プロローグ②






そうして念願の店の内装諸々が完成したのは一ヶ月前。

個人で本屋を営んでいる友人や知り合いに相談して、建築関係の仕事に就いている友人を紹介して貰えたおかげで色々融通を利かせて貰い、なんとか完成したお店には満足している。


外側はガラス張りでドアは中央にある。レジは入ってすぐ右手の大きく窪んだスペースにあり、左手には天井まで届く木製の本棚が四つ並んでいる。レジと本棚の間には年代物の大きな机が二つ置いている。その上には照明の裸電球が三つずつ平行に並んでいて、床と壁はコンクリートだ。本のストックはレジに入る左横のドアを開けるとスペースがあるのでそこに入れる予定だ。


セレクトした本が届き、どこに置こうかと思いながらヴィンテージの机の上に一旦置く。ああでもないこうでもないと試行錯誤しながら、これでいいと思い一棚ずつ完成させている。


が、翌朝店に戻ると全ての書籍が段ボールの中へ戻っているのだ。それだけでも不思議だが、自らが決めた配置の記憶がきれいさっぱりなくなっている。



「どういうことだ・・・」



初めのうちは誰かが悪戯をしたのではないかと思っていた。しかし店のドアを閉め、シャッターを閉めてから帰宅する為それはありえない。他に通用口があるわけでもないので密室状態だ。それに加えて配置の記憶がないのも不思議だった。疲れがたまっているのではないかと思い、一日ゆっくり休んでから作業にとりかかったものの、同じ状況が起きた。

一週間この状態なのは不自然だ。しかしここではそのようなことが珍しくないと不動産屋が言っていた。破格で売っているのもそれが理由だという。



「あそこ、出るんですよ」

「出る?何が?」

「幽霊ですよ!不思議なことばかり起きるんです!」

「不思議なこと?」

「ええ。以前契約していただいた方が内装工事をしていた時の話ですが、工事が進まなかったそうなんです。というのも昼間に工事をして、翌日続きをしようと思っても全て元通りになっていて、全く進まないとのことでした。それが原因で解約されてしまいました」

「はあ・・・」



そういう類を全く信じない泰一は聞き流していたが、このようなことが起きてしまっている以上幽霊はいるのかもしれない。



「もうあれしかないか」



この店に泊まるしかない。帰るまではそのままなら、帰らないまま作業を進めればいいのではないかという考えである。そういう理由でこうして深夜に本を並べる作業をしているわけだが・・・、



「(昼寝したのに、眠い・・・)」



さきほどから欠伸が止まらない。少しだけ休憩するか。レジ側に置いている足の長い木の椅子に身体を預けて溜息をつく。足の長さを高く作って貰った長細いレジ台と足の長い木の椅子は相性が良い。左側に置いている黒のレジはシックでお気に入りだ。



「今のところはなにもないけど・・・」



順調に進んでいる準備に満足しながら、後ろに設置した左右に長い長押に置いた水筒に手を付ける。平行に三つ設置してみたが、なかなかいい感じでここにも本を置く予定だ。水筒をあけて、少し冷めた珈琲を飲む。

人に言われるまで気づかなかったが重度のカフェイン中毒らしい。一日三回は必ず珈琲を飲む。それ故に美味しい珈琲を求めて店を探すことも多く、友人からしばしば珈琲の美味しいお店を尋ねられる。



「さて、やるか」



水筒を締めて独り言を言う。ずっと一人だからか、独り言を言うのが癖になってしまった。これも歳かな、と思いながら立ち上がろうとすると、目の前がぼやける。



「(ねむ・・・い、のか・・・?)」



不自然だなと思いながらそのまま意識を手放した。







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