4.
ここ、と水無月悠が小さなアパートを指差したときだった。水無月悠の白銀の髪に西日が当たり、きらきらと輝いていた。ブルーサファイアの瞳が、蓮を見据えている。この人を絵に描きたい。心から、そう思った。
日光よりも、西日よりも、白と青の混じる月光が何より似合う。ありていに言えば、見惚れた。これを、描きたい。
「じっと見て、何考えてんの。お礼もせず返すほど、俺はアホじゃねえから、さっさと入れよ。飯くらい作ってやるから」
連の視線を捕まえて、ぶっきらぼうに水無月悠は言った。かなり口が悪い。
「いや、飯は、家に今日食べなきゃなんない作り置きあるから、いいんだけど。ちょっと話はしたい」
そう、とだけ言って、水無月悠は蓮を招き入れた。蓮は上の空のまま、それに従って、小さなテーブルの前に座った。見渡してみれば、兄と住んでいたマンションより狭いし、物が安っぽい。金がかかっているのは本だけ、といったところか。
「暑いから麦茶でも飲んでけば」
水無月悠は、コップに麦茶を注いで手渡してくれた。礼を言って受け取り、蓮は麦茶を口に含んだ。
「生き返る~」
思わず声が漏れて、蓮は気恥ずかしくなった。兄の葬儀でも思ったが、水無月悠は精巧な人形のようだ。美少年の人形と言われてもおかしくない。そんな水無月悠の前で、生活感のある声を出してしまったのは、何だか負けた気になる。
「暑さ程度じゃ人は死なねえよ」
ぼそり、と水無月悠が言って、麦茶を飲み干す。
今だ、と思った。
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