昔話と将来の夢




そんな話をしていると、昌平がカレーを食べ終わったタイミングで皿が引き下げられ、食後のブレンドコーヒーが運ばれてきた。一口飲んで息を吐く。



「・・・久しぶりに会ったってのに暗い話をしてごめんな」

「いや、いいよ」



さっきまでとは違いしんみりとした空気になる。昌平は飲んでいたコーヒーをソーサーの上に置くと珈琲を見ながらボソッと呟いた。



「泰一って昔から誰にも言えないようなことを言いやすいんだよなー」



カップの縁をなぞりながら言う昌平はどことなく懐かしそうな顔をしている。



「そうなのか?」



泰一自身はしっくりこない。誰にも言えない秘密を伝えられたことなんてあったかな・・・。首を傾げていると昌平は驚いた顔をしている。



「知らなかったのか?結構皆に頼られてたじゃんか」



昌平にそう言われても全然しっくりこない。昌平がいない間に偶にクラスメイトが話しかけてくることはあったが、皆それぞれ愚痴だったり相談事だったり、はたまた勉強を教えてとかだったり、便利屋のような役割で、誰にも言えない秘密を伝えられることはなかったような気がする・・・。



「都合の良い相手としか思われていないかと・・・」

「そんなわけあるかっ!俺らの中では何かあったら泰一にまず相談するっていう暗黙のルールがあったぞ」

「なんだそれ」



呆れながら言うも、泰一自身覚えがない。そんなことを考えている泰一とは裏腹に昌平は楽しそうに話している。



「泰一に言ったら何でも良い方向に解決するからな。いっつも本読んでるから他のクラスメイトより大人びて見えてたし、なんかかっこよかったんだよなー」



屈託のない笑顔で言う昌平に、尚首を傾げながらも、皆がそれでよかったなら良いかと思い珈琲を一口飲む。つられて昌平も珈琲に口をつけると目を見開いて驚いている。



「ここは珈琲も美味しいな」

「ああ、カレーの隠し味に珈琲の粉を入れているから拘ってるんだ。企業秘密だから何を使っているのかは教えてくれない」

「へー、気になるな」



珈琲を見ながら顎に手を添える昌平の瞳が輝いている。



「それはマスターを口説いて教えて貰うしかないな」

「腕が鳴る」

「営業の腕か?」

「まあそうだな。今まで培ったものは無駄じゃなかったということかな」

「良かったな」



笑う昌平を見て、カレーには人を幸せにする力があるというマスターの言葉は本物だなと思い微笑む。



「それにしても泰一に声かけられて驚いたよ。俺、昔と顔つき変わってないのかな」



つい最近小学生の頃の昌平に会ったから面影がある人が歩いてきて気づいたとは言えない。



「最近アルバム整理した時に偶々小学生の卒業アルバムを見ていて面影があったからな。雰囲気は昔と変わらないぞ」

「そうか?俺悲壮感に溢れてなかったか?」

「ぶっ・・・、悲壮感・・・」

「わ、笑うとこじゃねえだろ!?」

「いや、ごめんごめん。まあ確かにそうだったけど、今は元気そうで良かった」



そう言うと昌平はキョトンとした顔をした後ににやりと笑った。



「それは泰一に会ったからだろうな。昔と変わらないのはお前もだ。皆の頼りになる泰一が健在で何よりだよ」

「あ、そう」

「反応薄っ!」



声をあげて笑う昌平につられて、泰一も笑った。

昌平の笑顔は小学生の頃と変わらない。その笑顔でこれからも乗り越えて行けるだろう。



「それにしてもなんで他の人を庇ってるってわかったんだ?」

「昔のことを思い出してね・・・。僕が上級生に絡まれた時昌平は低姿勢だったのに、昌平が一人の時はぼこぼこにやっつけてて、強くて感心したし驚いたよ。そんな昌平が今回は何もせずに引き下がっているということは何かあったのかと思って。会っていない間に性格が変わっていたら僕の推理は外れに終わっていたと思うよ」

「ははっ!まあ性格はあんまり変わんないだろ。しっかし泰一には悟られないように気をつけて喧嘩してたけど、今それを言われるとなんか隠してたことが恥ずかしくなるな・・・。それにそんな風に推理しているのを聞くと探偵みたいだ。いずれシャーロックホームズにでもなるのか?」



揶揄いつつ珈琲を飲む昌平は昔の調子をとり戻している。こんな風によく揶揄われていたなと懐かしい。



「シャーロックホームズにはならないな。町の本屋店主にはなるが」

「へえ。昔からの夢を叶えたのか」

「夢?」

「ああ、小学生の時に将来の夢っていうタイトルで本屋を開きたいって書いただろう」

「覚えてないな・・・、そんなこと言っていたか」

「ああ、あの時から泰一は真っ直ぐだった。誰に何を言われようとも自分がこうだと思ったものに全力投球で、母親にもよく『泰一君のように芯のある子になりなさい』と言われたもんだよ」

「そうだったのか。僕はただ、やりたいことをやってきただけだ」



話しているうちに徐々に昔話に花が咲き、あの時はこうだったとか昌平が転校した後にこういうことがあったとか思い出話を繰り広げていた。時間があっという間にすぎ、そろそろと腰を上げたところでカウンターで常連と話すマスターに昌平が声をかけた。





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