2.
結論から言うと、水無月はかなり厳しかった。
「教師にはなれねえなって思った」
自分で教師という選択肢を消すくらいには、水無月にも教えるのが下手だという自覚があったようだ。蓮は本当に疲れ切っていた。
「蓮はあれだな。文法がおろそかなんだな。基礎がなってないから、咄嗟に答えられない。雰囲気で英文読むのやめろ。俺達は日本語が第一言語であって、英語はどうあっても第二言語以上にはなりえないんだから」
水無月の指摘はどこまでも的確で、蓮は返す言葉もない。英語に限らず、多くの教科の成績が振るわない蓮には、耳の痛いことばかりだった。
勉強するために眼鏡をかけた水無月が、プリントの束で軽く蓮の頭を小突く。
「わっかりました……もう無理、二度と英文見たくない」
「明日も夏期講習だぞ」
「ねえその現実突きつけんのやめてくれない? あ~そうだ、絵も描きてえ」
蓮は鞄からスケッチブックを取り出し、思いつくままに、今食べたい果物を描いていた。それをじっと水無月が覗きこむ。
「りんごとバナナ? 何で?」
「や、今日どこだかで夏祭りやってんだって。それで、りんご飴とかチョコバナナとか、食べたいなって思ってさあ」
「……それって、うまい?」
ぼそり、と水無月が呟いた。
「りんご飴はちょっと食べづらいけど、外の飴のパリパリと中のりんごのシャキシャキ感で甘酸っぱくておいしいし、チョコバナナはチョコとバナナだからうまい」
「説明雑」
口ではそう言いつつも、水無月は手元のスマホで夏祭りの開催状況を調べている。
「まあ、りんご飴はないこともあるけど、チョコバナナはほぼ確実にあるし、夏祭り覗いて――、あ、人混みダメか。じゃ、あれだ、オレが買って届けるから、近くで待ってればいいんじゃん?」
「ダメなのは、人混みじゃねえけど、避けたいのは事実。さすがにそこまでさせるのは悪いだろ」
「いや、英語教えてもらった礼ってことでいいじゃん」
「え、おまえって、こんなときだけそういう発想すんのか。変わってんな」
「変わってないって。言うなら兄貴のが変わってるからな。あの人、ポテサラにソースかけるんだぜ」
「ポテサラにソースは、案外いけるよ」
水無月は、どこか脱力した風で、勉強道具を片付け始めた。
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