横柄な猫
「レーヴ!上にある本がとれないよ!」
そういう昌平が指をさしているのは、一番上の棚にある『ぼうけん』と書かれた本だ。
「その書籍のタイトルを言えば、手元に降りてくる」
泰一を睨んでいた鋭い視線とは違い、優しい目で昌平を見つめている。何もわからないまま来た泰一にも優しくして貰いたい。そう思いながらレーヴを見ると、益々鋭い目を向けられた。
もしかしたら心の中を読み取られているのかもしれない。
「わかった!『ぼうけん』!」
昌平がレーヴに教えられた通りにすると、手元に『ぼうけん』の本が降りてきた。昌平の目はキラキラと輝いている。さっそく本を開こうとしたが、開けないようだ。
「レーヴ、これ開かないよ・・・?」
「まだ君からお代を頂いてないからね。こっちも無料で売っているわけじゃないさ」
「お代ってなに・・・?僕、なにも持ってないよ」
急にそんなことを言われたからか、昌平は不安そうな顔をしている。
それはそうだ。夢の本屋だから何もいらないだろうと泰一も思っていた。
「大丈夫。僕が君から貰うモノは記憶さ」
「記憶?」
「そう。君の中にある記憶がお代になる。これから生きていく君にとって必要ない記憶さ。その本と一緒にあの光のもとへお行き」
レーヴがそういうと、昌平が来た時のようにコンクリートが光った。
「わかった!レーヴ、お兄さん、じゃあね!」
手を振る昌平は光に吸い寄せられて本と共に消えてしまった。
「これはいったい・・・」
唖然とした表情をしていると、レーヴがため息をつくと、先程のように鋭い目線で泰一のことを見ている。
「最悪だ。お前が条件に追加されてしまったではないか」
「条件?どういうことだ。ここはなんだ?」
レーヴは飄々と歩いて、ひょいっとレジ台へジャンプした。椅子に座っていた泰一と向き合う形になる。整えられた美しい毛並みに、金色の瞳をした茶トラ猫。益々あの猫に見えてくるが、目の前にいるレーヴは態度がでかい。紳士と言う言葉からはかけ離れている。
「さっきも説明しただろう。ここは夢の本屋。現実と夢の狭間の空間で夢を売っている。ここに来る客は、死を望む者たちだ。その者たちの死を望む記憶と引き換えに、夢の本を売っている」
「は・・・?死を望む者・・・?じゃあ昌平も?」
「ああ、そうだ」
小学生時代の友達だが、自分の知っている人が死を考えているのは、何とも言えない気持ちになる。昔の昌平の事しか知らないが、そんなことを考える人間ではなかった。
「今までは死を望む者で、尚且つ死に一番近い者がここに来ていた。それはハデス様が選んだ者たちだ。だが今日、平山泰一、君がいたことで条件が変わった」
「僕?」
「ハデス様の気まぐれか、なにかわからんが、泰一が今まで出会ったことのある人達で死に近い者がここを訪れるという条件だ。しかも君が店員としてここで働くことが決定した」
「拒否権は・・・?」
「ない」
そうハッキリ言われて、顔が引きつる。
「拒否権がないかわりといってはなんだが、君の本屋への嫌がらせは辞めることにしよう」
レーヴがそういうと段ボールの中に入っていた本が飛び出してき、それぞれの棚の中へ収納されていった。
「他にも必要なものを揃えておく。今日は帰れ」
そう言われると視界が歪み、暗闇へとフェードアウトしていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます