員さんは先輩に似てます」
「先輩?」
「中学の図書委員の先輩です。私、平山先輩に近づきたくて、図書委員に入ったんですよ。入学したての時、図書委員の先輩でカッコイイ先輩がいるって噂を聞いて。幸い本も好きだったし、委員会決めてなかったので丁度いいやと思って。でも関わっていくにつれて、先輩は私のことを恋愛対象だと一切思っていないこと、ただの本好きの仲間としか思っていないことに気づきました。見えない線を感じたんです。ここまでは入ってきてもいいけど、ここからはダメっていう明確な線。その線の範囲を超えると先輩は私と関わることをやめてしまうのは明らかでした。だからずっと本好きの後輩として接していました。卒業する前には恋愛対象ではなくて、人として好きでしたね。その線さえ守っていれば先輩の傍は心地よかったし、周りの人たちにどんな噂をされても構いませんでした。だって私はあの頃、先輩のこと好きだったんですから。懐かしいなあ。元気にしてるかなあ」
元気にしているし何なら目の前にいる、と言えずに硬直してしまった。顔が心なしか熱い気がする。
「店員さん?大丈夫?」
「だい、じょうぶだ・・・」
「おいおい、そんな奴ほっといてどれにするのか決めてくれ」
呆れた顔で見ているレーヴは、『お前は何をしているんだ』と冷ややかな目線を浴びせてくる。
まさか夢の中でこんな恥ずかしい思いをするとは思わなかった。不意打ちだ。
泰一が赤面で悶えている間に、水島はこれにすると本を決めていた。最終的に選んだ本は、『幸せなお姫様』だった。その本を胸に抱えて、光の中に行こうとした足が不意に止まってこちらに振り向いた。
レーヴと泰一が不思議そうな顔をしていると水島は笑顔で、「レーヴ、店員さん、いってきます!」と言った。そんな彼女に向かって泰一は手を振り、レーヴはにやりと人相が悪そうな顔で見送った。
「随分と好かれているようだな」
水島がいなくなった後、光が無くなり静かになった本屋でそう言いにやりと笑うレーヴは人が悪い。いや猫が悪いか。きっと睨んだところで涼しい顔でそっぽむくだけだろう。
「うるさい」
無駄なあがきで言った言葉は、ふっと鼻で笑われて終わってしまった。
「昌平の時のように、現実の世界でも会うのか?」
「そうだろうな。ハデス様が泰一を店員としてここに招き入れた理由は現実の世界で接触できるからだろう。夢は所詮夢だ。起きたら忘れられてしまうことがほとんど。例え何度も夢と引き換えに死を望む記憶を貰ったとしても、根本的な解決にならない限り堂々巡りだ。それは私がずっと見てきた。苦しんでいる人間たちをこの目で何千年も。昔よりも今の方が顕著に思える。それはこの世界が発展してきたからか、若しくは腐敗の一途を辿っているのか私にはわからん。だがその苦しみが一つでも和らいで欲しいと思っている。だからこそ現実で生きる泰一に、ここに来た者たちを助けてほしい。それが私の願いだ。―昌平の時のように頼むぞ」
レーヴがそう言い終わると暗闇へとフェードアウトしていく。
「あ、っおい、聞きたいことが・・・」
僅かな抵抗が遮られ、深い暗闇へと意識が遠のいた。
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