偶然の出会い
朝食を食べ終わって洗い物をした後に、郵便物を見ると母からの手紙が入っていた。初めは泰一の体調を気にする文面や実家の近況を書いていたが、次第に泰一に彼女がいないのか、いないのであればお見合いはどうかという文面に変わっていった。最終的にはお見合い相手となる人たちの写真が同封されており、頭を抱えた。
「とりあえず返事を・・・」
足元が覚束ないまま、よろよろと書斎に向かう。
ドアを開けると左右の壁一面に広がる書棚と目の前にはヴィンテージで重厚感がある書斎机がある。机から紙と封筒、万年筆とインクを出す。始めに近況を書いて後に丁寧にお見合いはしないと書いた。
こういうことは電話で話した方が早いと思うが母は電話よりも手紙という古風な考えの持ち主だ。元々お嬢様育ちらしく、電話を使い始めたのは父と結婚してからと言っていた。それまでどうしていたのかと聞いたら、やり取りは全て手紙だったと言われ、父からの手紙を自慢げに見せてくれた。それを見た父が真っ赤な顔になりながら隠していたのを覚えている。小学生ながらに父と母の仲が良いなあと思いながら見守っていた。
それ以来、母には急ぎでない限り手紙を書くようになった。その手紙全てを手元に残していることを考えると恐ろしいが、嬉しそうにしているからよしとしよう。封筒に宛先と自分の名前を書き、切手を貼った。いつまでも返事しないと勝手にお見合いをセッティングされそうだ。早々に出そう。
風呂に入って着替え、部屋を出た。
朝の十時だからか店から出たときよりも人通りが多い。家の真下にあるポストに投函した後、少し散歩しようと思い歩いていると、先ほど夢の本屋で出会った昌平に似た人が歩いてきた。視線が下に向いているからか項垂れているように見える。彼が引っ越しした小学生以来会っていないのでもしかしたら人違いかもしれないけど・・・。
「あの、すみません・・・」
普段なら歩いている人に声をかけることはしないが、なぜか妙に気になってつい声をかけてしまった。
「はい・・・?えっと・・・?」
昌平に似ている人物は誰だかわからず戸惑っているようだ。泰一であっても道端でいきなり声をかけられたら訝しく思う。
「もしかして昌平?覚えてないかな?小学校のとき同じクラスだった平山泰一」
なるべく変だと思われないように自然な感じで言うと、昌平は目を見開いて、「ああ!」と驚いた声を出した。どうやら覚えていてくれたようだ。内心ほっとする。
「久しぶりだな!元気にしてたか?」
「ああ、昌平は?」
「俺はまあまあだな・・・」
苦笑いをしつつも鼻を指で擦る癖。それは何か隠し事をしている時の癖だ。昔と変わらない癖に顔が綻びつつも、何かあったのか不安になる。
「何かあった?」
そういうと昌平の顔は苦笑いをしている顔から、くしゃっとした今にも泣きだしそうな顔をして顔を下げた。あまりにも辛そうな顔をしている昌平は、昨日会った幼い顔とは違い大人の顔に成長していると同時に疲労が溜まっている顔をしている。何も言いださない昌平の肩に手を置いた。
「ちょっと付き合ってくれないか」
泰一がそう言うと昌平は一つ頷いた。
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