―現実と夢の狭間『夢の本屋』にて―







家に帰ってベットで寝ていたはずなのに、目を開くとそこは自分の店の景色が広がっている。ただ違う点はそこに猫がいるということ。



「レーヴ、昌平と出会ったのは偶然か?」


こちらを見ているレーヴにそう尋ねるとニヤリと笑っている。



「さあ。だが彼が生きることを選んでくれて良かったよ。ハデス様の仕事が減る」



そういって濃藍のソファーに行き、寛ぐレーヴを見つめる。この猫からしたら、主人の仕事が減ることが一番なのだろう。部下にそう言われるということは働きすぎの仕事中毒なのかもしれない。神様も大変だ。



「それにしても、この件で嘘をついていたな」

「まあな。夢の本屋の話をしても頭がおかしいと思われるだけだろう」


そう言うとレーヴはふっと笑った。



「そうだな。まあここの話はできないようになっているから気にするな」

「なんか恐ろしいことをサラッと言ったような気が・・・」



ピクリと頬がひきつったが、レーヴはすまし顔で知らんふりをしている。



「まあ何でも話せるって言われたけど、やっぱり人のことはわからないものだなと今回思ったよ」



愚痴をこぼすようにレーヴに言ってしまったそれはあの日、小学生の昌平が『ぼうけん』の本を選んで光に吸い寄せられる前に「俺、外で遊ぶのが一番好き!特に冒険ごっこが好きで・・・」と最近遊んだ冒険ごっこの内容を話してくれたからだ。まさかあの昌平がと思ったが楽しそうに話しているのを見ると嘘をついているとも思えず、あの時泰一に気を遣って遊んでくれていたのかと思うと昌平はお人好し過ぎると思った。



「当たり前だろう。泰一も自分のことを100%理解しているかと言えばそうではないだろう」



言われて見ればそうだ。色々な経験をする度に自分がこういう考え方をするのかと驚くことがある。変わらない部分と変わっていく部分、どちらもあるのが人間だ。自分でさえそうなのだから、他人となると理解することなど到底できないものだ。



「まあそうだな。・・・それにしてもそのソファーとか観葉植物もそうだけど、どうやって内装変えたんだ?現実と夢の狭間だったらどっちにも干渉できるってことか?」



そもそも現実に干渉できるのであれば泰一が死に近い人に関わらなくても良いのではないかという疑問もある。



「それはだな・・・」

「まいどー!レーヴさん来月のカタログ持ってきましたよー!」



そんな声が聞こえるとどこから来たのかわからない、グレーの綺麗な毛並みをした一匹の猫がレーヴの隣に座っていた。頭には青いキャスケット帽、肩から白色の斜め鞄をかけている。まるで郵便配達員のようだ。



「ああ、ありが」

「それにしてもこんな家具類普段頼まないのに何かあったんですか?長いことこちらにいるのは知っていましたが、ついに定住決めました?てかやっぱりレーヴさんセンス良いですね!特にこのソファー!めっちゃ悩んでたみたいですけど買ってよかったじゃないですか!レーヴさんにぴったり!」

「・・・」




レーヴがお礼を言おうとしたにもかかわらず、見知らぬ猫のマシンガントークで遮られてしまった。

レーヴは黙り込んだまま固まっている。



「あら?そちら人間の方じゃないですか。珍しい」


泰一の方に目を向ける緑色の目は好奇心でいっぱいだ。



「仕事仲間の泰一だ」


溜息交じりにレーヴがそう答えると「へえ」と言いつつ目を細めた。品定めされているような気がするのは気のせいか。



「申し遅れました。私はにゃんでも屋のボエームと申します」

「にゃんでも屋?」


何でも屋の聞き間違いかと思いきや、ボエームは「そうです」と言い頷いた。



「弊社は色々な仕事を一手に引き受けております。今回で言うと夢と現実どちらでも使用可能な内装というご要望を頂きましたので、腕によりをかけてご準備させていただきました。いやー、こんなに急ピッチ作業は久しぶりだったので腕が鳴りましたね!しかもレーヴさんがまた色々こだわりがあるものですから、間に合うかひやひやしましたよ!」

「は、はあ・・・」

「現実サイドでお使いになられるのは泰一さんですね!いやー、正直羨ましい!私が大金はたいても買えるかどうかわからないものばかりご購入されておりましたから!あ!そろそろ次のお客様の所へ行かないと!ではまた!」



そういってお辞儀をすると消えていってしまった。マシンガントークの強烈な印象を残したボエームがいなくなると暫しの間沈黙が流れる。ボエーム曰く、この増えた家具類は全部レーヴの自腹ということだ。自腹・・・。



「なんだ?」

「いやなんでも・・・」

「家具に関してはさっきボエームが言った通りだ。現実に干渉することはハデス様の眷属であるものはできん。そういう制約だ」

「さっきのボエームはできるのか?」

「できるが、あやつは自由気ままゆえこういう仕事には向かん」



嫌そうな顔をしているレーヴは、ボエームのことが好かないのかもしれない。でもボエームはそうではなさそうだった。泰一のことを品定めするくらいにはレーヴのことを気にかけている。それは背後にいる誰か違う神の差し金かもしれない。考えすぎかと思っていると壁が光り始めた。



「次のお客様だ」



レーヴがそう言うと、夢の本屋に新たなお客様がやってきた。











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