隠れ家喫茶、カシェット



カランカラン


一見お店とは見えない重厚な鈍茶色の扉を開ける。



「ここは・・・?」

「あー・・・、隠れ家喫茶店かな」



不思議そうに周りを見渡している昌平に笑いかける。泰一のお気に入りの場所だ。



「泰一が誰かを連れてくるなんて珍しいな」



入ってすぐ右手にいるマスターの近藤昭が磨いていたグラスを置いて、こちらに微笑みかける。



「ようこそ、カシェットへ」



カシェットはこの町へ来てすぐに見つけた店だ。住宅街を通り抜け、人通りの少ない商店街の奥まった場所にあるこの店は常連の客しか来店しないと聞いている。そこに初めて訪れた泰一にマスターは初め目を丸めていた。「どうしてここがわかった」と言われたのがつい昨日のように思える。泰一はただこういう場所を見つけるのが得意だとしか言いようがない。

昔からお洒落なカフェよりも、純喫茶やそこにお店があるとわかりづらいお店に行くことが多かった。華やかな場所には縁がない故に、隠れた場所を見つける能力に長けたというだけだ。全体的に茶色で統一された店は年季が入っているものの、一つ一つが大切にされていることがわかり落ち着く。



「いつもの席空いているよ」

「ありがとうございます」



いつもの席というのは右手奥にあるテーブル席だ。一つしかない故に人目につきにくいのでお気に入りだ。マスターや常連さんと時々カウンターで話す時もあるが、大概一人でこの席に座ってご飯を食べたり、本を片手に珈琲を飲んだりすることが多い。席に着くとすぐにマスターが水とメニューを持ってきた。



「ご注文の際、お呼びください」

「はい」



マスターがカウンターへ戻っていくのを見て、メニューを開いた。



「この店落ち着くな」



周りをきょろきょろ見回していた昌平は泰一に向かって微笑む。



「だろ。ここのオリジナルカレー美味しいぞ。あとブレンドコーヒー」

「じゃあそれにしようかな」



メニューを見ながらもオススメしたものに落ち着き、マスターを呼んで注文した。カウンターから時々物音が聞こえるが、心地良いジャズピアノのBGMが流れている。泰一は昌平から話しかけられるまで待っていようとジッと彼を見ていた。


昌平はその視線に気づいてはいるものの中々言い出すことが出来ずにもぞもぞしていたが、意を決し動きを止めた。





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